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コロナ禍は危機。だが、日本の観光業が飛躍できる好機になりうる。

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
新型コロナ感染症 観光客らで賑わう熱海(写真:つのだよしお/アフロ)

 筆者が所属する城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科は、東京都が実施する「大学等と連携した観光経営人材育成事業」の一環で、東京都の支援を受け「観光経営人材育成講座」を、9月12日および13日に開催した。

公開講座全体総合司会の城西国際大学の黒澤武邦氏(写真:城西国際大学撮影・提供)
公開講座全体総合司会の城西国際大学の黒澤武邦氏(写真:城西国際大学撮影・提供)

 同講座は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2019年度には今年の3月開催時に、対面からオンラインに急遽切り替えて実施した。今回も、コロナ禍の状況が一進一退する中で、オンラインで実施した。前回は、講師と講座運営スタッフが同じ空間(ある意味で、TV局のスタジオのような空間)にいて、双方向の動画を受講生に配信する形式で実施した。

 今回は、6つの講義の内、1つだけは同様の形式であったが、それ以外は、講師も運営スタッフも別の場所でオペレーションを行い、受講生に完全にオンラインの双方向性形式で受講できる対応にした。ウェブ(Web)とセミナー(Seminar)を組み合わせた造語である、いわゆる「ウェビナー(Webinar)」を実施したのである。

森田金清氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)
森田金清氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)

 今回の講座は、全体テーマ「ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光と外国人材活用の方向性」の下に行われる本年度の3回の公開講座の第1期目で、そのテーマは「コロナ禍で苦境に立たされる観光産業の現状について問題を共有するとともに、今後の課題を明らかにして、ウィズコロナ・ポストコロナ時代における観光振興の在り方について展望します」であった。

 この講座の受講対象は主に観光業に関わる方だった。今回受講者募集を開始する前、講座内容にはそれなりに工夫したつもりだが、観光業の方々の多くは、コロナ禍の下、日々苦労され疲弊されているなかで、果たして2日間にわたる長時間を学ぶ機会に費やしていただけるのだろうかと危惧していた。ところが、やや手前味噌になるが、全体テーマがタイムリーで、アトラクティブな講師陣や講義タイトルだったせいか、募集開始2週間弱で定員に達した。これは、観光に関わる方々からの、厳しい状況にあっても、何とか現状を越えて、次のステージに繋げていきたいという意欲の表れであったのではないかと思う。ご参加いただいた方々の意欲を前向きな姿勢に対して敬意を表したい。

岩本英和氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)
岩本英和氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)

 今回の第1期のプログラムは、次のようであった。

講座プログラム

〇9/12(土)

・第1回 コロナ禍の観光地経営 

 コロナ禍での日本有数の観光地である熱海の事例報告と、宿泊施設など観光地における外国人材活用の現状と今後の課題について展望する。

 講師:月の栖熱海聚楽ホテル代表取締役社長 森田金清氏 

・第2回 観光産業回復に向けた取り組みに関する研究 

 観光産業が自然災害、そして感染症や風評被害において多大な影響を受けることが先行研究でも指摘されている。先行事例を紹介し、今後の観光産業の回復に向けた対策について紹介する。

 講師:城西国際大学 准教授 岩本英和 

・第3回 コロナ禍の旅行業界と外国人材活用 

 コロナ禍で苦境に立たされる観光業界の現状と課題についての報告と解説と、外国人材活用が期待される観光業界の今後の対策について展望する。

 講師:航空・旅行アナリスト・帝京大学非常勤講師 鳥海高太朗氏 

〇9/13(日)

・第4回 コロナ禍の海外事例と観光人材育成 

 ウィズコロナ・ポストコロナ時代に向けた、観光大国アメリカなど海外の対策事例や観光経営人材育成の取り組みを紹介し、今後の日本の観光振興の在り方について展望する。

 講師:米国セントラルフロリダ大学 准教授 原忠之氏 

・第5回 ウィズコロナ・ポストコロナ時代のインバウンド復活に向けての準備 

 これまでのインバウンド観光のトレンドについて分析し、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の新しいインバウンドの受け入れ態勢のあり方について展望する。

