映画「唐人街探偵」で注目の平山もとかず。年商200億円の社長を50歳から役者デビューさせた覚悟とは
妻夫木聡さん、長澤まさみさん、三浦友和さんらが出演する映画「唐人街探偵 東京MISSION」(公開中)で物語のカギを握るマフィアの会長役を演じているのが俳優・平山もとかずさん(53)です。中国では2月から公開され「アベンジャーズ/エンドゲーム」を抜いて、全世界オープニング週末興行収入1位を記録した話題作。その中で見せる圧倒的存在感から「あの人はいったい誰なんだ」という声がネット上でも高まっていますが、平山さんが俳優を始めたのは50歳から。そして、年商200億円のアミューズメント企業社長という顔も持っています。満ち足りた生活の中、なぜ一歩を踏み出したのか。そこには、折り返し地点を越えた人生におけるヒントが詰まっていました。
体一つで
ここまでの道のりをお話ししますと、学生の頃から音楽に興味があったんです。音楽系の大学を卒業して、さらに音楽の勉強をするためにアメリカに留学しました。
日本に帰ってきたのが24歳。音楽の道に進みたかったのですが、その時点では縁がなく、いくつかの仕事を経て29歳で親の会社に入りました。そこから40歳で父の跡を継いで社長になったんです。
ただ、音楽への思いは変わらずあって、36歳の時に芸能事務所を立ち上げたんです。あくまでもスタッフとしてアーティストをプロデュースする側だったんですけど、今に至るまで深い付き合いをしている俳優の山口馬木也君がずっと言ってくれていたんです。「兄さんは、こっち側の人間だ」と。
その言葉が頭から離れなくて、43歳の時に「iLHWA meets.杉山清貴」名義で「さよならのオーシャン」をリリースして歌手デビューしたんです。
さらに、2014年にはご縁が重なって映画「ベイブルース~25歳と364日~」をウチの事務所で製作しました。そこから芝居への意識がさらに高まって、50歳から「体一つで勝負したい」という思いで役者の世界に飛び込んだ。それがこれまでの流れです。
自分の中で「体一つで」というのはすごく大きな部分だったんです。これは本当に正味の話、僕は二代目の社長なので、誰と会っても“会社”というものを見据えた上での接し方をされる。社長の衣を着た僕を皆さんが見てくるんです。そんな中、自分の肉体だけで何ができるのか。そこに挑んでみたいと思ったんです。
単なる社長の道楽や思い出作りではなく、真剣に勝負してどこまでいけるのか。そうでないとやる意味がないですし、役者としてシビアに現実と向き合ってきたつもりです。その中で、本当にありがたいことにほぼ合間なく舞台のオファーをいただき、歌手の島津亜矢さんの興行にもお声がけいただき、今回の映画にも巡り合うことができました。
50歳からのスタートならではの武器
今作に出演するスタートラインは今から2年半ほど前でした。オーディションがあるということで映像を送ったら、日本で監督さんと面接することになり合格という結果をいただきました。
実際に撮影に入ったのは19年の8月からで、僕の撮影期間は22日間でした。役柄的にシーンが一緒になったのは三浦友和さんと長澤まさみさんが多かったんですけど、実際に空気を共にする中で、学ぶことがとても多かったです。
三浦友和さんとは互いに組織を背負った立場として対峙するシーンが中心で、張り詰めたシーンながら、撮影の加減で2時間、3時間待たされても、一切空気が揺るがない。
待つというのは役者として当たり前の仕事なんですけど、一旦乗った船なんだから乗った以上は一切文句を言わずにやり切る。当然のことなんでしょうが、あれだけの大俳優がそれを粛々とされている姿から、一つの真理を見せてもらった気がしました。
長澤まさみさんは普段はとても気さくだけど、カメラが回る瞬間に顔が変わる。この切り替えを目の当たりにしたのも衝撃的でした。
そして、この作品を通じて得た一番のものは、現場での遠慮がなくなったことだと感じています。三浦友和さんでも、長澤まさみさんでも、現場に行けばみんなが一役者として対等である。逆に言うと、新人であろうがなんであろうが、一役者として求められる仕事をしないといけない。
最初に監督から言われたのは「三浦友和さん、長澤まさみさんが相手ですけど、オーラで負けないでください」ということでした。
そして、撮影が進む中で僕が監督に言ったのが「大丈夫です。僕の方がお金持ってますから」という言葉でした。もちろん、言葉にしたらすごくイヤらしい表現です。それは自分でもよく分かっています(笑)。
でも、役もマフィアの会長でそこも乗っかってるし、あえてそういう気持ちでやりにかかって丁度なのかなと。そう考えて、最後までやり切りました。
