SDGsとファッション ZOZOの新たなビジョンが変える「作る責任」とビジネス
近年、深刻化する海洋プラスティックだが、11月25日から韓国の釜山で重要な会議が始まった。UNEP国連環境計画のもと、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約策定のための政府間会議だ。世界の海には毎年500mlペットボトル5000億本相当のプラスチックが流出し、血液などからもマイクロプラスティックが検出されており喫緊の課題となっている。(海のプラスティック汚染(1) 「血液」「コーラ」「海老」からも検出…米国コロンビア大学教授の警告を参照。)
この国連会議に関連し、さまざまな業界のプラスティック削減の取り組みを紹介する。今回はファッション業界。株式会社ZOZOが運営するファッションEC「ZOZOTOWN」は商品取扱高5,743億円(2024年3月末時点)、年間購入者数は1,168万人(2024年3月末時点)というファッション業界の巨人だ。ZOZOでは2021年に「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」というサステナビリティステートメントを発表し、海洋プラスティックに関する取り組みにも着手している。
◉世界海洋デーに国連大学で行われたリサイクルのワークショップ
2024年6月8日の世界海洋デー。東京の表参道にある国連大学で、ZOZOは海洋プラスティックに関するワークショップを行った。国連大学前で開かれていたファーマーズマーケットの横の明るいガラス張りのテラスは、ワークショップに参加する親子連れでいっぱいだった。これは、世界海洋デーに行われた「海のSDGs映画祭」の併設イベントだ。
ワークショップの内容は、一見つながりが分かりにくい「ファッションと海の関係性」を学ぶというもの。この日は、海岸などで回収したペットボトルを繊維原料としてリサイクルしたTシャツに、参加者が描いた絵を印刷するワークショップや、海岸や街に廃棄されたペットボトルキャップからできたビーズでストラップを作るワークショップなどが行われていた。また、「ファッションと海洋問題」を楽しく学べるクイズコンテンツも用意されていた。
この日の責任者は迫田英希さん。株式会社ZOZOのサステナビリティ推進ブロックに所属している。
「たくさんの方、特に親子づれの方々に、ファッションと海洋問題について学びながら楽しく体験してもらえました。海洋問題に関するワークショップは初めての試みでしたが、参加者からは記憶に残るものになったという嬉しいお声をたくさんいただきました。」
ワークショップの会場内には、沖縄などの海岸で拾った漁業で使用するブイや、海外から流れ着いたペットボトルなどのプラスティックゴミが展示してあった。年間でどれだけの量のプラスティックが海岸に流れ着いてしまうか学んだり、リサイクル商品の原料となるプラスティックごみからできたペレットなども実際に見ることができた。展示されていたプラスティックごみを手にとった親子連れは「毎日の生活から出ているゴミがこんなに海にあるなんて、あらためて驚きました。子供と一緒に考えたいです。」と語っていた。
人気があったのは、自分で描いた絵をリサイクルTシャツに印刷できるコーナーだ。この日、提供していたリサイクルTシャツには、海岸で拾われた海洋プラスティックごみをリサイクルした素材が使われており、実際にそのリサイクル素材を使用した商品がZOZOTOWNでも取り扱われている。
「当社のお客さまの中には、環境配慮型の商品を求める方がいらっしゃいますし、以前よりもそういう方が増えてきていると思います。今後も、こういったワークショップやZOZOTOWN上での発信を通して、サステナブルな商品を選ぶという選択肢をお客様に伝えていきたいと思います。」
◉大量生産へのオルタナティブな選択肢「Made by ZOZO」
迫田さんは、数年前に、自ら進んでサステナビリティ推進ブロックの仕事がしたいと手を挙げた。
「ファッションは多くの方の日常を豊かにするものですが、ファッションを長く楽しむためには環境問題をはじめとしたサステナビリティの実現が必要不可欠です。今後も取引先などのステークホルダーの皆さまと協働して課題解決を目指します。」
近年、ZOZOがファッション業界の課題である大量生産・大量廃棄の課題解決に貢献しようと取り組んでいるサービスが「Made by ZOZO」だ。これは最低1着から生産をおこない、商品を受注してから最短10日で発送する受注生産プラットフォームだ。これまでファッション産業でおこなわれてきた大量生産とは真逆の提案になっている。1,000万人を超える年間購入者数をもつZOZOTOWNならではのノウハウや蓄積されたデータの積み重ねが活かされていて、商品を受注した後に生産工程に入るため、環境にもやさしい画期的な取り組みだ。
参加の可否はブランドごとの判断で、例えばユナイテッドアローズや、シップスなど著名なブランドが参加している。受注生産方式で、ブランドにとっては在庫リスクを抱えずに取り組めることから環境面でもビジネス面でもメリットがあるオルタナティブな選択肢となっている。
