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あなたの街は大丈夫?〜「受動喫煙」対策不備「50万円の罰則」は官公庁にも

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 改正健康増進法では違反者に対し、50万円以下の罰則が適用される。2019年7月1日の一部施行では、学校、病院、官公庁などの行政機関の屋内・敷地内が禁煙となる。現在、地方自治体などは大慌てで対策を立て始めた。

第一種施設は敷地内禁煙が原則

 受動喫煙を防ぐために改正された健康増進法の一部施行が粛々と進められている。すでに2019年1月24日からは、国及び地方公共団体に対して受動喫煙が生じないようににする意識啓発などの努力義務が、また喫煙者と喫煙場所設置者に対して受動喫煙が生じないように配慮する義務が課せられた。

 そして2019年7月1日からは、学校や病院、官公庁といったいわゆる第一種施設で建物内を含む敷地内禁煙が施行される。改正健康増進法の全面施行は2020年4月1日からだが、これらが先がけて実施されることになっているというわけだ。

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改正健康増進法の施行期日について:厚生労働省

 特に7月1日からの第一種施設への施行では、敷地内を禁煙するように求められているから各行政機関はその対応に追われている。すでに2018年中から敷地内の全面禁煙に向け、動き出している自治体もあるが、多くは敷地内を全面禁煙にすべきか、それとも一定の条件で認められている敷地内の屋外喫煙所を設置すべきか、迷っている状況だろう。

 改正健康増進法では、第一種施設でも原則として敷地内禁煙であるものの「受動喫煙を防止するための必要な措置がとられた場所」に喫煙場所(特定屋外喫煙場所)を設置することができるとされている。ただ、この例外があっても第一種施設では敷地内全面禁煙をするようになっている。

 では、この特定屋外喫煙場所とはいったいどんなものなのだろうか。それは以下の通りだ。

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 つまり、喫煙が可能な場所とそうでない場所が明確に区画されていなければならず、特定屋外喫煙場所というような標識を目立つように掲示する必要があり、第一種施設を利用する人が普段、立ち入らない場所に設置しなければならず、それは近隣に影響を与えないような場所にしか設置できないということになる。

 特に近隣への影響を考えれば、このような場所が実際にあるのかどうか疑問だ。そのため、訴訟リスクや批判などを事前に回避するため、慎重な行政機関は今のうちに敷地内から喫煙所や灰皿を撤去し、全面禁煙に動き出したところも多い。

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第一種施設でも罰則の対象

 改正健康増進法では、法規制の義務違反に対し、50万円以下の過料が科せられることになっている。これについての対応も決められていて、喫煙者が違反した場合、まず施設の管理権原者などが喫煙禁止であることを告げて禁煙場所からの退出を求める。それでも要請に応じない場合、都道府県知事などの指導・命令によってさらに改善を求める。それにも応じない場合、最終的に30万円以下の過料が科せられることとなる。

 喫煙者より施設の管理権原者などへの罰則のほうが厳しい。禁煙場所に灰皿などを設置している場合、まず知事などによる指導を行い、改善されなかえれば同様に知事などによる勧告や命令を行う。それに応じない場合、最終的に50万円以下の過料が科せられることになる。これは第一種施設の管理者に対しても同様で、市役所などの敷地内に喫煙所が設置されていて受動喫煙の被害が出れば、市に対しても50万円以下の罰則が適用される可能性があるわけだ。

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改正健康増進法:受動喫煙防止対策の義務違反時の対応:厚生労働省

 ただ、厚生労働省では、罰則の適用よりもまず受動喫煙防止について意識してもらい、法令を守ってもらえる環境を整えていくことが重要と考えているという。もっとも、罰則の対応段階をみればわかるが、即座に適用されにくい仕組みになっているし、いったいどんな機関が取り締まるのかあいまいな状態なのも確かだ。

なぜ議会や裁判所が例外なのか

 ところで、7月1日から施行される第一種施設には、国会などの議会、裁判所は入っていない。これらは第一種施設以外の第二種施設とされ、改正健康増進法の施行は2020年4月1日からとなっている。

 この法改正にあたり国会で議論があったが、2018年5月1日に初鹿明博議員が国会を第一種施設から除外した理由について政府に質問書を出した。政府は「『国会及び国会議員の事務所』については、前者(第一種施設)に該当しないため、第二種施設としている」と回答したが、いつも通り意味不明の答えとしかいいようがない(かっこ内の第一種施設は筆者が加筆)。

 2018年7月5日の参議院厚生労働委員会では、薬師寺みちよ議員がなぜ国会や裁判所が第二種施設になったのか質問している。これに対し、当時の加藤勝信厚生労働大臣は「基本的には、子供さんとかがん等の患者さん等々が主として利用する施設、こういったものは第一種にしていくということ。〜しかし一方、そうしたことに必ずしも該当しない立法や司法の機関については第二種施設というふうに、こう切り分け〜、この第二種施設であります立法等においては、それぞれの機関において御判断をいただければというふうに考えております」と同じように答えになっていない答弁をしている。

 厚生労働省に確認したところ、地方自治体の行政機関は第一種施設となり、例えば市庁舎の中に県議会や市議会などがあった場合、そこが他の施設と明確に区切りがあれば第二種施設となって2020年4月1日までは市庁舎の屋内内であっても、議会でタバコを吸ったり喫煙所を設置するのは可能だということだ。また、国以外の行政機関については加藤前厚労相が述べたように、それぞれの機関で話し合って決めていくことになる。

 ただ、議会にせよ裁判所にせよ、子どもや病人が来場することがないわけではない。受動喫煙防止の観点からいえば、議会はいうまでもないが、大阪高裁や名古屋高裁のように司法機関においても敷地内全面禁煙にすべきだと思う。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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