演じるというのは、多くの場合、世の中に存在している誰かになりきること。なので、そういう意味で言うと、僕は仕事柄いろいろな人と出会ってきたし、その人たちの気持ちもあらゆる形で聞いてきた。
何かを演じる時に、想像じゃなく事実として知っている。対人関係における経験数が多い。逆に言うと、理解できない役が少ないというか。これは役者としてアドバンテージになっていると強く感じてます。
先ほどの「お金を持ってますから」という言葉は極端な話かもしれませんけど、ビジネスの場で大きなお金を動かす。社員の生活を背負って、経営判断をする。そういうことを日常として過ごしていると、不躾な意味ではなく、どなたとお会いしてもたじろぐことはない。この感覚も50歳からこの世界に入ったからこその武器だと僕は思っています。
今、仕事としては役者、社長、そして歌手。3つをやらせてもらっているのですが、全部に100%で取り組んでいるつもりです。会社はもちろん社員の生活があるし、役者も、歌手も、そこに関わってくださっているスタッフさんの生活がある。足を踏み入れる以上は全部100%の力でやるしかない。全てを本業だと言える覚悟でやっています。
先月も、新宿梁山泊の舞台「ベンガルの虎」に出演していたんですけど、そこでも全力で走り切りました。
ご一緒させてもらった風間杜夫さんが72歳というご年齢ながら、若い人からどん欲に吸収しようとしたり、若い人がウケたら自分はもっとウケようとしたり(笑)、いかに力いっぱいされているかを目の当たりにして、自分がスピードを緩めている場合ではないと改めて痛感しました。
社長として経営を考える時も、役者として作品に出る時も、両方とも“お客さんに喜んでもらう”ことが目的になるわけです。
社長は自分に正直な商売をしないとどこかほころびがくるんです。「何があろうが、これだけは折れずに貫く」という部分が商売では必要だと僕は思っています。それが正直な商売になってお客さんの満足につながるると思っていますし。
一方、役者は役にしても演出にしても、基本的には求められたものに合わせていく仕事です。ヤクザでもないのに、役がヤクザならそこに自分を合わせていく。そこで求められるのは「いかに自分をごまかすか」になるんです。
同じところを目指しているのに、アプローチの仕方が全く違うというのは面白いと思いますし、それは役者をやって気づいたことでもあります。
説得力を運ぶ
ここから先、役者を続けていく中で、自分はどうレベルアップをしていくべきなのか。そこの答えが、経験を生かすということだと思っています。
会社を経営している。人生におけるあらゆる局面を経験している。それは事実だし、それが持つ説得力というのは、僕の役者としての長所にはなっていると思います。
ただ、今は厳密に言うと、それを生かし切れていないというか、経験からくる説得力が詰まった倉庫は持っているけれど、そこから芝居の度に有効な材料をうまく運び出すことができていない。
リアルな話、今の僕は「その倉庫を持っていますよ」という存在感だけで芝居をやっている気がしているんです。その倉庫に入っているものをもっとスムーズに、うまく芝居に活用する。おそらく、それが芝居におけるテクニックなんだと思います。
なんとか、そこをもっとレベルアップさせて、倉庫にあるものをフル活用できるようにする。それが僕が役者として求めてもらう術なんだろうなと。
50歳まで生きてきた経験、人との出会い。その蓄積を生かさないと、50歳から役者をやりだした意味がない。さらにシビアにいうと、そこを生かさないと需要がない。
…真面目に話過ぎたかな?ラジオ(ABCラジオ・高山トモヒロのオトナの部室)では、毎週アホみたいな話ばっかりしてるんやけど(笑)。
でも、アホみたいな話も、今回みたいな話も、全部ホンマに僕が思ってることばっかりです。その思いに則って、体が動かなくなる日まで生きていけたらなと思っています。
(撮影・中西正男)
■平山もとかず
1968年4月16日生まれ。兵庫県神戸市出身。本名・平山日和。歌手、タレントとして活動する時はイルファという名前を使っている。アメリカへ音楽留学後、社会人を経て、自ら「イルファレコード」を創設。2011年「さよならのオーシャン」をリリースし歌手デビュー。18年に舞台「OH! MY GOD! 2018」で俳優デビューし、舞台「殺しのリハーサル」「ブルースな日々〜夢に向かって〜」「ダンスレボリューション~ホントのワタシ~ 2018」 「スポットライト(BACK STAGE STORY)~2018」などに立て続けに出演。19年には福岡・博多座で行われた「島津亜矢特別公演」で商業演劇にも進出する。公開中の映画「唐人街探偵 東京MISSION」では物語のカギを握るマフィアの会長を演じ話題となる。ABCラジオ「高山トモヒロのオトナの部室」に出演中。独身。