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藤井聡太叡王(19)今年度も好発進! 叡王戦五番勝負第1局、出口若武六段(27)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月28日。東京都千代田区「江戸総鎮守 神田明神」 において第7期叡王戦五番勝負第1局▲藤井聡太叡王(19歳)-△出口若武六段(27歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は18時20分に終局。結果は93手で藤井叡王が勝ちました。

 藤井叡王は叡王位初防衛に向け、幸先よく1勝をあげました。

 第2局は愛知県名古屋市・名古屋東急ホテルでおこなわれます。

 タイトル戦初登場で、本日誕生日だった出口六段。タイトル戦初勝利はなりませんでした。

 両者ともに棋士になって以来の対戦成績は、藤井3勝、出口1勝となりました。

藤井叡王、中盤の長考合戦を制す

 藤井叡王は3月9日、B級1組最終戦で勝ち、A級昇級を決めました。

 ファンの前に姿を見せての公式戦対局は、B級1組最終戦以来、50日ぶりとなります。

藤井「かなり前回の対局から期間があったので、やってみないとわからないところもあるかなとは思っていたんですけど。始まってからは普段どおり指すことができたのかなとは思います」

 藤井叡王先手で、戦型は相掛かり。出口六段が飛で相手陣の歩を取る研究手を見せ、難しい戦いとなりました。

 10時のおやつでは、藤井叡王は不二家洋菓子店の新作「春摘み苺のドルチェ」を注文していました。

藤井「10時の段階ではかなり、すでに戦いが起こっていたので、なかなかゆっくりいただくという感じではなかったんですが。ただ、戦いの合間であっても一つの楽しみというか、息抜きとしていただくことができました」

 出口六段は午後に同じ手、春摘み苺のドルチェを頼んでいました。

藤井「こちらが序盤から動いていけるかどうかという将棋だったと思うんですけど。ちょっと中盤、手の組み合わせが難しくて。本譜は少し自信のない展開になってしまったのかなと思って指していました」

 出口六段が歩を2枚得したのに対して、藤井叡王は歩を1枚渡して攻めます。出口六段は都合3歩得となりました。飛車を遠く9筋に回った藤井叡王は35手目、2筋に歩を合わせて打ちます。

藤井「本譜、▲2四歩を入れずに▲6五桂と跳ねるか。▲2四歩打ってしまうと攻めが細くなってしまうのであまりよくない変化を選んでしまったかもしれないなと思っていました」

 出口六段が36手目を考え、12時、昼食休憩に入りました。

 13時、再開。出口六段はさらに考え続け、昼食休憩をはさんで1時間5分を使った上で、打たれた歩を取ります。持ち時間4時間(チェスクロック方式)の本棋戦では、かなりの長考と言ってよいでしょう。

出口「ちょっと無理気味に動いてしまったかなという・・・。昼休あたりは(相手に)動いてこられるのかな、とは思っていたので。うーん、でも考えてもなんか、代案が浮かばないというか。結局、一番最初に読んだ筋にいってしまったのは、ちょっとよくなかったかもしれないですけど、うーん、(相手が)一歩捨てて攻めてきているので、なんかしっかりした手があってもいいのかな、とは思っていたんですけど。うーん、いやでも、ずっと考えてもわからなかったので。まあでも歩得ですけど、まとめるのが。手損なので、大変でしたかね」

 対して37手目。藤井叡王は中段に桂を跳ね出す決断の一手を見せました。消費時間は58分です。

藤井「(37手目▲6五桂に代えて▲2四)同飛車だと二歩損が残ってしまって、9三の桂も△8四歩から△8五桂とかでさばかれてしまうので、少し自信がないのかな、というふうに思って」

 まだまだ続く長考合戦。出口六段は桂取りに飛車を引くのに1時間14分を使いました。

出口「いやちょっと違う展開を描いていたんですけど、うーん、そこで誤算に気づいて、違う展開の方に。いやちょっと、本譜では苦しいかなとは思っていたんですけど。一番息が長く指せる順が本譜かなと思って。(△7五飛と)引いてしまったら(△6五飛と)切るしかないんで。引いたあたりで誤算に気づいたというか」

 駒が振り替わって飛角交換。コンピュータ将棋ソフトによる形勢表示ではほぼ互角ですが、出口六段にとっては自信の持てない進行だったか。藤井叡王はうまく出口陣にスキを作り、飛車を打ち込んでリードを奪いました。

 65手目。藤井叡王は自陣に攻防の香を打ちます。

藤井「少しよくわからなかったんですけど▲7七香と打ったあたりは、こちらの玉を安全にすることができたので、そのあたりから指しやすくなったのかなと思います」「そのあたりはすでに持ち時間が少なかったので、なるべく決断よく指そうというふうに思っていました」

 優位に立ってからの藤井叡王は、いつもながらのゆるみない寄せでした。93手目。藤井叡王は金を取りながら、王手で桂を取ります。

「40秒、50秒、1」

 出口六段は駒台に右手を添える動作で一礼。「負けました」と投了を告げました。

藤井「本局、久しぶりの対局でけっこう途中、少し時間を使ってしまったところもあったと思うので。第2局以降、そのあたりをまた修正して戦えればと思います」

出口「本当によい環境で指させていただけましたし。ごはんとか、泊まるところも、全部ありがたいものだという認識ですね。いやちょっと、将棋の方をもうちょっとちゃんと指したかったな、というのはあるんですけど。慣れない部分がやはりあったかな、という印象ですね。この2日間、振り返ってみると。ちょっとずつ慣れていかないといけないな、というところもありました。息が長く戦えたというのは・・・。まあでも、もう少し内容をよくして次を迎えたらと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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