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国連プラスティック条約 産みの苦しみ 条文をめぐりギリギリの攻防つづく 12月1日に閉幕予定

海南友子ドキュメンタリー映画監督
11月29日夜に開かれた緊急記者会見 条約の策定ぎりぎりの攻防(海南友子 撮影)

  11月25日から韓国の釜山で開催されている「国際プラスティック条約」策定のための最終会合が大詰めを迎えている。各国の政府代表団は連日、条文をめぐって長時間の議論を重ねギリギリの攻防を続けているが会議は紛糾している。

 UNEP(国連環境計画)のもとで、2025年に策定予定の「国際プラスティック条約」は、2022年から検討されこれまでに4回政府間会合が世界各地で開かれてきた。今回の釜山会議が、最終となる5回目の政府間会合だ。12月1日の会期末までに、条約案をまとめるべく全ての関係者が議論を続けているが「プラスティックの生産削減」について関係者の意見は割れている。

 会議での合言葉は「End Plastic Polution」。世界で深刻化する「プラスティック汚染を終わらせる」の意味だが、2つの方向で揺れ動いている。「プラスティックの生産削減」について、産油国などが批准しやすい緩めの規制でとどめるか、実効性のある厳しい規制内容にするかで隔たりを解消できないままだ。

11月29日朝に会議場の前で開かれた国際NGOの合同緊急アピール・韓国/釜山(撮影:海南友子)
11月29日朝に会議場の前で開かれた国際NGOの合同緊急アピール・韓国/釜山(撮影:海南友子)

 紛糾する会議に対して、11月29日朝、オブザーバーとしてこの国連会議に参加している多くの国際NGO149団体が連名で緊急声明を発表。NGOを代表してスピーチしたのは、17歳のインドネシア人のニナさん。彼女の故郷は、日本などの先進国が「リサイクル」の名目で輸出したプラスティックゴミで汚染され、深刻な状況であることから、12歳でこの問題に関心を持った。今回は、母と一緒にインドネシアのNGOの一員として参加した。

 「会議閉幕までに残されたのは36時間。最終日まで妥協せずに、勇気を持って議論を進めてほしいです。このまま脆弱な規制しかない条約を生み出しても、プラスティック汚染は終わらないし、不必要な汚染を増やすことになります。積極的にこの問題をリードしようとしている国々と、サイレントマジョリティーの国々は、今どんな規制が必要なのか理解しているはずです。だから、私たちは希求します。私たち自身と、未来世代の健康のためにも、どうか強い規制を盛り込んだ条約を策定してください!」

 17歳の女性からの強いメッセージに、会場からは温かい拍手が起こった。

インドネシアの17歳のニナさんと、日本から国連会議に参加した「プラスティック若者会議」の若者たち(撮影:海南友子)
インドネシアの17歳のニナさんと、日本から国連会議に参加した「プラスティック若者会議」の若者たち(撮影:海南友子)

強い口調で、実効性のある削減目標を「プラスティック条約」に盛り込むように求めたパナマ政府代表(撮影:海南友子)
強い口調で、実効性のある削減目標を「プラスティック条約」に盛り込むように求めたパナマ政府代表(撮影:海南友子)

 29日夜には、会場内のプレスルームで、パナマ、フィジーなどの代表が緊急の記者会見を開いた。29日夜にはもともと条約の全体像を伝える全体会議が予定されていたが、急遽キャンセルとなった。29日は朝から、非公式の会合が一日中続けられており、前日までの条文ごとの会議のまとめをおこなっていた。しかし、全体会議が翌日以降に持ち越されたのは、ひとえに条文をめぐって紛糾しているためだ。

 会議の紛糾に痺れを切らした政府代表団らが開いた緊急記者会見でパナマ代表は「People(人々)のための条約なのか、Profit(利益追求)のための条約なのか。」と問いかけ、プラスティックの生産削減に意欲的な目標を条約に盛り込むことを呼びかけた。ミクロネシアの代表は「私たちは漁業と共に生きてきたが、多くのマイクロプラスティックを摂取している。今後の健康被害の全容は世界の誰も掴めていない。」フィジーの代表は「どんなに素晴らしいリサイクルシステムが構築されようとも、生産量の削減無くしてはすべてはザルである」と主張。パナマ代表からは「No Green Wash Recycle Treaty (環境にいいとみせかけるリサイクルのための条約にしてはならない)」と強い言葉も飛び出した。

 2040年までには年間3億トンものプラスティックが海や川に流れ込むと予測され、温暖化の促進や、生態系への影響、人体への影響など多くの課題がある中で、会議の最終日までは残された時間は後2日。果たしてどのような着地点となるのか、文字通り地球環境の未来を占う2日間となる。

ドキュメンタリー映画監督

71年東京生まれ。19歳で是枝裕和のドキュメンタリーに出演し映像の世界へ。NHKを経て独立。07年『川べりのふたり』がサンダンス映画祭で受賞。世界を3周しながら気候変動に揺れる島々を描いた『ビューティフルアイランズ』(EP:是枝裕和)が釜山国際映画祭アジア映画基金賞受賞、日米公開。12年『いわさきちひろ〜27歳の旅立ち』(EP:山田洋次)。3.11後の出産をめぐるセルフドキュメンタリー『抱く{HUG}』(15) 。2022年フルブライト財団のジャーナリスト助成で米国コロンビア大学に専門研究員留学。10代でアジアを放浪。ライフワークは環境問題。趣味はダイビングと歌舞伎。一児の母。京都在住。

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