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161億円で投げる田中選手。その球が生みだすのはお金だけではない

大宮冬洋フリーライター

●今朝の100円ニュース:田中、ヤンキースへ(朝日新聞)

今朝の新聞各紙の一面では、田中将大投手のニューヨーク・ヤンキースへの移籍が報じられている。目を引くのは、「7年契約、161億円」というとてつもない金額だ。税金をいくら支払うのか知らないけれど、田中投手は7年後でも32歳。100億円以上の資産を持つことは間違いない。「うらやましい」を通り越している。

我が身を振り返ると、月に50万円も稼げれば完全に充足する。家賃を払って好きなものを着て食べて、たまには旅行して、少しは貯金もできる。ありえないほどかわいい娘でも生まれて、その子が「オペラ歌手になりたい!」とでも言ったらもっと稼ぐ必要が出来てくるかもしれないが、田中投手を軟弱にしたようなルックスの僕のDNAでは無理だろう。

月50万円ということは年間600万円。あと50年生きると仮定しても3億円。それでも夢のような金額に思えていたけれど、161億円と比べれば誤差みたいなものだ。では、宝くじにでも当たって今すぐ3億円の資産ができたら僕は働くのをやめるのだろうか。

僕は30歳になった頃に「自分らしい仕事だけをしたい」と仕事内容や条件を選び始めた。仕事量は半減し、なけなしの貯金を使い果たし、3億円の資産どころか100万円の借金を抱えて、ようやくはっきりと自覚した。「仕事を選んでいたら家賃すら払えなくなる」と。

かつての仕事先に頭を下げて回り、幼児教育記事を手始めに様々な仕事をした。「何でもいいので仕事をください」と白旗を上げたのだから、好き嫌いや得意不得意を言う資格はない。久しぶりにがむしゃらに働く日々の到来だ。まさにお金のため、借金返済のために働いた。

1年半ほどで借金は返し終えたが、僕の体には仕事とお金に対する怯えと決意のようなものが入り混じって染みついている。「生活を脅かすような貧困」や「週休5日の絶望交じりの退屈」は二度と経験したくない、そのためにはとにかく働こう、健康の次に大事なのは家族でも自意識でもなく仕事(お金)だ、と。

僕の場合、仕事の原動力はお金なのだ。しかし、継続的に生活費を稼ぐために少しでもいい仕事をする努力をしていると、素敵な仕事仲間・取材先(書籍も含めて)・読者に出会うことがなぜか多くなる。仕事を選んでいたときよりも「面白い仕事」に巡り合うことも増えた気がする。お金があるだけでは決してできなかったような経験を通して、人生の豊かさを知ることもある。今ならば、たとえ3億円の資産があっても仕事を続けるかもしれない。

仕事の原因はお金だけれど、仕事の結果はお金だけではない。161億円の高額契約は田中投手のモチベーションを大きく高めたに違いない。プロの選手なのだから、お金のために必死に投げるのは当然だ。しかし、その球が生みだすのはお金だけではないと思う。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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