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王将位通算12期の羽生善治九段(49)今期リーグ初戦で豊島将之名人(29)を降す

松本博文将棋ライター
混戦の様相を呈してきた王将戦リーグ(画像作成:筆者)

 10月16日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲豊島将之名人(29歳)-△羽生善治九段(49歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は20時17分に終局。結果は132手で羽生九段の勝ちとなりました。

 本局がリーグ初戦の羽生九段は、1勝0敗となりました。羽生九段は王将復位、タイトル通算100期に向け、名人を降して力強いスタートを切った格好です。

 一方の豊島名人は4戦目で、2勝2敗となっています。

羽生九段、名人に逆転勝ち

 王将位通算12期、タイトル合計99期のレジェンドが、現役名人と対戦。このように王将リーグは、どこもかしこも好カードばかりです。

 豊島名人はここまで2勝1敗。3戦目では藤井聡太七段を相手に、逆転勝ちを収めています。

【前記事】

将棋界最高峰の豊島名人(29)あまりに強し 藤井七段(17)に圧巻4連勝

 本局が始まるまで、豊島名人と羽生九段は過去に32回戦って、両者16勝と全くのイーブンでした。

 本局は豊島名人の先手で、戦形は互いに飛車先の歩を交換し合う相掛かりとなりました。そして駒組が進んだ後、互いに横歩を取り合う展開となっています。

 中盤戦は難しく、しかし始まってしまえばとても短かった。あっという間に互いの玉に駒が迫って、終盤戦に入りました。

 豊島名人は羽生九段の鋭い追及をかわしながら、玉を中段に逃がすことに成功します。羽生陣に入り込んでしまう入玉のルートも見えており、豊島名人がはっきり優位に立ちました。

 豊島名人が五段目まで進んだ玉を、早めにもう一段前に進めておけば、きわどいところですが、明解に勝ちへと近づいていたようです。

 本譜は羽生九段が、あの手この手と手段を尽くし、豊島名人を楽にさせません。しかし豊島名人も自然に応対をしながら、ついに羽生陣奥深く、一段目にまで玉が潜り込みました。もうそうなれば、並大抵のことでは捕まらないとしたものです。

 ところが恐ろしいことに、豊島玉は、いつしか寄り形になってしまいました。名人は終盤の秒読みの中、どこかで誤ってしまいました。その逆転劇を呼び寄せたのはもちろん、羽生九段の底力に他ならないでしょう。

 豊島名人の駒台には飛飛角角と、4枚の大駒が乗せられました。羽生九段には小駒しかありません。しかしその小駒だけで、中段の豊島玉をしばりつけ、がんじがらめに動けなくしてしまいました。豊島名人は自玉の受けが難しくなったのを見て、駒を投じました。

 これで王将戦リーグは羽生九段以外の6人には全員土がつき、さらに混戦の様相を呈してきました。

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 精鋭揃いの中にあって、挑戦権争いの本命とも見られていた豊島名人は、2勝2敗でやや厳しくなってきたかもしれません。

 中一日を置いて、羽生九段は18日、久保利明九段と対戦します。2010年(2009年度)の七番勝負で羽生九段は久保九段に王将位を明け渡し、以来、王将位には返り咲いていません。

 また18日には糸谷哲郎八段と藤井聡太七段の対戦もあります。

 両対局の結果とも、今後の挑戦権争いを大きく左右することでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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