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奈良京都、油吹きつけ事件の犯罪心理学:落書きとの違い・模倣犯の防止

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■奈良京都の文化財に連続油吹きつけ事件発生

奈良の重要文化財、国宝に油が吹き付けられた事件に続き、京都の世界遺産二条城でも、同様の油拭きつけ事件が発生していたことがわかりました。

奈良と京都の寺社などで油のような液体がかけられる被害が相次いでいる。7日には、京都市の世界遺産・二条城でも同様の被害があったことが分かった。奈良県警が文化財保護法違反などの疑いで捜査しており、各地の寺社や自治体は警戒を強めている。

出典:文化財に液体かけられる被害 京都・二条城や奈良の寺社 朝日新聞デジタル 4月8日

■落書きとのちがい

文化財をに危害を加える行為として多いのは、「落書き」です。小さな落書きをする人の多くは、あまり罪の意識がないでしょう。その文化財がどれほど価値があり、人々が大切にしているかを理解していません。軽い気持ちで、本人としては、ユーモラスないたずら心で行うでしょう。

落書きは、一種の「マーキング」です。ですから、犯罪行為なのに、自分の名前を書く人もいます。自分がここに来たという証拠として、絵やメッセージを残します。

今回は、自分の行為が違法行為であると意識していたでしょう。ユーモラスな気持ちなどはなかったでしょう。

スプレーで大きくいたずら書きをするような行為は、もっとあからさまな破壊行為だったり、その人なりの芸術表現だったり、ある種のメッセージ性があるでしょう。

破壊行為という点では、スプレーの落書きと似ていますが、それほどのメッセージ性は感じません。また、スプレーでの落書きは時間がかかりますし、目撃されれば目立ちます。今回は、目立たないように、一瞬で行われたでしょう。

ちなみに、大学のトイレの落書きに関する社会心理学の研究によれば、「落書き厳禁(学長)」と張り紙するとかえって落書きが増えたという実験もあります。「落書きはやめよう(校内美化委員会)」の張り紙は、落書きを減らしました。大学のトイレに落書きする人は、上から強く禁止されると、かえって心理的に反発するようです。

■ペンキとの違い

何かに強く抗議するときに、看板などにペンキを投げつける人もいます。たとえば、最高裁判所の結論に強く抗議し、正しいあるべき最高裁ではないという思いを込めて、最高裁の名前にペンキを塗りつけます。

今回は、そのような強い抗議という意味もないでしょう。また、ペンキはすぐに大きく目立ちますし、自分にペンキがつくこともあります。油は、すぐには目立たず、自分についても目立ちません。ペンキよりも、油をつけるほうが、簡単にできるでしょう。

■社会への不満か

社会の中で生きているのに、何かが上手く行かない不満、不全感があるとき、その社会の中で上手くいっている人やもの、その社会が大切にしているものへの攻撃心が生まれます。この事件の犯人も、社会への不満があった考えられます。ただし、きちんと整理された不満や抗議内容ではなく、何となく不満に感じているのでしょう。

大きな破壊行為をするような技術も度胸も覚悟もなく、しかし社会の人々を困らせたり、目立ちたいと思ったとき、文化財に油を吹き付ける行為は、ちょうど良い行為だったのでしょう。簡単に、一瞬に吹き付けられますが、油の跡をきれいに消すことは難しいでしょう。文化財ですから、簡単に削るわけにもいきません。

日常生活で不満を感じている人は、たくさんいます。酔って、電車内の人に絡んだり、看板をけとばす人もいます。その人や看板に恨みがあるわけではありませんが。

ただ、今回の犯人は、その場で衝動的に犯行に及んだのではありません。どこかで油を仕込み、いくつかの場所を回って、実行したのでしょう。本人としては、ちょっとした知能犯きどりだったのかもしれません。ただし、本当のルパン三世やネズミ小僧のような、すごい犯罪者では決してありません。

■模倣犯を防ぐために

簡単に実行できてマスコミが騒いでくれるような犯罪行為は、愉快犯としての模倣犯が出やすい犯罪です。模倣犯を防ぐためには、犯人の一日も早い逮捕が必要ですが、簡単にはいかないでしょう。

模倣犯を防ぐ方法としては、まず警備を厳しくして、簡単にこんなことはできないと伝えることです。軽い気持ちの行為としても、逮捕されれば大事になると伝えることも良いでしょう。

そして、こんなことをしても、世間は少しも感心せず、敬服もしないと伝えることでしょう。こんな行為は、割りに似合わず、そしてとてもかっこ悪いとわかってもらうことが、類似犯罪の防止につながるでしょう。

*補足6/2

容疑者に逮捕状が出ました。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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