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【体操】恐怖心と闘う内村航平

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
恐怖心と闘っている内村航平(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

■21日、体操種目別W杯カタール・ドーハ大会開幕

 左足の負傷で戦列を離れていた五輪2大会連続金メダリストの内村航平(リンガーハット)が、いよいよ実戦に復帰する。体操の種目別ワールドカップ(W杯)カタール大会は3月21日から24日まで中東カタールの首都ドーハで開催される。

 内村にとっては、試合中の負傷で途中棄権した昨年10月の世界選手権(カナダ)以来、約半年ぶりの実戦。テーマは“恐怖心を打ち破る”ことだ。

3月17日、カタールへの出発前に取材に応じる内村航平(撮影:矢内由美子)
3月17日、カタールへの出発前に取材に応じる内村航平(撮影:矢内由美子)

■昨年10月、跳馬の着地で左足を負傷

「左足の前距腓靱帯不全断裂」というケガを負ったのは、昨年10月2日の世界選手権個人総合予選。2種目めの跳馬で着地したときだった。

 リオデジャネイロ五輪で団体総合と個人総合の2つの金メダルをもたらす原動力となった大技「リ・シャオペン(ロンダートひねり前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり)」に挑んだ内村は、ピタリと着地を止めて成功したが、着地の衝撃により、左足を痛めていた。激痛をこらえながら次の平行棒までは出たが、4種目目の鉄棒で直前練習を行った後に棄権を申し出た。

「国際大会の試合中に演技をやめたのは人生初」(内村)という痛恨の負傷で、世界選手権7連覇の夢が散った。国内外の個人総合連勝記録も40でストップした。

■約半年ぶりの実戦復帰

 その後は予定していたすべての大会をキャンセル。治療とリハビリに専念する毎日を過ごし、今回は約半年ぶりの実戦復帰だ。

「まずは試合感を取り戻すことと、跳馬でケガをしてしまったので、試合でしっかりと跳馬をできるかの確認です」

 カタールに出発した3月17日の取材で、内村は今回の試合のテーマについてこのように語っていた。

 そして、2種類の演技を行う跳馬では技の難度を示すDスコア5・6の「ヨー2(前転とび前方伸身宙返り2回半ひねり)」と、Dスコア5・2の「シューフェルト(伸身ユルチェンコとび2回半ひねり)」を跳ぶ予定であると話した。

「リ・シャオペン」は技の前半部分が「シューフェルト」と同じで、台に手をついてから着地までは「ヨー2」と同じだ。

 内村は、「今後もまたリ・シャオペンをやっていきたいので、それにはまず、ヨー2をしっかりできないといけない。やはり着地に恐怖心があるので、それを克服しないといけないと思っています」と説明した。

■過去にも恐怖心と闘っていた

2月1日の公開練習で報道陣と話す(撮影:矢内由美子)
2月1日の公開練習で報道陣と話す(撮影:矢内由美子)

 過去にも恐怖心を覚えたことがある。2月の取材で打ち明けた「3、4年前にアキレス腱を痛めたときのこと」だ。

「ゆかの3回ひねりは跳ぶときに高さが必要で、アキレス腱にすごくダメージがかかるんです。僕はアキレス腱を切ったら競技人生は終わりだと思っている。なので、アキレス腱を少し痛めてからは、ゆかの3回ひねりが少し怖いですね」と吐露していた。

 内村は18日にドーハに着いてからの練習で最終チェックを行い、あん馬、つり輪、跳馬、鉄棒の4種目にエントリーした。復帰初戦でカギとなる跳馬は大会2日目の22日に予選、最終日の24日に決勝が行われる。

「怖いというのが今は勝ってしまっているけれど、やっていかないと世界で勝負はできない。ただ今回は、ここで恐怖心を打ち破るまでいかなくても、跳ぶことで何かをクリアできると思う。もちろん成功すれば良いが、100%成功させなくても恐怖心を一つ超える何かを得られればいい」

 足の状態は70%程度まで回復しているというが、まだ100%ではない。そのためヨー2を跳ぶかどうかの最終的な判断は試合直前になるものと見られるが、「今までケガをしてから辛く苦しい思いをしてきたので、ここで一気に発散したい」という思いもあるという。

「(Dスコア)5・6以上の技はほぼ全部、命がけです」

 2020東京五輪への再スタートの第一歩は恐怖心との闘い。五輪王者が抱く恐怖心とは如何ばかりのものなのか。誰も知り得ない大きな壁に、内村は立ち向かう。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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