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「加熱式タバコ」へ切り替えれば「禁煙」できるの?

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 喫煙者の多くはタバコをやめたいと考えている。禁煙サポートには禁煙治療、禁煙補助薬などがあるが、日本で喫煙者が増えている加熱式タバコは、果たして禁煙の役に立つのだろうか。

その証拠はまだない

 紙巻きタバコから加熱式タバコに切り替えることで、自分がタバコをやめられたと主張する喫煙者は多い。加熱式タバコもれっきとしたタバコ製品なので、加熱式タバコに切り替えたとしても禁煙できたわけではない。

 加熱式タバコに切り替え、次第にタバコをやめられるようにする、禁煙補助のために加熱式タバコの喫煙を続ける喫煙者もいる。では、加熱式タバコに切り替えると禁煙できるのだろうか。

 複数の研究論文を比較することで、より信頼性の高いエビデンスを得る手法をシステマティック(系統的)レビューというが、この分野で世界的に支持されているのがコクラン・ライブラリー(Cochrane Library)という機関のレビューだ。

 同ライブラリーが2022年に発表した加熱式タバコと禁煙についてのレビューによれば、加熱式タバコによって禁煙できるという証拠はまだないとし、加熱式タバコが喫煙率を下げる証拠もないとしている(※1)。

 韓国でも加熱式タバコの喫煙者が増えているが、韓国の研究グループが2020年に発表した調査研究によれば、加熱式タバコだけ、電子タバコだけの喫煙者は、紙巻きタバコの喫煙者に比べ、それぞれ約40%、約20%、禁煙する可能性が少なかった(※2)。同研究グループは、加熱式タバコの喫煙によって禁煙する喫煙者が減っているのではないかと指摘している。

 また、韓国の別の研究グループが2023年に発表した調査研究でも同じ結果が出ていて、加熱式タバコだけの喫煙者は紙巻きタバコだけの喫煙者と比べ、将来に禁煙するつもりが約60%少なく、過去1年間に禁煙を試みた割合も約50%少なかった(※3)。同研究グループによれば、加熱式タバコの有害性の低さがこうした傾向を生み出しているのではないかという。

むしろ禁煙を阻害する

 加熱式タバコは禁煙に役立つどころか、紙巻きタバコの再喫煙のきっかけになるという研究もある。

 東京医科歯科大などの研究グループが2021年に発表した調査研究によれば、紙巻きタバコの喫煙者が禁煙しても、加熱式タバコを吸い始めると再び紙巻きタバコに戻る傾向があることがわかっている(※4)。また同研究グループは、この結果について、加熱式タバコの入手可能性が高い日本の環境が影響しているのではないかとしている。

 さらに、大阪国際がんセンターなどの研究グループが2022年に発表した調査研究によれば、1日20本以上の喫煙者(1910人、うち紙巻きタバコ17.2%、加熱式タバコ9.1%、両方6.1%)で、禁煙期間が1カ月以上継続できた割合は、加熱式タバコの喫煙者のほうが紙巻きタバコの喫煙者より明らかに低い(約60%)ことがわかった(※5)。また、過去喫煙者(2906人)のうち、1年以上喫煙していない人が加熱式タバコの喫煙がきっかけで再喫煙する割合は、そうでない人より1.54倍高いこともわかったという。

 同研究グループは、加熱式タバコは禁煙の役に立たないどころか、再喫煙を助長する役割をしている危険性があると指摘している。そして、加熱式タバコで禁煙できるという誤解を解くことの重要性、また加熱式タバコを含めたタバコ対策の必要性を強調している。

 喫煙は重篤な呼吸器疾患を引き起こす。こうした患者は、なかなか禁煙できない。呼吸が苦しくても、紙巻きタバコを加熱式タバコに切り替え、喫煙を続ける患者も多い。

 日本人(40歳以上、1万9308人)を対象にし、加熱式タバコを含む喫煙状況とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、両方の症状(ACO)の関係を調べた産業医科大学などの研究グループによる調査では、明らかに非喫煙者と比べ、喫煙者、特に現在喫煙者でCOPD、喘息、両方の症状の割合が高いことがわかったが、同様にこれらの症状の患者の加熱式タバコの喫煙が増えていることがわかっている(※6)。同研究グループは、COPDや喘息などの患者では加熱式タバコを含む禁煙が重要としている。

 タバコ大手のフィリップ・モリスは、アイコスのウェブサイトで「私たちは、たばこやニコチン含有製品を使用したことのない人たちや、それらの使用をやめた人たちに対して、当社の煙の出ない製品を提供いたしません。当社の煙の出ない製品は、禁煙の代替手段ではなく、また禁煙補助具として設計されたものでもありません」と述べている。

 以上をまとめると、加熱式タバコは禁煙を助けるものではなく、むしろ再喫煙のきっかけになる危険性がある。紙巻きタバコはもちろん、加熱式タバコもどちらもやめることが最も健康にいいのは間違いない。

※1:Harry Tattan-Birch, et al., "Heated tobacco products for smoking cessation and reducing smoking prevalence" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD013790.pub2, 6, January, 2022
※2:Cheol Min Lee, et al., "Are heated Tobacco Products Users Less Likely to Quit than Cigarette Smokers? Findings from THINK (Tobacco and Health IN Korea) Study" International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17(22), 8622, 20, November, 2020
※3:Doyeon Won, et al., "Comparison of the Smoking Cessation of Heated Tobacco Product Users and Conventional Cigarette Smokers in Korea" Korean Journal of Family Medicine, Vol.44(3), 151-157, May, 2023
※4:Yusuke Matsuyama, Takahiro Tabuchi, "Heated tobacco product use and combustible cigarette smoking relapse/initiation among former/never smokers in Japan: the JASTIS 2019 study with 1-year follow-up" Tobacco Control, Vol.31, Issue4, 6, January, 2021
※5:Satomi Odani, et al., "Heated tobacco products do not help smokers quit or prevent relapse: a longitudinal study in Japan" Tobacco Control, doi.org/10.1136/tc-2022-057613, 27, February, 2022
※6:Shingo Noguchi, et al., "Association of cigarette smoking with increased use of heated tobacco products in middle-aged and older adults with self-reported chronic obstructive pulmonary disease, asthma, and asthma-COPD overlap in Japan, 2022: the JASTIS study" BMC Pulmonary Medicine, Vol.23, 365, 30, September, 2023

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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