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慢性的な皮膚のかゆみの謎に迫る - アトピー性皮膚炎と結節性痒疹の深い関連性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎と結節性痒疹 - 驚くべき関連性の実態】

皮膚のかゆみや炎症に悩まされたことはありませんか?最新の研究により、よく知られているアトピー性皮膚炎と、比較的稀な皮膚疾患である結節性痒疹の間に、驚くべき関連性があることが明らかになりました。この記事では、国際的な学術誌「International Journal of Dermatology」に掲載された最新のメタ分析の結果を基に、これら二つの疾患の関係について詳しく解説していきます。

アトピー性皮膚炎は、日本を含む世界中で多くの人々が抱える皮膚疾患です。子どもの約25%、大人の約7%が経験するとされており、非常に一般的な病気です。一方、結節性痒疹はそれほど一般的ではありませんが、激しいかゆみを伴う慢性的な皮膚疾患として知られています。

【メタ分析が明らかにした驚きの関連性】

浙江大学医学部附属第二病院の皮膚科チームによる最新のメタ分析では、これら二つの疾患の関連性について、驚くべき事実が明らかになりました。

研究チームは、PubMed、EMBASE、Scopus、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを網羅的に調査し、2024年2月18日までに発表された関連研究を分析しました。その結果、5つの研究が選ばれ、合計で12,902人の結節性痒疹患者と5,075,024人の対照群が分析対象となりました。

分析の結果、結節性痒疹患者がアトピー性皮膚炎を持っている可能性は、そうでない人に比べて約16.85倍も高いことが判明しました。具体的には、統計学的に調整されていないオッズ比が16.85(95%信頼区間:6.13-46.31)でした。これは非常に強い関連性を示す数字です。

さらに興味深いことに、アトピー性皮膚炎患者の中で結節性痒疹を発症する割合も調査されました。5,463人のアトピー性皮膚炎患者を対象とした研究では、結節性痒疹の有病率が2.00%(95%信頼区間:1.62-2.37%)であることが分かりました。これは、一般人口と比較して約12.5倍も高い割合です。

【二つの疾患の共通点と相違点】

アトピー性皮膚炎と結節性痒疹は、いくつかの重要な特徴を共有しています:

1. 強いかゆみ:両疾患とも、激しいかゆみを主症状とします。

2. 慢性的な経過:どちらも長期間にわたって症状が持続します。

3. 皮膚の炎症:両疾患とも、皮膚に炎症を引き起こします。

4. 免疫系の関与:どちらもTh2型の免疫反応が関与しているとされています。

一方で、いくつかの違いもあります:

1. 発症年齢:アトピー性皮膚炎は多くの場合、幼少期に発症しますが、結節性痒疹は通常、成人期に発症します。

2. 皮疹の特徴:アトピー性皮膚炎は湿疹様の皮疹が特徴的ですが、結節性痒疹はドーム状の硬い結節が特徴です。

3. 分布:アトピー性皮膚炎は体の様々な部位に現れますが、結節性痒疹は主に四肢の伸側に集中する傾向があります。

【関連性のメカニズムと治療への影響】

これらの疾患の関連性については、いくつかの仮説が提唱されています。両疾患とも、Th2型の免疫反応が関与しており、IL-4、IL-13、IL-31などの炎症性サイトカインの過剰発現が見られます。また、慢性的な掻破行動が皮膚のバリア機能を低下させ、さらなる炎症を引き起こす「かゆみ-掻破の悪循環」も共通しています。

この関連性の発見は、治療アプローチにも大きな影響を与える可能性があります。例えば、デュピルマブという薬剤は、IL-4とIL-13の働きを抑制することで、アトピー性皮膚炎と結節性痒疹の両方に効果を示しています。また、IL-31の働きを抑制するネモリズマブも、両疾患に対して有効性が確認されています。

【日本人患者への影響と今後の展望】

日本では、アトピー性皮膚炎の有病率が比較的高いことが知られています。今回の研究結果を踏まえると、アトピー性皮膚炎患者の中に、結節性痒疹を併発している、あるいは将来的に発症するリスクが高い患者が一定数存在する可能性があります。

医療機関では、アトピー性皮膚炎患者の経過観察において、結節性痒疹の症状にも注意を払う必要があるかもしれません。同様に、結節性痒疹と診断された患者についても、アトピー性皮膚炎の既往や潜在的なリスクについて評価することが重要になるでしょう。

また、これらの疾患が生活の質に与える影響も無視できません。強いかゆみや目立つ皮疹は、日常生活や心理面に大きな負担をもたらす可能性があります。そのため、早期診断と適切な治療が非常に重要です。

【患者さんへのアドバイス】

1. 症状に気づいたら早めに受診:アトピー性皮膚炎や激しいかゆみを伴う皮疹がある場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。

2. 詳しい病歴を伝える:医師に症状の経過や家族歴などを詳しく伝えることで、より適切な診断と治療につながります。

3. 日々のスキンケアを大切に:保湿を心がけ、刺激の少ない製品を使用するなど、日常的なケアが重要です。

4. ストレス管理:ストレスが症状を悪化させることがあるため、ストレス管理も大切です。

5. 最新の情報に注目:治療法は日々進歩しています。医師と相談しながら、最新の治療法について情報を得ることも大切です。

今回の研究結果は、皮膚疾患の複雑さと、それらの密接な関連性を示す重要な一歩となりました。アトピー性皮膚炎と結節性痒疹の関係性について、さらなる研究が進むことで、より効果的な診断法や治療法が開発されることが期待されます。皮膚の健康は全身の健康と密接に関わっています。自分の体に耳を傾け、気になる症状があれば躊躇せずに医療機関を受診し、適切なケアを受けることが大切です。

参考文献:

1. Li, W., Pi, Y., & Xu, J. (2024). Association between atopic dermatitis and prurigo nodularis: a systematic review and meta-analysis. International Journal of Dermatology. doi: 10.1111/ijd.17493

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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