 講師:『訪日ラボ』インバウンド研究室 岡安太志氏 

・第6回 観光業支援策および収束後のインバウンド観光回復支援策

 コロナ禍における事業者や労働者に対するサポート及び収束後の観光産業の復活に向けての対策等について展望する。

 講師:国土交通省観光庁外客受入担当参事官 片山敏宏氏 

鳥海高太郎氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)
鳥海高太郎氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)

 本記事では、個々の講師の講義内容には言及しないが、筆者が聞いた講義の中から、重要だと思われるコンテンツをピックアップしておきたい。なお、以下で取り上げるコンテンツは、飽くまで筆者の視点および理解に基づくものであることを注意していただきたい。

(1)コロナ禍について:

・観光業は、今「コロナ禍」で死ぬか、「経済」で死ぬかという状態にある。

・現在は、観光業などは、ある意味で「輸血状態」の時期にあるといえる。

・観光業の場合、地元資本の場合と外部(東京などの観光施設のある地元の外部からの)資本で、「コロナ感染」に対する対応が異なる。前者は、地元への影響を考慮せざるを得ず、後者はクールな対応をしている。

・観光業は、「戻ってきているところ」と「そこそこしかもどってきていないところ」の2つに二極化してきている。

・旅館は基本「施設産業」だが、コロナ禍で、大規模旅館・ホテルは苦戦しており、他方・小規模旅館・ホテルは善戦している。

・コロナ禍ではやはり安全対策が重要になってきている。

・コロナ禍の中でも、人的輸送は停止しているが、貨物は維持されていたり、増えており、このために、海外、特にKorean Airなどは黒字化している。

(2)コロナ禍関連の政策等について:

・観光業のセーフティネットとして、「雇用調整助成金」(12月まで)が非常に助かっている。また無利子無担保融資(3年~5年)も有効だが、無限に資金を借り続けることは無理。観光業や飲食業は、秋から冬、そして来年は、もっと厳しい状況に直面せざるを得ない。

・旅行におけるキャンセル料への対応への工夫で、これまでももっと感染を抑制・防止できたと考えられる。

・Go Toキャンペーンや特例給付金などの救済効果はでている。

原忠之氏の講義後の集合写真(写真:城西国際大学撮影・提供)
原忠之氏の講義後の集合写真(写真:城西国際大学撮影・提供)

(3)Go To関連の状況について:

・Go Toトラベルキャンペーンは、観光・旅行をするモチベーションになっている。同キャンペーンに除外されていた「東京」が加わったり、Go Toイートなども開始されると、さらにフォローの風になろう。熱海は、8,9月は前年比で宿泊は8、9割ぐらいまで戻っている。

・Go Toトラベルでコロナに感染した人の数は、想像以上に少なかった。→日本の旅行者の問題意識のレベルなどが高いからと考えられる。

・1部屋3万円以上のプライシングの宿泊にはGo To効果が出ている。1万円以下ではあまり効果が出ていない。つまり、割引額が大きな宿泊をする傾向がある。

・安い宿泊料金のところは、割引率を高める工夫が必要かもしれない。

・Go Toキャンペーンは、10月1日(現時点での予定)からは、地域共通クーポン(割引率15%)も加わる予定で、それが加わると、これまでの旅行代金35%と含めて、全体で50%割引のGo Toのフルスペックになる。今月(9月)末からGo Toイートも始まる。

・地域共通クーポン(旅行中に現地で使用することが義務づけられている)は効果大であることが見込まれる。

・Go Toキャンペーンは、広義の旅行業界で、波及効果は大きいので(特に地域で)、色々なものに刺激を与えられると考えられる。

・Go Toキャンペーンは「社会実験」である。

・Go To トラベルでは、感染防止対策を重視している。またその一環として、はじめて対象施設などの全数アンケート調査を行っている。そのアンケートでは、「毎日の検温チェックが難しい」との回答が来ている。

