小林可夢偉、F1におかえり!信じずには居られない「可夢偉」の倍返し!
「ケータハムF1チーム」が日本人F1ドライバー、小林可夢偉の2014年シーズン正ドライバーとしての起用を発表した。小林可夢偉は2012年に鈴鹿で開催されたF1日本グランプリで3位表彰台に立ちながらも、当時の所属チーム「ザウバー」の台所事情が影響する形でシートを喪失。昨年はF1復帰の望みをかけて、「フェラーリ」のGTプロジェクトである「A.F.コルセ」からWEC(世界耐久選手権)に参戦していた。2014年シーズンの復帰に向けたシート争いで苦しい立場に居ると見られていたが、今シーズンのF1シートをまだ発表していなかった「ケータハム」のシートを土壇場で掴んだ。まさに大逆転のチャンスを手にし、小林可夢偉は2年ぶりに「F1世界選手権」の舞台へと復帰する。
難しいと見られたF1復帰を実現した
今回の「小林可夢偉のF1復帰決定」で最も喜ばしいことは、彼が1年のブランクを経てF1のシートを掴んだ事だ。F1の世界は一度離れると、復帰するのが非常に難しい。近年では、ミハエル・シューマッハやキミ・ライコネンが数年のブランクを経てF1に復帰した例があるが、この2人はワールドチャンピオン獲得経験者であり、事情が特殊だ。他には「ロータス」のロメイン・グロージャンが2012年に3年ぶりにF1シートを掴んだ例がある。ただ、グロージャンの2009年はシーズン途中から突然の代役出場であったし、実質的には復帰というよりはルーキーだったと言える。さらにインド人ドライバーのナレイン・カーティケヤンが2011年、6年ぶりに復帰した例があるが、カーティケヤンもそれ以前は2005年に1年だけF1を戦ったのみで、本当に走り出すかどうか分からない状況のチームからの復帰だった。
チャンピオン経験者や実力は未知数の実質ルーキーのような存在ならば復帰の例はあるが、小林可夢偉のように3シーズンをフルで戦い、予選上位や表彰台も獲得した経験と実績のあるドライバーのフルシーズンでの復帰は近年はほとんど見られない。つまり、ある程度経験を積み重ねたドライバーは、再度レギュラーとしてのF1復帰が難しい。
ましてや小林は1年間、F1に匹敵するビッグパワーのトップフォーミュラではなく、フェラーリのGTカーでレースをするというシーズンを送っていたのだから、非常に特殊な復帰例となる。そのため、数週間前まで海外の有力メディアもシート獲得には懐疑的な見方を示していた。
チームは昨年、最下位。求められる経験と結果
小林可夢偉が2014年シーズンを戦う「ケータハム」は2010年に3つの新規参戦チームの中のひとつ「ロータス」として参戦し、2012年から「ケータハム」として参戦する今年が5年目となるチームだ。これまで10位以内での入賞(ポイント獲得)の経験はなく、常に同じ新規参戦の「マルーシャ(旧ヴァージン)」とのバトルに終始している。F1での経験とリソースが10年以上あるチームと今年で5年目のチームでは「格差」が大きく、その差はこれまでの4シーズンでほとんど埋める事ができなかった。昨年までの状況を鑑みれば、上位入賞は難しい環境と言える。
しかしながら、2014年はF1世界選手権の車両規定が大きく変わる。エンジンはこれまでの2.4L・自然吸気V8エンジンから、1.6L直噴ターボV6エンジンにERS(エネルギー回生システム)を併用した「パワーユニット」となり、いわばハイブリッドカーになる。ガソリンの使用量も著しく減らされるなど、昨年までのF1とは何もかもが大きく変わる。新規定導入後につきもののマシントラブルの頻発により、完走率が低くなることも予想されている。
また、パワーユニットは2014年はルノー、フェラーリ、メルセデスが供給するが、この3社で大きな差が生まれることも充分に考えられるので、昨年までのF1チームの勢力図は一変する可能性がある。そういう意味では、たとえ2013年が最下位の「ケータハム」であっても、今年は状況次第で上位に食い込む可能性が無いわけではない。下位チームにとってチャンスの年。それがまさに2014年の状況だ。
「ケータハム」は格安航空会社の風雲児として有名なマレーシア人のビジネスマン、トニー・フェルナンデスが作ったチームである。2010年〜2012年までは経験豊富なドライバーを起用し、F1の中で上位を狙う体制作りに情熱を燃やしていたが、トップチームとの格差はなかなか埋まらなかった。昨年はチーム資金の多くをスポンサー持ちこみのドライバーに頼った。資金はあるが経験の少ないドライバー2人を起用したがために「ケータハム」は2013年を最下位で終える事になってしまう。しかし、2014年はやり方を変えてきた。経験が少ないドライバー2人ではなく、1人は経験のあるドライバー。複数居た候補の中から選ばれたのが、小林可夢偉だった。
最後の最後までドライバーを発表しなかった状況を見ると、チームの台所事情は依然厳しいと見られる。しかし、経験のあるドライバーの選定の中で、3位表彰台の経験、これまでの印象的な走りの実績が小林のアドバンテージになったに違いない。逆に言えば、その分、「ケータハム」は小林にチームへの貢献と結果を大いに求めることになるだろう。
倍返しなるか? いつだって可夢偉はそうしてきたじゃないか
新規定のマシンがいっさい走り出していない中、小林可夢偉の2014年シーズンを占うのは難しい。しかし、ポジティブな見方をするならば、「ケータハム」が使用するパワーユニットは「ルノー」であること。同社のものを使用するのは「レッドブル」「ロータス」「トロロッソ」そして「ケータハム」の4チーム。2010年から4年連続でワールドチャンピオンを獲得している「レッドブル」に積まれるパワーユニットだけに失敗が許されない。もちろん最優先はルノーの実質ワークスチームである「レッドブル」となるが、「ケータハム」と小林可夢偉はその相乗効果に乗っての大逆転を期しているはずだ。こればかりは始まってみないと分からないが。。。
それでも、小林可夢偉に対する期待は大きい。なぜなら小林はこれまで起こった様々な困難を、印象的なパフォーマンスで乗り越えてきた。2009年、トヨタがF1から撤退する直前に代役でF1デビュー。その時のアグレッシブな走りがF1関係者を驚かせ、翌年からの「ザウバー」でのレギュラーシート獲得に繋がった。そして苦しいシーズンを戦いながらも、鈴鹿でこれまた印象的なオーバーテイクショーを見せ、彼は国籍や文化の壁を越え、F1に無くてはならない存在になった。さらに2012年には鈴鹿で3位表彰台。そしてそして、多くのF1関係者を驚かせた今回のF1復帰。
苦しいだろう、厳しいだろう、いきなりは無理だろう、そういう状況に立った時に、いつも彼が見せる一発逆転のパフォーマンスをF1ファンや関係者はよく知っている。小林可夢偉の実力は誰しもが認めるところ。だからこそ、どんなチームであれ、彼が再びチャンスを掴んだ事は嬉しいし、期待してしまう。そう、みんな「倍返し」を心の底から待っているのだ。
小林は自身のTwitterで、「よっしゃ、やるぞ〜!」という言葉と共に「ケータハムF1チーム」のシャツに身を包んだ写真を掲載している。トレーニングで絞り込んだ身体と精悍な表情が2014年の彼の活躍を物語っている気がする。