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TikTokの次には何が来るのか、ショート動画アプリ市場を巡る争いとTikTokが追い詰められた理由

高橋暁子成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト
米国などでTikTok排除の動きがありサービス停止の可能性が出てきている(写真:ロイター/アフロ)

ショート動画アプリ「TikTok」が話題となっている。バイトダンス社運営のTikTokは、2020年4月時点で世界で8億人ユーザーを持ち、国内でも2018年12月時点で950万人のユーザーを持つ人気アプリだ。小中学生などの10代女性を中心に大流行しており、自撮り動画を撮って投稿している子どもは多い。ところが、このTikTokが使えなくなる可能性があるのだ。

インド、米国で相次ぐ「TikTok禁止」

6月末、インドはTikTokを含む59のアプリを禁止すると発表した。TikTokはインドで推定6億回ダウンロードされていた。禁止となったアプリは、検索エンジン百度、チャットアプリWeChatなど、中国製アプリが多い。この背景には、6月15日のインドと中国の国境付近での衝突でインド軍兵士20人が死亡するなど対立が強まっていたことがある。つまり、国と国の争いにアプリが巻き込まれた形だ。インド電子情報技術省は「中国製アプリがユーザーの個人情報を不正に盗み、インド国外のサーバーに密かに送信しているとの苦情があった」と発表しているが、バイトダンス社はこれを否定している。

続いてTikTokは、米国での逆風にあっている。2019年に、TikTokが児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に違反して13歳以下の子供から個人情報を収集していると米連邦取引委員会(FTC)が指摘し、バイトダンス社が罰金570万ドルを支払ったあたりから、風向きが悪化。国防総省が米兵などのモバイル端末からTikTokをアンインストールするよう指示したりしていたが、とうとうトランプ大統領は今月6日、45日後よりTikTokやバイトダンス社との取引を禁じる大統領令を発令。TikTokが「プライバシーを侵害し、安全保障上の脅威となっている」という理由だが、証拠はない。しかしこれによって、9月15日までに米国事業を売却しなければ、事業が継続できなくなる可能性が出てきてしまったのだ。

そこでバイトダンス社は、TikTokの北米、オーストラリア、ニュージーランド事業の売却を様々な企業と協議、9月15日までに合意することを目指してしている。Microsoftやオラクル、Twitter、ウォルマート、ソフトバンクグループなどがTikTok事業購入を検討中と報道されている。

TikTokは複数の企業と協議を進めているが、9月15日までに合意できない場合はサービス停止という最悪の事態に追い込まれる可能性がある。対応策を検討しつつ、サービス停止となった場合でも一時的にとどめようとしているという。

バイトダンス社は、米大統領令が違法として、米西部カリフォルニア州の連邦地裁に提訴。命令が法的根拠に欠いた「大統領の反中政治運動だ」と指摘する泥沼状態となっている。

TikTokは米国でも人気が高く、米アクティブユーザーは約1億人に上る。米国でサービスが停止されれば、新規ユーザーはアプリをダウンロードできなくなる。ただし、既にダウンロード済みの米ユーザーもアプリを使用できなくなるかどうかはわかっていない。

日本でも自治体がTikTokアカウントを作成、運用していたが、このうち埼玉県や神戸市などの自治体が利用停止・休止し始めた。特にセキュリティや個人情報上の懸念があったわけではなく、他国で中国共産党側への情報流出が懸念される中、自治体が使っていることで、住民にアプリに対する安心感や信頼感を与えるのは問題ととらえたためだ。

TikTokの問題は、明らかに親会社であるバイトダンス社が中国の会社であることが大きい。バイトダンス社と距離を置くために、本社をイギリスに移転する話もあるほどだが、こちらもうまくいっていないようだ。

TikTokの次にくるショート動画アプリは?

昨年一番勢いがあったアプリの一つが、TikTokだ。小学生の間では特に高い支持を得ており、小学校で多くの保護者から「子どもが投稿したがって困っている」「子どもが勝手に動画を投稿していた」という相談を受けたほどだ。

「TikTokがなくなったら絶対に困る。何を見ればいいの」とある女子中学生はいう。「使えなくなるかもという噂を聞いて、すごく不安。理由がわからない」。

既に述べた通り、TikTokはサービス停止に追い込まれる可能性がある。その場合、次はどこが利用されるのかは大きな注目ポイントだ。

Instagramでも既に、TikTokと似た機能「リール」がリリースされている。Instagramは、一定時間でメッセージや画像などが消えるSnapchatが流行したときも24時間で消える「ストーリーズ」を出し、人気を獲得した過去がある。Facebookのショート動画機能「Lasso」は失敗したが、既に若者の間で人気があるInstagram上での展開なら勝機があるのではないか。

ショート動画というニーズは確実にあり、トップを握るTikTokはかなり危うい状況に追い込まれている。そこで、市場獲得を狙って類似サービスが次々と乱立している状態だ。今年4月には、YouTubeもショート動画アプリ「Shorts(ショーツ)」を開発中と報道されている。

ショート動画アプリ「Firework」は、GoogleやTwitter、Weiboが買収を検討しているようだ。他にも、「Byte」や「Triller」「Dubsmash」「Likee」などのショート動画アプリが人気を奪い合っている。中でも「Triller」は、TikTokから鞍替えするインフルエンサーも出てきており、トランプ大統領もアカウントを開設したりしている。

TikTokがサービス停止を回避できるか、それともこの隙に他のショート動画アプリが市場を奪うことになるのか。それはどのアプリなのか。この二週間くらいの動きに注目していきたい。

成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。テレビ・ラジオ・雑誌等での解説等も行っている。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)、『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)等著作多数。教育出版令和3年度中学校国語の教科書にコラム掲載中。

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