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JYPパク・ジニョン氏インタビュー<後編>「大切なのはどれだけの情熱と、純粋、謙虚、誠実さがあるか」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックレーベルズ

韓国の総合エンターテインメント会社・JYPエンターテインメントの創業者であり、アーティスト、音楽プロデューサーでもあるパク・ジニョン氏のインタビュー、<前編>ではソニーミュージックとJYPのガールズグループプロジェクト「Nizi Project」について詳しく聞かせてもらったが、<後編>では、K-POPが世界中で受け入れられる理由、さらに現在の日本の音楽マーケットについて思うことまで、数多くの人気アーティストを作り上げたプロデューサーの目を通して感じることを、語ってもらった。

2PM、TWICE、GOT7、DAY6など、JYPが手がけるアーティストは、これまで日本の音楽マーケットの中で、大成功を収めている。日本でヒットさせる秘訣や、方程式のようなものはあるのだろうか。

「コンテンツを作ることを生業としていますが、一度もそれを仕事だと考えたことはありません」

2PM(写真提供/JYPエンターテインメント)
2PM(写真提供/JYPエンターテインメント)
TWICE
TWICE

「私たちはもちろんコンテンツを作ることを生業としていますが、一度もそれを仕事だと考えたことはありません。なぜなら、情熱を持った才能のある、ピュアで謙虚な子供達に、基本的なスキルを教育して、彼らをサポートする事で夢を実現する道案内役という考えの基、助けていきたいという気持ちで、これまでやってきました。だからいくら歌やダンスのスキルがあったとしても、人間的に失望してしまう部分があった場合は、最初からその人をデビューさせません。例えデビューしていても、人間的にがっかりするようなことがあった場合は、事務所から出てもらうことも多かったです。なので、子供達の心の中に、どれだけの情熱と、純粋さ、謙虚さ、誠実さがあるかということを、とても大事にしています。日本のファンの皆さんは、私たちが大切にしている部分というのを、見抜いていらっしゃるんじゃないかなという気がします。人間そのものに、すごく愛情を感じていらして、もちろん歌やダンスも評価してくださっていますが、それ以上に子供達が持っているピュアな心や、私たちが大切に考えている部分を、日本のファンの皆さんがすごくよく見ていてくださっていると感じています」。

「いい歌手である前にいい人であれ」という、パク・ジニョン氏のポリシー、そして「真実」「誠実」「謙遜」という最も大切にすべきことは、アーティストはもちろん、スタッフにも徹底されている。これは自身がJ.Y. Parkとしてアーティスト活動を通して感じたこと、経験が血となり肉となり、表現者としての哲学となった。

「たくさん受け取った愛情や恩恵を、どうやって恩返ししていけばいいのかを常に考えている。絶対にファンを失望させてはいけない」

J.Y. Park
J.Y. Park
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「私に関して言うと、初めてのアルバムが1位になったり、順風満帆なスタートを切ることができたのですが、その時、成功して身に余るものを受け取ったと思いました。売れていくと、様々な恩恵というものが与えられます。例えば食堂に行くと色々サービスをしてくださったり(笑)、そういう小さなことから大きなことまで、たくさん受け取った愛情や恩恵を、どうやって恩返ししていけばいいんだろうというのが、絶えず頭の中にありました。まず思ったのは、やはりファンを失望させてはいけないということでした。何故ならば、ファンにとってアーティストというのは映画における主人公のような存在です。継続的に感情移入をしてくださって、でもファンが信じていた、ファンに見せる姿と、その裏側、私生活がまったく違うものであったとき、ファンが受ける傷というのは計り知れないと思います。そのためにも、私も自分自身に課したのは、とにかく誠実に自己管理をしていくこと、謙虚な姿勢を忘れずに、自分の気持ちを緩めず、怠けずに歩んでいくことです。今、私たちの会社も徐々に大きくなってきて、外からは色々夢も成し遂げたと見えているかもしれないですが、新人の時の気持ちを忘れないで生きていくということを、自分に課しています。あの歌手を応援していてよかったなと思って欲しいという気持ちが、とにかく強いからで、その気持ちに応える、私なりの方法が自分を律することです。昔は好きだった、ということにならないように、10代のときに好きだったあの歌手、今自分が50歳になっても60歳になっても、今でも好きでいてよかった、と思えるそんなアーティストでい続けることが、ファンの皆さんの応援や愛情に応えていく、唯一の方法だと思いました。ですので、恩返ししたいという気持ちをずっと抱いている中で、そういう哲学というものが、より強固になっていったと思います。もちろんそれは、自分が手掛けているアーティストにも伝えていかなければいけません。とにかくファンの皆さんを失望させないこと。あるとき気づいたら、これは私が知っている姿ではなく、偽の姿だったんだと、がっかりさせてしまったら、そのアーティストを私たちが育てた以上、ファンに傷を与えるアーティストを育てているということになるわけですから、もうそれは私にとっては耐えられないことです。言葉というのは、それほど大きな力を持たないと思います。それよりも、私が歌手としてどうやって生きているか、その生き様を見せていくということの方が、若い人達には伝わると思っています」。

パク・ジニョン氏はエンターテインメントが人々に与える影響の大きさを、常に考えている。だからこそ表現者、表現者を目指す者には、厳格さを求める。それは表現者を通して、そのファンに対してもいい人間であって欲しいというメッセージを送っているということだ。

