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サンウルブズ、5年間の活動終了。ラグビー日本代表のW杯ベスト8進出に大きく寄与した世界への挑戦

斉藤健仁スポーツライター
サンウルブズは2016年に参戦。厳しい戦いを強いられたが多くのファンに愛された(写真:アフロスポーツ)

 8月8日(土)、2016年からニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンといった南半球の世界最高峰を誇るプロリーグ「スーパーラグビー」に参戦していた日本を本拠地とする「ヒトコミュニケーションズ サンウルブズ(以下サンウルブズ)」が東京・秩父宮ラグビー場でメモリアルセレモニーを行い、すべての活動を終了した。

 2016年からサンウルブズがスーパーラグビーに参戦した大きな理由の一つは、紛れもなく2019年ラグビーワールドカップ(W杯)における日本代表強化のためだった。ただ、サンウルブズの選手たちの中にはトップリーグや日本代表と掛け持ちする選手が多く、さらに他のチームよりも準備期間が短く、南半球などへの移動距離も長かった。そのため最下位争いをすることも多く、5年間の通算成績は9勝1分58敗と大きく負け越した。

 それでもラグビーW杯でベスト8に躍進した日本代表FLリーチ マイケル主将をはじめ多くの選手が日本代表の選手たちは「サンウルブズがあったからここ(ベスト8)まで来られた」と言った。サンウルブズの初代キャプテンを務めたHO堀江翔太も「サンウルブズで、ある選手が『海外の選手と試合するのが普通になってきた』と言っていた」と話したように、個々の選手にとっては経験慣れが、ワールドカップでも大きなプラスになった。

 2015年ラグビーW杯における日本代表メンバー31名を見ると、リーチキャプテンや堀江、そしてパイオニアであるSH田中史朗などが海外のチームでスーパーラグビーを経験していたが、多くの選手はスーパーラグビー未経験だった。

 ちなみに2015年の日本代表31名で、スーパーラグビーの試合に出たことがあったのはSH田中(ハイランダーズ)、HO堀江(レベルズ)、FLリーチ(チーフス)、CTB/WTBマレ・サウ(レベルズ)、PR稲垣啓太(レベルズ)、FL/No.8ツイ ヘンドリック(レッズ)の6人のみで、出場試合数もそう多くはなかった。

 だが2019年ラグビーW杯の日本代表31名中、PR中島イシレリ、PR木津悠輔の2人を除いて29人がスーパーラグビー経験者だったことは大きな違いであり、2015年のチームより、2019年の日本代表チームには大きなアドバンテージがあったことは明白である。

 2019年ラグビーW杯日本代表選手31名の中で、スーパーラグビーでの試合に一番多く試合に出ていたのは1位SH田中(69試合)、2位はゲームキャプテンを務めることもあったFLピーター・ラブスカフニ(56試合)、3位は堀江(45試合)、4位はキャプテンのリーチ(42試合)、5位ツイ(41試合)、6位No.8アマナキ・レレィ・マフィ(34試合)となった。やはりサンウルブズだけでなく、他の国のチームでスーパーラグビーの試合に出ていた選手が上位にきた。

 ただ、サンウルブズの試合数だけ見ると試合出場数1位は司令塔SO田村優の33試合、2位は茂野海人の29試合、3位は堀江翔太の26試合、4位はPR稲垣啓太の24試合、5位はSH田中の23試合、6位はLO/FLヘル ウヴェの22試合、7位はCTBラファエレ ティモシーの21試合、8位は徳永祥尭19試合、9位は山中亮平の18試合、10位タイがPR具智元とHO坂手淳史の17試合と続いた。

 他にも2019年ラグビーW杯で活躍したLOジェームス・ムーアはサンウルブズの一員として15試合、WTB松島幸太朗は14試合、FBウィリアム・トゥポウは15試合、SH流大とWTB福岡堅樹は13試合、FL姫野和樹が11試合、CTB中村亮土は10試合出場し、世界を肌で感じていた。

 なお2015年ラグビーW杯の予選プール初戦で「ブライトンの奇跡」と呼ばれた南アフリカ代表を撃破した試合を指揮したエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)は、かねてより「W杯で結果を残すためには一人40キャップ(計600キャップ)が必要」と説いていた。この試合の先発の総キャップ数は574で、リザーブを入れると786キャップと経験豊富なメンバーだった。

 それでは2019年ラグビーW杯の予選プール2戦目で世界ランキング2位のアイルランド代表を撃破した「Shock of Shizuoka(静岡のショック)」と言われた試合とキャップ数と比較してみたい。日本代表キャップのみだと先発は392、控えメンバーを入れても605と、やはり2015年のより少ない数字となった。

 ただ日本代表選手たちのスーパーラグビーキャップは、先発FWの総試合出場数は202、先発BKは161、控え選手の総キャップ数は179で、トータルだと542キャップとなる。つまり日本代表キャップとスーパーラグビーキャップの合計は1147となる。2015年メンバーの代表キャップの中には、格下だったアジアとの対戦も含まれており、2019年のメンバーは日本代表としても世界の強豪と多く対戦していたことも考慮に入れると、ラグビーW杯初出場選手が21人と多くとも経験値の高い集団だったことがわかる。

 もちろん日本代表選手はトップリーグ選手でもあり、トップリーグだけでなく、日本代表のテストマッチ、スーパーラグビーという舞台で、より強度の高い練習、試合を通じて、チームと個々を鍛えることがワールドカップでのベスト8という結果につながったというわけだ。

 ただ、サンウルブズは2021年からスーパーラグビーから除外されることが決まっており、新型コロナウィルスの影響で2021年のフォーマットも現状、どうなるか定かではない。トップリーグは2021年1月からのリーグ戦を終えると、2022年1月(予定)からは新リーグに移行することも決まっている。

 日本で行われる新リーグのレベルを上げるとともに、サンウルブズを通して経験できていた世界への挑戦を補うような高いレベルの試合を重ねていかないと、日本代表が2023年ラグビーW杯でベスト8を超えるような成績を収めることは難しくなっていくだろう。

◇2019年W杯、アイルランド代表戦の日本代表メンバー

※()内の数字は当時の日本代表キャップ/SRキャップ

※※☆はW杯初出場

1 稲垣啓太(30/25)

2 堀江翔太(62/45)

3 具智元(9/17)☆

4 トンプソン ルーク(68/8)

5 ジェームス・ムーア(4/6)☆

6 姫野和樹(13/11)☆

7 ピーター・ラブスカフニ(4/56)☆ ◎ゲームキャプテン

8 アマナキ・レレィ・マフィ(25/34)

9 流大(20/13)☆

10 田村優(59/33)

11 ウィリアム・トゥポウ(11/27)☆

12 中村亮土(20/10) ☆

13 ラファエレ ティモシー(19/21)☆

14 松島幸太朗(35/19)

15 山中亮平(14/18)☆

控え

16 坂手淳史(18/17)☆

17 中島イシレリ(4/0)☆

18 ヴァル アサエリ愛(10/6)☆

19 ヴィンピー・ファンデルヴァルト(13/28)☆ 

20 リーチ マイケル(64/42) 

21 田中史朗(71/69)

22 松田力也(21/10)☆

23 レメキ ロマノ ラヴァ(12/7)☆

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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