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高血圧薬が高齢者の湿疹を引き起こす可能性 - 大規模研究で判明

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【高齢者の慢性湿疹と降圧薬の関係 - 150万人以上のデータから見えてきたこと】

高血圧は高齢者に多くみられる病気ですが、その治療に用いられる降圧剤が、皮膚の湿疹を引き起こす可能性があることが分かりました。イギリスで行われた大規模な調査で、60歳以上の150万人以上のデータを解析した結果、降圧剤を服用している人は服用していない人に比べ、湿疹の診断を受ける確率が高いことが明らかになったのです。

この研究は、一次医療の電子カルテデータベース「The Health Improvement Network (THIN)」を用いて行われました。THINには、イギリスの人口の約7%に相当する1700万人以上の患者データが登録されており、慢性疾患や薬剤疫学の研究に適していると考えられています。

解析の対象となったのは、1994年1月1日から2015年1月1日までの間に登録された60歳以上の患者で、ベースライン時に湿疹の診断がなかった156万1358人です。追跡期間の中央値は6年(四分位範囲:3-11年)でした。

【降圧剤の種類によって湿疹のリスクに差がある】

研究チームは、降圧剤を6つのクラスに分類し、それぞれのクラスと湿疹発症リスクとの関連を調べました。その結果、利尿剤とカルシウム拮抗薬で最も強い関連がみられ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とβ遮断薬では関連が最も弱いことが分かりました。

具体的には、利尿剤を服用している人は服用していない人に比べ、湿疹と診断される確率が21%高く(ハザード比1.21、95%信頼区間1.19-1.24)、カルシウム拮抗薬を服用している人は16%高い(ハザード比1.16、95%信頼区間1.14-1.18)という結果でした。一方、ACE阻害薬とβ遮断薬ではそれぞれ2%(ハザード比1.02、95%信頼区間1.00-1.04)、4%(ハザード比1.04、95%信頼区間1.02-1.06)の上昇にとどまりました。

これらの結果は、年齢、性別、一次医療機関、社会経済状況、追跡開始前1年間の受診回数、追跡開始前1年間のインフルエンザワクチン接種、慢性腎臓病などの交絡因子を調整した後も変わりませんでした。

【高齢者の慢性湿疹 - 降圧剤の影響を考慮すべき】

高齢者の慢性湿疹については、これまであまり研究が行われておらず、病態や最適な治療法についてはよく分かっていません。また、高齢者の湿疹は非特異的な症状を示すことが多く、特に後期発症の場合は診断が難しいとされています。

今回の研究結果は、高齢者の慢性湿疹の一部が降圧剤によって引き起こされている可能性を示唆しています。高齢者の湿疹の診療においては、降圧剤の影響を考慮に入れ、必要に応じて薬剤の変更を検討することが重要と考えられます。ただし、湿疹の治療と高血圧のコントロールのバランスを慎重に見極める必要があるでしょう。

今後は、降圧剤と湿疹の関連のメカニズムや、薬剤変更が湿疹の改善に与える影響などについて、さらなる研究が期待されます。高齢化が進む日本においても、同様の調査を行うことで、高齢者の皮膚健康の維持・向上に役立つ知見が得られるかもしれません。

参考文献:

Ye M, Chan LN, Douglas I, Margolis DJ, Langan SM, Abuabara K. Antihypertensive Medications and Eczematous Dermatitis in Older Adults. JAMA Dermatol. Published online May 22, 2024. doi:10.1001/jamadermatol.2024.1230

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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