GOT7
GOT7

「次の若い世代にとって、エンターテインメントは影響力が大きいものだと思うので、自分がこれだけの大きな影響力を持っているという自覚があるならば、そのための責任を負う必要があると思います。だからそのために不断の努力をしています。例えばお酒やタバコを控え、汚い言葉は使わないということは、音楽とは直接関係ないように見えるかもしれませんが、まずは私が率先して実践していくことが大事だと思っています。カメラがあってもなくても、カメラの前で使う言葉しか使わない、カメラの前でやっている行動をする、それを原則にしています。それを徹底的に自分が守ることによって、後輩たちはついてきてくれると思っているので、それは会社レベルでも努力していることです」。

「日本でCDが売れているのは、音楽はもちろんそのアーティスト、人間そのものが好きということと同じ意味だと思う」

日本の音楽マーケットの現状についても聞いてみた。世界の音楽業界は、サブスクリプション型音楽ストリーミングが中心になり、もちろん日本もその流れの中に存在するが、CDの売上が落ちているとはいえ、世界各国と比較すると、まだまだ売れている。世界で活躍するアーティストを多く抱えるJYPとしては、日本の音楽マーケットをどう捉えているのだろうか。

DAY6
DAY6

「2つお話させてください。まず外国人から見た日本の音楽マーケットについてお話しさせていただくと、CDがいまだに売れているというのは、イコール歌手が好き、人間そのものが好きということと同じ意味だと思います。音楽が単純に好きなのであれば、ダウンロードして、ストリーミングして聴けばそれで済むわけですよね。でも日本のファンというのは歌手、アーティスト、人間が好きという傾向がとても強いと感じました。これはコンサートや、そこで手にしていただけるグッズとも、全て繋がる話だと思います。音楽が好きなだけではなく、そのアーティストに人間としての魅力を感じているからこそCDやグッズが売れるのだと思います。今後日本でアーティストを展開していく際には、才能だけでなく、よりよい人間性を持った人材を送り出していく必要があると思います。そして2つ目は、私は日本の音楽では、1980年代~90年代の音楽をよく聴いていました。チェッカーズや安全地帯、安室奈美恵、TUBE、久保田利伸、KUWATA BAND、そしてLL BROTHERSやZOO、小室哲哉など、歌も演奏も、ダンスも素晴らしいアーティストが多かったです。もちろんその後も素晴らしいアーティストがたくさん出てきましたが、それが時代が進んでいくにつれ、アーティストの持つ本質よりも、マーケティング重視な考え方に傾いてしまっているのではないかと感じています。マーケティングが発達していくというのは、もちろん必要なことです。でもそれはあくまで演奏と歌とダンスと共に成長していく、正比例して一緒に発展していくべきものだと思います。今回のオーディションで、みんながダンスや歌を学んでいくということの大切さに気づくきっかけになる、またそれが話題になって、みんなが一緒に成長していけるきっかけになればいいなと思っています」。

「世界で受け入れられるには、制作者、プロデューサーが、世界で売れるんだという欲求をどこまで強く持っているかがポイント」

JYPのアーティストを始め、昨年BTS(防弾少年団)がビルボードチャートで1位を獲得したり、BIGBANGなど世界で活躍しているK-POPアーティストが多いが、なせここまでK-POPが世界中に広がっていっているのだろうか?

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「第一に大事なことは、制作者、プロデューサーが、どれだけ世界で売れるんだという欲求を、強く持っているか、それに尽きると思います。この欲求を最初からどこまで強く持っているのか、会社の責任者がどれだけ強く持っているのかというところが肝だと思います。今韓国におけるK-POPのアーティストの会社は、溢れるほどにこの欲求を持っています。だからそこに向けた訓練、企画をして、世界のトレンドを綿密に分析しながら、計画を立てています。それからJYPやSM、YGなど多くのアーティストを抱えている会社は、オーナーが会社の経営に深く関わっているということも、大きな要素、大きな違いを生み出す部分だと思います。世界のマーケットを目指すという方向性が会社のプライオリティとしてあった場合、例えば今年の年間の売上が多少よくなかったとしても、それは最終的なゴールに向かう過程として、大胆にその道を選び、進んでいくことができるわけです。でも経営的な観点からみると、やはり単純にその年の利益を追求したり、短期の収益を追求することをせざるを得ないので、果敢な投資、未来に向けた投資、またはリスクを伴うチャレンジは、ためらわざるを得なくなる。これは普通の会社との大きな違いだと思います。

「若者たちの夢を持った眼差しに出会った瞬間、それはこの世で一番美しいもの。それをサポートするのが我々の役目」

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最後に、メッセージをお願いすると、「これまでたくさんのアーティストを育ててきましたが、今回のプロジェクトも本質は同じです。才能や夢を持った若者たちの眼差しに向き合った瞬間、その本質というのは、どこでどんな人たちとやっても変わらないと思います。唯一私が夢中になっているものは、若者たちの眼差しです。新人の持つ、夢を持った眼差しに出会った瞬間というのは、それはこの世で最も美しいものだと思います。そこに立ち会った時というのは、人種は関係なく、そこにはただ夢に向かっている眼差しという真実だけが存在していると思います。だからそれをサポートしていくことが私たちがやるべきこと、今私たちがやろうとしている本質だと思います」と、力強く、そして笑顔で語ってくれた。

『Nizi Project』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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