(4)インバウンド観光について:

・コロナ禍で大きな転換が起きてきている。だが、実はコロナ禍が起きたことでその転換が促進しただけ。インバウンド業界は、「第三のフェーズ」に入ってきている。「第一フェーズ」は、「モノ消費の隆盛(期)」(2003年~2006年)。「第二フェーズ」は、「インバウンドマーケティングの勃興(期)」(2007年~2020年)で、インバウンド需要は黙っていても増えた時期。「第三フェーズ」は、2020年からの時期で、需要回復のタイミングやボリュームの予測が非常に難しい状況の時期である。

・コロナ禍でも、旅行に関心のある人は存在している。

・コロナ禍の下では、旅行業者等が集団で旅行させるのは難しい。個人、特に東アジアなどからの海外個人旅行(FIT)がターゲットになる。韓国人は日韓関係の悪化の継続で消極的だが中国、台湾、香港の人々の訪日ニーズは高く、コロナ禍収束期には、それらの国や地域からのインバウンド観光の戻りは早いと考えられる。また中国や台湾からの観光客は、東京よりも地方に行きたいと考えている人が多い。

・インバウンド観光では、今後FITが重要になる。だが、全体を一様に対応するのではダメで、個別マーケットに分けて対応する必要がある。中国はあまり働きかけずとも来てくれるので、力を入れる必要性はなく、欧米などに力をいれるべき。欧米人対策としては、ニーズのある「ストーリー」のある旅行をつくることが必要である。

・来られるようになった際に、来たいという意欲を醸成しておくのが大切でる。

・インバウンド観光の回復に向けた手順としては、在日外国人(特に、初動では東アジア出身の外国人)の観光客を呼び込み、彼らが旅行し、彼らの母国の人々に情報発信をしてくれると、コロナ禍収束期に日本に来たいと考える人が、それらの情報を基に、訪日してくれるようになる。

岡安太志氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)
岡安太志氏の講義(写真:城西国際大学撮影・提供)

(5)新しい観光(業)の可能性について:

・観光や旅行は、安・近・短の傾向が顕著。別名はいわゆる「マイクロツーリズム」。また観光などに戻って来るのが遅いターゲットは、「高齢者」「女性」である。

・観光業は、現時点では、近郊エリアでの交流促進をしていくことになろう。

・コロナ禍のなかで、観光業では、AIの活用などで「労働生産性の向上」「新しい旅行スタイルの提案(グランピング、安全・安心な旅行、地域を感じる体験型の旅など)」が必要である。

・旅館は、「1泊2食」に象徴されるように、イノベーションから非常に遠い存在。それを、これまで手を替え品を替え的に対応してきた。しかし、コロナ禍で新しい形を追求する必要がある。

・宿泊のスタイルの変化が起きてきている。より具体的には、食事時間の短縮、部屋での滞在時間の増大など。電車や飛行機などを含む公共交通機関などは使いたくない、人との接触を避けたいなどで、レンタカーやカーシェアなどが増えている。つまり、旅行はしたいが、コロナは嫌なので、車を使用している状況にある。

・コロナ回復期に備えて受入環境の整備をすることが重要かつ大切。特に、旅行者の目線からすると、予定をキャンセルしやすいキャンセリングポリシーの整備や、多言語でも対応できるようにAIなど(例えば、多言語対応のAIチャットボット)も活用して個人のニーズに対する問い合わせに対応できることが重要である。

・新しい観光や旅行の形態のいくつか(マイクロツーリズム、ニューマーケット、バーチャル旅行など)は、すでに生まれている。

(6)日本の可能性について:

・観光やDMOなどは、「産業としての観光」の奨励による外貨獲得。インバウンド観光は、「国富」を増やすことができる。その意味で、日本にとり重要である。

・Go Toキャンペーンをどんなにやっても、国内で富を動かしているだけで、「国富」は増えない。

・観光では、これまでそれほど重要でなかった「衛生要因(Hygiene Factor)」が、コロナ禍で急に高まった。日本はこの点で元々良いイメージが高い。

・20年に1度ぐらいの感覚で、日本に来たいという意欲が高まっている。その意味で、インバウンド観光の対策を適切にした方が良い。

・インバウンド観光に関して、平均して18か月ぐらい経たないと戻ってこないというデータがあるが、実はEarly adapter(早期順応者)的な人がいるので、それらの人々は、18か月より前に、日本にインバウンド観光で来る可能性がある。その意味で、18か月までダメだと考える発想を変える必要がある。別の言い方を言い方をすると、全体を俯瞰してみて、今後どうするかを考えるべきである。

・日本の国家の課題として、「人口減」がある。それは税収の減少を意味する。その状況において、どうやって今の生活水準を維持できるのかと考える必要がある。その意味で、インバウンド観光を活用してやっていくべき。

片山敏宏氏の講義後の集合写真(写真:城西国際大学撮影・提供)
片山敏宏氏の講義後の集合写真(写真:城西国際大学撮影・提供)

(7)観光人材(含外国人材)について:

・外国人材の活用は可能性あるが、単に語学学校を出ていて日本語ができるだけでは十分でなく、在学中にフィールドワークなどの経験を積み、日本の事情を知っている外国人材を採用すべき。

・日本が、インバウンド観光を積極的に進めていくためには、世界で最も通用する英語ができる中間管理職の人材が不足している。

・DMOでは、英語がビジネス言語になる。早く対応した方が良い。

・外国人は感性が異なるので、外国人に観光や旅行を売りたいなら、外国人を雇って自由にいろいろなプランを作成させると良い。

・日本国内に、優秀な外国人材を連れてきて、イコールフッティングで競争させ、日本人にショックを与えるような状況をつくる。そして、日本に競争原理で動く状態をつくっていかないと、インバウンド観光では成功しない。

・ICTなどもわかる観光人材(そのような人材を育成するプログラムも大学にはある)は、米国でも引く手あまたで、業界からの要望も高く、高収入が得られる。

(8)その他:

・熱海は、これまでインバウンド観光は3%に過ぎなかった。外国人材にもよく仕事をしてもらってきているが、コロナ禍で、ある意味で、そういう方々に頼らなくても、対応できる状態が生まれている。来年に向けて、良い人材を採用していきたい。

・従業員の衛生管理などの徹底具合は、会社の姿勢と連動している。

・観光分野での研究で、東アジアの国々は頑張っているが、日本は世界で30位、アジアでも10位。小泉政権で「観光庁」ができた頃は大差なかったが、その後中国、台湾、韓国が急激に伸びていて、日本は差を付けられてきている。日本の大学は、観光・ホスピタリティの分野で、300位以内に入っていない。

 以上のことからわかることは、次のことである。

 

 まずコロナ禍において、観光業は、一部を除くと、依然厳しい状況にある。新しい観光の可能性も生まれてきている。そして、インバウンド観光は、今後も日本にとり重要であり、コロナ禍の収束・回復期には、日本は、「コロナ禍」があったからこそ、他国に比較して優位なアドバンテージがあると考えられる。

 他方、そのインバウンド観光をより強力に進めていくためには、外国人材の活用や観光における人材の育成を、教育機関の強化も含めて、行っていく必要がある。

 

 このように、受講生(筆者もそのうちの1人と言っていいかと思う)は、今回の公開講座(第1期)を通じて、現在もコロナ禍で困難な状況にあるが、観光業(特にインバウンド)およびそこにおける日本の可能性を学ぶことができた。今後、公開講座は、第2期、第3期と開催していくが、この成果が、日本の観光業の回復およびその後の前向きな成長に資するように運営していきたと考えている。 

 なお、公開講座の各期ともすでに定員に達しているが、今後、それ以外の方々も、本講座を受講できる仕組みも工夫していく予定である。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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