◉インクルーシブウェアの受注生産「キヤスク with ZOZO」障がい当事者の洋服の悩みにも対応
さらに、「Made by ZOZO」を通じて2024年8月から新たに開始したサービスがある。それはインクルーシブウェアを受注販売できる「キヤスク with ZOZO」だ。インクルーシブウェアとは、障がいの有無や体型の違い、性別などに関係なく、誰もが便利に使える「インクルーシブデザイン」の考え方を取り入れた服のこと。第一弾として挑戦しているのは、車椅子ユーザーの洋服の悩みを解消することだ。これまで多くの車椅子ユーザーにとって、機能性とデザインを併せ持つ洋服を選ぶことが難しいという悩みがあった。機能を優先して服を選ぶことで選択肢が限られてしまうためだ。既製服のお直しサービスを行なっている「キヤスク」と協業し、「Made by ZOZO」の受注生産の仕組みを活かして、障がい当事者を含む全ての人がファッションを楽しめるようなデザインと機能性を併せ持つ洋服の受注生産を始めた。あらかじめ複数のインクルーシブウェアのデザインを「キヤスク with ZOZO」で用意することで、ブランドは在庫を持つことなくインクルーシブウェアの販売が可能になる。また、「キヤスク with ZOZO」では豊富な色展開を揃えることができるため、障がい当事者も「自分好み」の服を選ぶことができる。第一弾のパンツは脚のサイド部分に大きなファスナーがついていて車椅子のままでも着脱しやすい工夫がなされている。最大56サイズの商品展開が可能で、一人ひとりにあったサイズのアイテムが提供されている。
ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す生産支援プラットフォーム 「Made by ZOZO」。大量生産という課題に向き合い、なおかつ、これまでファッションを楽しむことが難しかった顧客に、ファッションの楽しさを届ける革命的な仕組みとも言える。
◉プラスティックハンガーの削減協力を依頼
具体的なプラスティックの削減では、ハンガー利用の抑制にも取り組んだ。ブランドから入荷される商品の一部は、ハンガーにかけて納品されるが、ハンガーレスが可能な商品はブランド判断のもとハンガー付属での納品を控えていただく依頼をかけた。
迫田さんたちが、この取り組みを各ブランドに依頼するにあたって、当初は、品質を維持したまま納品方法を変えてもらえるかが懸念だった。しかし、取り組みを始めるタイミングで「プラスティック資源循環促進法」が施行し、依頼の後押しとなった。当時の小泉進次郎環境大臣が、コンビニの袋などを有料にした法案だが、同時に、使い捨てハンガーや、ホテルでの使い捨て歯ブラシなどの規制もこの法案で決められた。「プラスティック資源循環促進法」の法案施行により、今後も社会全体での意識が高まっていくだろう。
◉地元・千葉の海への想い リサイクルのボタン
本社が千葉県にあるZOZOはこれまで千葉県で地域貢献を行ってきた。2023年度には、千葉県内の海岸で県内の大学生や高校生とビーチクリーン活動を実施。マテリアルリサイクルをおこなう一般社団法人オーシャン太郎と共に、ペットボトルキャップをリサイクルし、ボタンを製作した。2024年3月からは千葉県内で、日本財団が推進する海洋ごみ対策プロジェクト「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE」に参画し、活動を行った。
拾ったペットボトルキャップをリサイクルして作られたボタンは、ZOZOTOWNで販売中のナノ・ユニバースのパンツアイテムなどに使用されている。前述の「Made by ZOZO」によって受注生産されているアイテムでサステナブルな生産の仕組みの一端を担っている。
◉ファッション業界「つくる責任 つかう責任」
ファッション業界と海洋プラスティックの関係は、非常に入り組んでいる。2023年に私が執筆した記事の中でも、化学繊維の歴史と、洗濯によって排出されるマイクロプラスティックの問題を取り上げた。 (海のプラスティック汚染(2) 洗濯からも排出…増えるファストファッション 海の酸性化と温暖化の一因にを参照。)化学繊維がもたらした豊かさと大きな影響を考えると、ファッションと海洋プラスティックの問題解決は非常に困難だ。
印象的だったのは迫田さんが、何回も「課題解決」という言葉を使ったことだ。かつてはビジネスと「気候変動」の関係性について小さく捉えられていたが、今は気候変動によるリスクと機会を分析し、ビジネスを通じて環境や社会を改善する必要があるという意識を強く感じた。
迫田さんは、「今の対策だけで、全てが解決するわけでないことはわかっています。でも、会社のビジネスを通じた課題解決を、僕らは一つの指針としています。SDGsや海洋プラスティックに対するアクションも、足元から始めることが大切だと信じています」と語った。
影響力がある会社の一歩は、小さく見えても社会的なインパクトが大きい。迫田さんたちが積み上げる一歩一歩に、一人の消費者として期待し、協力したいと思う。SDGsの目標の12の「つくる責任 つかう責任」を果たすには、生産者と消費者の双方の努力が必要なのだから。