差別・過労・恐れを超えた「誇り」コロナと闘う医療者の肖像が投げかける
商業写真を撮るかたわら、難民や障害ある人たちを撮影してきたフォトグラファーの宮本直孝さん(59)。彼らの肖像を大きなパネルにして、人々が行きかう駅構内の広告スペースに展示し、社会に投げかける試みを、たびたびしている。筆者も「ダウン症のある子と母」であったり、「見た目に障害のある夫婦」であったり、宮本さんの写真展を取材し、一瞬一瞬を生きる尊さを紹介すると、大きな反響があった。今回は、新型コロナウイルス治療の最前線で対応にあたった国立国際医療研究センターの医療従事者を撮影。様々な職種の21人のポートレートを、東京メトロ・表参道駅コンコースに21日まで展示している。多様性を見つめてきたフォトグラファーは、ウィズコロナの社会について、どう考えているのか聞いた。
〇他人の意見を尊重できない?
コロナ禍の社会を、どのように見ましたか?
自分自身は、会社勤めでもなく、移動もバイクなので、生活はあまり変わらなかったのですが。社会の動きで感じたのは、おとしめあう感じがすごかったということです。
「自分の考えこそは、正しい」って言いあって、「他の人の考えを否定することが、やるべきこと」ぐらいになっていた時期が、あると思います。
医療に関しては、専門家ですら予想が外れて、結局、一貫して正しいことを言っていた人はいるのかなって思いました。みんな、少しずつ正しくて、少しずつ間違っているという感じでした。
さすがに、「もう少し、他の人の意見も尊重して、協力した方がいいのでは」と思いました。
〇13の病院に協力を依頼して
医療従事者をモデルにしたいと思った理由は、何ですか。
ゴールデンウィーク前に、ステイホームをテーマに写真展をやりたかったんです。「だれが言ったら、説得力があるかな」と考え、医療従事者だと思いました。
ゴールデンウイークには間に合わなかったのですが、ステイホームがテーマでなくても、「医療従事者を撮りたい」と思いました。「大変だけど、充実したいい表情をしているだろう」と考えたんです。
身の危険もかえりみず、責任感を持って働いている彼らの貴さを、一般の人に伝えて、これからも困難が予想される中で、「自分ができることを、精一杯しよう」と思ってもらうきっかけになればと。
13の病院に企画書を送って、OKだった唯一の病院にお願いしました。
〇堂々として、仕事に誇り
撮影時に、現場で働く医師や看護師、様々な職種の医療従事者に会って、どんな印象を受けましたか。
撮影の時は皆さん、きりっとしてました。もう少し、疲れている感じとか、感染へのおそれとか、差別されることとか、ネガティブなものを持ちつつ頑張っている、っていう雰囲気があるのかと思っていました。
けれど、彼らがカメラの前に立つと、堂々としてて、仕事に誇りを持っている表情でした。「最前線の病院で働いている」というプライドもあるだろうし、「怖がっていたら、仕事できない」って感じなんでしょうね。
医療従事者の家族は感染リスクが高いと思われ、差別されるという報道もありました。
直接、関わりがないと、労働環境やそうした立場を想像するのは、難しいのでしょうね。「医療従事者」っていう、ひとくくりでしか考えない人が多いですし…。
〇「ありがとう・がんばろう」感じて
ウィズコロナの新しい生活は、どうなっていくと思いますか。
新しい生活とはいっても、そのうちだんだん、多くの部分は元に戻っていくと思います。気をつけるポイントに慣れてきて、落ち着いていくというか…。
ただ、「コロナの時の、あのやり方はよかった」っていうことが、お金に関することであれば、それは定着するかもしれないと思いました。お勤めの人は、リモートワークや、オンライン化が効率的だったり、ストレスを減らせたりという部分はあったでしょう。
新しい日常って、論理やモラルや理想では、定着しないけれど、そういう部分は、取り入れられるのではと思います。
感染予防の緊張感も、エッセンシャルワーカーへの思いも、薄れていってしまうのでしょうか。今回の写真を通して知ってほしいこと、メッセージは何ですか。
写真展の意図は、展示のパネルに「ありがとう。がんばろう。」って書いてあるように、医療従事者がいい仕事をして、いい表情をしているのを見て、「自分も、頑張らなくちゃ」って思ってもらうことなんです。せめて、感謝だけでも感じてもらえたら嬉しいです。