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投票率が低い移民や若者にどう語りかけるか 北欧ノルウェーの例

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
高校の宿題で政党をまわる16歳 Photo:Asaki Abumi

9日、北欧ノルウェーでは統一地方選挙を迎える。国政選挙と大きく違う点が、地方選挙では多くの移民(外国人)も投票ができること。

首都オスロの大通りカール・ヨハンでは各政党のスタンドが並び、選挙運動が連日おこなわれていた。

無料配布されているのは飲食物や文房具だけではなく、公約が書かれたパンフレットもある。

各党の政策の特徴、「今年の選挙でなぜあなたは投票をしたほうがいいのか」訴えた紙、若者や高齢者などにターゲットを絞ったチラシなど。

党によっては20種類はあるのではないかと思われる大量のチラシから、自分が欲しいものだけをもらうことができる。

保守党のスタンド。チラシのサイズや数は自由。自分が何を望むかを手紙にして党に届けることもできる Photo:Asaki Abumi
保守党のスタンド。チラシのサイズや数は自由。自分が何を望むかを手紙にして党に届けることもできる Photo:Asaki Abumi

ノルウェー語ができない移民も多いため、各党には英語、ドイツ語、アラビア語、ポーランド語など、複数の言語で書かれた公約チラシが用意されている。北欧他国のスウェーデンなどでは、外国語でのチラシの用意はもっと大規模にされていた。

労働党は移民やムスリム層からの支持が多いというイメージが強い。複数の言語で公約チラシを用意 Photo:Asaki Abumi
労働党は移民やムスリム層からの支持が多いというイメージが強い。複数の言語で公約チラシを用意 Photo:Asaki Abumi

極左「赤党」のスタンドには、小さな名刺2枚分のサイズの紙が置かれていた。

オスロで支持率を増している極左「赤党」のスタンド。複数の言語でチラシを用意 Photo:Asaki Abumi
オスロで支持率を増している極左「赤党」のスタンド。複数の言語でチラシを用意 Photo:Asaki Abumi

「あなたが2001年・もしくはその前に生まれていて、オスロで住民登録がされていて、最低3年間の国内滞在記録があれば、オスロで選挙権があります」

  • 「あなたがノルウェー国籍をもっている必要はありません」
  • 「ほかの北欧の国出身で、今年の6月30日からノルウェーに住んでいれば、投票できます」
  • 「オスロの富裕層が住む地域では、ほとんどの人が投票をしています。西側に住む人の70%以上が地方選挙で投票しています。低収入世帯が多い地域の投票率は60%以下です」
  • 「あなたが投票しなければ、私たちの街がどうなるかを決めるのは、富裕層となってしまいます」
  • 「あなたの関心に最も近い党に投票してください。赤党は政治家の給与を下げ、公共住宅の家賃を下げ、公共交通機関を無料にし、人種差別的なイベントを禁止します」

「わたしも投票できるの?」

私にも届いた投票用紙。投票会場にはこの紙を持ち忘れても、顔写真付きの身分証明書があれば投票可能 Photo:Asaki Abumi
私にも届いた投票用紙。投票会場にはこの紙を持ち忘れても、顔写真付きの身分証明書があれば投票可能 Photo:Asaki Abumi

自分に投票権があることを分かっていない移民は意外と多い。ノルウェー語が分からないと、政治の動きも追いにくい。赤党の小さなチラシは、分かりやすいという点では印象に残った。

投票日が近いことをSMSで知らせると、投票率があがる傾向から、ノルウェー選挙局は有権者の携帯電話にメールを送る。紙の手紙でもお知らせが届いた。

選挙局からの手紙。「民主主義に参加してください。2015年の地方選挙では、移民背景がある人の投票率は40%。新記録を樹立しましょう!」と書かれている Photo:Asaki Abumi
選挙局からの手紙。「民主主義に参加してください。2015年の地方選挙では、移民背景がある人の投票率は40%。新記録を樹立しましょう!」と書かれている Photo:Asaki Abumi

私が地方選挙で投票をするのは今年が2度目。4年前の最初の時は、自分にも投票する権利があるのかと、紙の手紙の知らせで驚いて知った。

市民の携帯電話に選挙の知らせをするのは、個人のプライバシーにちょっと足を踏み入れるようなものだ。数年前、労働党はSMSで投票を呼び掛けたが、投票日直前の週末とあり、「静かにさせて」と一部の人をいら立たせていた。

私のスマホに届いた選挙局からのSMS。「あなたの一票で民主主義が成り立つ。9日は選挙の日です。選挙に参加しましょう」 Photo:Asaki Abumi
私のスマホに届いた選挙局からのSMS。「あなたの一票で民主主義が成り立つ。9日は選挙の日です。選挙に参加しましょう」 Photo:Asaki Abumi
私は選挙の日は仕事でノルウェーにいないので、オスロで事前投票を友人と済ませた。後ろにあるのが、市庁舎前にある投票会場 
私は選挙の日は仕事でノルウェーにいないので、オスロで事前投票を友人と済ませた。後ろにあるのが、市庁舎前にある投票会場 

若者の携帯電話に政党がメールをしてもOK?

首都オスロでは、「緑の環境党」が大きく支持率を伸ばしそうな勢いだ。気候変動を心配する若者若から人気がある党だ。若者の投票率を上げようと、30歳以下にSMSを送信した。

「安い公共交通機関チケット、車が少ない道路、排ガスが少ない街がよければ、緑の党に投票してね!」と首都在住者に送り、

「人と環境の両方に優しい社会がいいなと思ったら、緑の党に投票してね」と全国各地の若者に送信。

絵文字入りで、若者だけを狙ったSMS戦略は現地でニュースともなった。

緑の党の選挙小屋にあったカーゴバイク。「STEM」は「投票しよう」という意味 Photo:Asaki Abumi
緑の党の選挙小屋にあったカーゴバイク。「STEM」は「投票しよう」という意味 Photo:Asaki Abumi

国政選挙に比べて、地方選挙は関心が低い。若者や移民に、どのように居間のソファから投票会場に行ってもらうか。このような投票会場に行かない人は、「ソファ市民」とも言われる。

今年の選挙では、道路有料制度をどのようにしていくか、スウェーデンの少女グレタさんと世界中の若者による気候変動デモが注目を浴びた。

この盛り上がりで、ソファ市民が投票会場に向かうかが注目されている。

  • 2015年の若者の投票率 18・19才 48,3%、 20~24歳 36,4%
  • 移民の投票率 ノルウェーのパスポートを持っている移民背景がある人およそ40%、外国籍の移民(例えば筆者も含む)29%

参照 ノルウェー統計局

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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