新型コロナへの懸念弱まるが、ウクライナ情勢や原材料不足への不安は…2022年3月景気ウォッチャー調査
現状は上昇、先行きも上昇
内閣府は2022年4月8日付で2022年3月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、新型コロナウイルス感染症の影響は残るものの、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、ワクチン接種の進展等もあり、感染症の動向への懸念が和らぐ中、持ち直しへの期待がある一方、ウクライナ情勢による影響も含め、コスト上昇等に対する懸念がみられる」と示された。
2022年3月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス10.1ポイントの47.8。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が増加、「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは48.9。
→詳細項目は全項目が上昇。「飲食関連」のプラス27.0ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「雇用関連」のみ。
・先行き判断DIは前回月比でプラス5.7ポイントの50.1。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは48.4。
→詳細項目は全項目が上昇。「飲食関連」のプラス10.9ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年3月では新型コロナウイルス流行への懸念について、ワクチン接種の進展で和らぎを見せつつあることなどから、景況感は上向いている。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。直近の2022年3月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株にかかわる国内外情勢への懸念はいくぶん和らぎを見せる一方で、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ウクライナ情勢に対する不安はあることから、景況感の上向き方は限定的なものとなっている。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2022年3月は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響によると思われる新規感染者数はワクチン接種の進展などで減少を示し始め、また複数地域で実施されていたまん延防止等重点措置も3月21日にはすべて終了したことで、全体では前回月比でプラスを示している。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「雇用関連」のみ。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の猛威への不安は和らぎを見せており、とりわけ「飲食関連」では強い期待が数字となって表れている。他方、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰、そしてウクライナ情勢への懸念が「住宅関連」や「製造業」「非製造業」を中心に、足を引っ張っている。
現状の安心感の高まりと先行きへの不安と
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・ビジネス客を中心に個人宿泊客に緩やかな回復基調がみられる。また、まん延防止等重点措置が解除され、週末に駆け込みのレジャー客が大幅に増加した結果、稼働率が10%増加している(都市型ホテル)。
・客の買物の様子をみると、これまではカップ麺など、巣籠りのためのまとめ買いが多かったが、最近はケチャップ、マヨネーズ、パスタ、ティッシュペーパーなど、値上げ前の商材を生活防衛のためにまとめ買いする傾向に変化している(スーパー)。
・まん延防止等重点措置の解除後、来客数の伸びを期待していたが、変化は余り感じない。特に夜の来客数は低迷したままである(一般レストラン)。
・入学式、卒業式を中心に、各行事が前年と比べて戻ってきていることは間違いないが、ガソリン価格の高騰や必需品の値上げ等の影響で節約志向が強まりつつある。行事に伴う消費の自粛が大きく影響しており、関連したウェア、レストランの利用、祝いや祝返しの数や単価が減少している(百貨店)。
■先行き
・国内旅行については、ゴールデンウィークの日並びも良いほか、自治体による県民割やGo Toキャンペーンの再開を求める声は大きいため、需要は伸びると考える。一方でウクライナ問題もあり、海外旅行の復活はまだまだ先となる(旅行代理店)。
・ワクチン接種が更に進み、新規感染者数の減少が続けば景気回復が見込めるが、また新型コロナウイルスの新たな変異株が発生する可能性もあり楽観視はできない(百貨店)。
・地価の高止まり、建築価格の高騰など、かなり厳しい状況が続いている。ウッドショックが引き続き影響していることや、ロシアに対する経済制裁なども影響してくると思うので、今後の景気も悪くなる(住宅販売会社)。
・昨年末の時点では今年4月以降は生産が回復するといわれていたが、ロシア・ウクライナ情勢が扱い商品の供給にも大きく影響し、遅れている商品入荷がこの先更に悪化するおそれが出てきた。この先は一層不透明になった(乗用車販売店)。
新型コロナウイルス流行の影響は感染者数の減少やまん延防止等重点措置の終了で和らぎを見せていることが分かる。ただしその回復度合いは業種によりけり。また、4月から商品価格の値上げが相次ぐこともあり、値上げ前のまとめ買いの動きも見受けられる。他方、先行きを中心に原材料不足への懸念は強いままで、ウクライナ情勢でさらに悪化するとの見通しも複数確認できる。
企業動向でも新型コロナウイルス流行や原材料不足への影響が多々見受けられる。
■現状
・まん延防止等重点措置も解除になり、4月以降のイベントなどの広告出稿が再開されつつある(広告代理店)。
・3月に入って受注量が減少傾向で厳しい状況である。値上げを実施したが、それ以上に原材料価格や運賃が高騰しており、再値上げが必要な状況である(食料品製造業)。
■先行き
・原材料価格の高騰や調達状況は不透明ではあるものの、プリント基板製造装置の受注は引き続き増加しているため増収の見通しである(電気機械器具製造業)。
・受注販売は好調だが、資材や原料等の原価高騰が発生している。高騰幅がみえない部分もあり、全てを売価に反映できない。売上は増加するが、利益は減少となる見込みである(輸送業)。
新型コロナウイルス流行に関する影響は規制解除などで和らいでいるものの、原材料費の高騰・不足が大きなマイナス要素となっている状況。
雇用関連では興味深い動きが見られる。
■現状
・派遣先企業からの派遣依頼件数や人員数が増えている。一方で求職者からの派遣登録数は減少しており、人手不足感が強くなっている(人材派遣会社)。
■先行き
・官公庁の求人に、例年より応募者が集まらないという声がある。民間の求人も人手不足であるが応募がないとの相談が増えている。条件緩和や、賃金増の求人数が増えるかと期待している(職業安定所)。
企業の事業状況が悪ければ人手が足りなくなることは無いのだが、現状では人手不足が生じているようだ。ただし単に求職者数が求人数の増加に追い付かないのではなく、求職者数そのものが減っているとの指摘もあり、雇用条件や環境について、ミスマッチが生じている可能性がある。あるいは求職者側は雇用状況の悪化が再び生じ、すぐに解雇されるのではと恐れを覚えて、求職そのものを控えているのだろうか。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。さらにウクライナ情勢は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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