乳児の死亡率の実情をさぐる(2023年公開版)
経済の好調さや公衆衛生、医療技術の進歩など、社会全体にとって弱者が過ごしやすいか否かを推し量る物差しの一つとなるのが、体力が十分でない幼い子供がどれだけ生存できるかの割合。日本におけるその実情を、厚生労働省が定期的に調査・結果の発表を行っている人口動態統計の公開値をもとに、乳児(生後1年未満の子供)の死亡率の推移から確認する。
2023年9月に発表された人口動態統計(確定数)の最新値となる2022年分によると、2022年における乳児死亡率は1.8(対1000人比)。そして実際の死亡数は1356人。世界的に見ても低い値を示しているものの、わずか70年近く前(1955年)では、日本でも1年で6万8801人が亡くなり、死亡率も39.8と高い値だった。乳児死亡率は地域・社会全体の保健水準・生活水準を指し示す指標の一つであり、環境が大いに改善されたことが分かる。
衛生面・経済面での生活環境改善がさらに理解できるのが、次の死因数に関する値。戦後間もなくにおいては肺炎や腸管感染症(腸炎などの感染症疾患)を起因するものが多く、1960年ですら肺炎のみで年間1万人以上の乳児が亡くなっていた。
最大死亡原因だった肺炎、そして腸管感染症も医学の進歩や各種環境の向上でその数を大きく減らしている。直近年の2022年では肺炎は11人、腸管感染症は2人にとどまっている。その他の要因も数的には減っており、死因全体比には大きな変化はない(件数そのものが減っているのは少子化の影響もある)。
なお2011年においては不慮の事故の件数・全体比がそれぞれ前年から2倍近くに跳ね上がっている(2010年が113人だったのに対し2011年は199人)。これは言うまでもなく同年に発生した東日本大震災によるものと考えられる。震災の影響は乳児の死因にも影を落としている。
わらべ歌の「通りゃんせ」のフレーズにある「七つのお祝いに お札を納めに参ります」は、かつては乳幼児の死亡率が高く、7歳まで生き延びることが今と比べて難しかった、無事に成長してその歳まで生きながらえたことを祝う儀式を表している、とする解釈がある。日本でも過去においては乳児の死亡率が高く、上記グラフにあるような値を示す状況にあった事実を知るとともに、昨今の環境整備・各方面の努力によって現状が支えられていることを、改めて認識しなければならない。
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