右肩上がりのNTTコムが王者サントリーに挑戦。白星に必要なものは。【ラグビー雑記帳】
前年度優勝のサントリーは、9月2日、東京・秩父宮ラグビー場での第3節で同2位のヤマハと激突。試合終了のタイミングまでもつれ込んだ接戦を、スタンドオフの小野晃征の逆転トライなどで27―24と制した。
就任2年目の沢木敬介監督は「完全に負け試合のなか、最後まで諦めずにトライを狙うハングリーな部分は良かったと思います」と淡々と述懐する。
ヤマハの激しさと規律の保たれた防御に対してややミスを重ね、試合終盤に勝ち越され、それでもノーサイド直前に30フェーズ近くの攻撃を全うして勝ち切った。そのさまには、伸びしろとたくましさが共存していたようだ。
かねて指揮官は、「ピーキングはありますが、負けていい試合は1つもない」と話していた。「ピーキング」の対象であったろうヤマハ戦を経てどんな第4節を演出するだろうか。
トップリーグに初年度から参画して通算3度の優勝を果たしてきた老舗のサントリーに対し、今度挑むのがNTTコム。リーグ参戦7季目にして、加速度的に成長する新興クラブだ。
人気大学のリーダー格と発掘された才能にバランスよく声をかける採用計画も奏功させ、選手層を拡大。直近の順位を「13→8→8→5」と上げ、現在上位争いをするチームのある主力に「数年以内に優勝を争うのでは」と言わしめている。
今季も、第3節で日本代表ナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィを休養させながらここまで2勝1敗とする。特に東芝との第2節では、各国代表の総攻撃に耐えて今季初白星を獲得。飛び出す防御の後方に短いキックを蹴るなど好判断を重ねたスタンドオフの小倉順平は、「きょうは攻めを重視。チーム皆が恐れずやったのがこの結果に繋がった」と話した。
グラウンドでは、両軍の攻撃が注目される。どちらも左右いっぱいに陣形を広げ、球を触らぬ選手を含めた各人の機能的な動きで防御のスペースを作り出さんとする。
特に、順位の上ではより挑戦者の趣が強いNTTコムにとっては、サントリーの素早いタックラーの起き上がりよりも先に攻めるスペースを見つけ出したい。そしてサントリーのタックラーをその場に滞留させるには、ランナーやサポート選手の接点での粘りは不可欠だ。元オーストラリア代表のボールハンターであるジョージ・スミスをナンバーエイトに置くサントリーに対し、NTTコムのフォワード陣がどこまで下働きを全うできるか。
サントリーの沢木監督は、ヤマハ戦で勝ち越された場面を「少しずつソフトな選択をしてしまい、それが積み重なった」といった表現で反省する。確かに一連の動きのなかで、相手に向かってタックラーの後方や真横に大きな空洞ができていたような。タフなクロスゲームが、各選手の生来持つ危機感や反応速度を奪っていたのだろうか。
重圧のかかる局面でNTTコムがサントリーの「ソフトな選択」を誘うには、守備時も含めた1つひとつの局面で身体的な圧力を重ねてゆくほかない。ファンに派手な攻め合いを示すためにも、地上戦での激しさは必須となろう。マフィや南アフリカ出身のヴィリー・ブリッツのぶちかましが、今季初先発を6名も並べたサントリーにトラブルを起こせるか。
<第3節私的ベストフィフティーン>
1=左プロップ
稲垣啓太(パナソニック)…球を持てば生来の突進力で防御の壁を押し込み、時折、正確にパスをさばく。
2=フッカー
日野剛志(ヤマハ)…序盤からスクラムをリードしてサントリーのパックを圧倒。突進役としても快速で魅す。
3=右プロップ
北島大(NTTドコモ)…防御の隙間を突っ切る突進のみならず、スクラムでの強力なせり上がりでコカ・コーラを苦しめた。
4=ロック
マーク・アボット(コカ・コーラ)…ラインアウトを安定させ、球を持てば効果的なゲインライン突破を連発。自陣ゴール前では相手を押し返すタックルも。
5=ロック
アンドリース・ベッカー(神戸製鋼)…相手ボールラインアウトでは再三のスティール。他の強靭なフォワードと一緒にチョークタックル(相手を掴み上げるタックル)も繰り出す。大外のユニットで球をもらえば相手とのミスマッチ(小柄な選手との1対1)を突いて推進。個性のチームスタイルへの適応。
6=ブラインドサイドフランカー
モセ・トゥイアリイ(ヤマハ)…王者サントリーとの接戦で、接点周りでの激しいプレッシャーを貫く。
7=オープンサイドフランカー
安藤泰洋(トヨタ自動車)…キックオフ直後の防御や抜け出した味方へのサポートで得点を陰から演出。自陣での守備局面でも力強いタックルを放ち、姫野和樹キャプテンとともに防御網を引き締めた。
8=ナンバーエイト
ホラニ龍コリニアシ(パナソニック)…ランナーとして防御の壁を押し込んだ。
9=スクラムハーフ
アンドリュー・エリス(神戸製鋼)…目の前の接点や後方の陣形を確認しつつ、スムーズにキックやパスを配す。ラインアウトからは、用意されたムーブで味方を走らせる。
10=スタンドオフ
ライオネル・クロニエ(トヨタ自動車)…グラウンド中盤で短いキックを蹴って自ら捕球したり、接点方向へのパス(内返し)を決めた直後に飛び出した防御の裏側ヘロングパスを放ったりと、多彩なスキルとクレバーな判断で攻撃を先導した。
11=ウイング
福岡堅樹(パナソニック)…グラウンド中盤左隅から右斜め前方へ突っ切るカウンターが見事。球をもらえば持ち前の加速力で防御の壁に突進。強く前に出た。
12=インサイドセンター
ティモシー・ラファエレ(コカ・コーラ)…パスをもらった瞬間、足元にとびかかっていたタックラーをひらりとかわす。
13=アウトサイドセンター
重一生(神戸製鋼)…トップリーグ初トライを記録。小柄ながら防御の壁へ低く潜り、ぐいぐいと前進。突破した味方へのサポートも怠らず。
14=ウイング
山田章仁(パナソニック)…東芝戦でスコアを12―10とするヒーナン・ダニエルのトライ時は、ゴール前中央でパスをもらった山田が防御の合間を裂き相手を引き付ける。相手のオフロードパスを奪っての独走トライも。
15=フルバック
松島幸太朗(サントリー)…ヤマハ戦。自らの立ち位置と逆方向にキックを蹴られても、余裕を持って追いつき着実に蹴り返す。前半終了間際には、防御網の間を抜きにかかった五郎丸歩をタックル。攻め手は「今日はステップを切っても抜けない日」とストレートランで防御の壁を突っ切らんとしていた。