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エイバル乾が代表に復帰。ハリルJAPANが求めるサイドFWの条件

小宮良之スポーツライター・小説家
カンプ・ノウでのバルサ戦で2得点した乾貴士(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

5月23日付のスペイン各紙で、乾貴士(エイバル、28歳)の2年ぶり代表復帰が一斉に報じられていたが、事実、メンバーに入っている。

乾の招集は、2015年3月のウズベキスタン戦が最後だった。すでにヴァイッド・ハリルホジッチが監督に就任していた。それ以来、メンバー入りは遠ざかっていた。

では、なぜ乾は代表復帰できたのか?

端的に言えば、リーガエスパニョーラ最終節、FCバルセロナ戦のプレーが要因になった。

なにがハリルホジッチ監督の琴線に触れたのか?

ハリルJAPANのサイドFWに必要なのはゴール

「前線のサイドアタッカーには、ストライカー的な色合いを求める」

それが、ハリルホジッチが要求してきた条件である。監督は4-2-3-1とも、4-3-3とも言われるフォーメーションを基本にしているが、正確には4-2-1-3と記すべきだろう。前線の両サイドの選手はFWとしての機能性が不可欠となっている。

「得点力、もしくはゴールに対する意志と技術」

それが選出条件になっている。本田圭佑、原口元気、そして久保裕也・・・。ハリルJAPANで得点を生み出しているのは、いずれもサイドの選手なのである。

その点、「乾は要求を満たしていない」ということだったのだろう。

今シーズン、エイバルでの乾は目を瞠るべき成長を遂げている。日本人選手として初めてシーズンを通してレギュラーとしてプレー。中村俊輔や大久保嘉人も成し遂げられなかった快挙を果たしている。

昨シーズンまでの乾は、守備面の力不足を指摘されていたが、単純な強度が高まった。また、リトリートするときのポジショニングも目に見えて良くなっている。昨シーズンまでは強豪相手だと守備の弱さからベンチに入ることもしばしばだったが、今シーズンはむしろ攻撃の"決め手"として期待されるようになった。

ところが、世界最高峰リーガエスパニョーラでスタメンに定着したにもかかわらず、乾は代表に呼ばれていなかったのである。

「何点取った?」

それがハリルホジッチの考え方だったからだ。

サイドの選手にお膳立てを頼むのか、仕上げを頼むのか

乾はバルサ戦まで、27試合出場でわずか1点。その1ゴールにしても、4月に記録したものだった(代表の最後の試合は3月)。ストライカー色は薄い。

ちなみにJリーグで華々しい活躍をしていた齋藤学も、同じように割を食っている。齋藤はサイドから巧みにチャンスを創り出し、1対1でも強さを見せ、プレーメイキングや守備力の高さも発揮。しかし、ゴールが少ない、という点がネックになっているのだ。

「サイドの選手に、お膳立てを頼むのか、仕上げを頼むのか」

それは監督としての志向の違いで、一概にハリルホジッチを糾弾することはできないだろう。

ハリルホジッチ自身、現役時代はセンターフォワードとしてクロスボールを叩き込むタイプだった。サイドでお膳立てをし、クロスを叩き込める力強いFWが日本に何人いるか。日本人選手の特長をスカウティングした結果、「サイドに得点能力の高い選手を配する」という形を選んでいるという。

ともあれ、乾の復帰に関しては、「カンプ・ノウのバルサを相手にした2得点は大きなインパクトになった」のは間違いない。ハーフバウンドのボールをダイレクトで蹴り込む。そのゴール技術と度胸に、高い評価が与えられたのだろう。

その点、「これ以上ないロジカルな選出」ということになる。

しかし、乾は本来的にストライカーというよりも崩し役である。ハリルホジッチ監督が自分の了見だけに囚われると、せっかくの才能を使い切れない、という可能性もある。代表は一つのプレーモデルにこだわりすぎず、優秀な選手の力を最大限に引き出せる戦い方を、いくつか準備するべきだろう。乾、もしくは齋藤をサイドの崩し役(起点)にし、クロスを2トップが叩き込む、という形も選択肢に持つべきだ。

ロシアワールドカップに向け、約1年と迫っている。直近は佳境のアジア予選を突破することが優先課題だが、チームを一回りスケールアップさせる必要がある。原口や久保の台頭は好ましいが、一つの戦いに執着するべきではない。

6月のシリア、イラク戦に向け、乾の招集は代表の起爆剤になるか?

少なくとも、スペインでの乾は相応の実績を残した選手である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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