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ロッベンの凱旋。有観客試合への板倉滉の思いーーPSV対フローニンゲンを前に

中田徹サッカーライター
ユーロボルフのラウンジに入ると力こぶを作った笑顔のロッベンが出迎える 【中田徹】

4月24日追記:本日のPSV対フローニンゲン戦のメンバーに、ロッベン選手は入りませんでした。U21フローニンゲンに混じって調整する模様です。

■ 板倉、主将として初めてのコイントス

 29節を終えたオランダリーグは今季残り5試合。気がつくと、全試合フル出場【※】を続けている選手は6人まで絞られてきた。フィールドプレーヤーはわずか2人。フローニンゲンの板倉滉はそのうちの1人だ。バイス監督の信頼は厚く、前節のヘーレンフェーン戦(4月11日。0対2でフローニンゲンの負け)では板倉にキャプテンマークを託した。

 実は、ヘーレンフェーン戦を目前に、板倉の出場が危ぶまれており、地元紙は予想スタメンから彼の名を外していた。本人によると「ダッシュで走るのは平気なんですが、ターンをすると痛みがある」という状態だった。

「今度の試合に出れるかな。出られないかな」。そう悶々としながら調整を進めたところ、なんとか試合前日に「これなら行ける」という状態まで戻した。

「昨日のフィーリングが割と良かったので、自分でやると判断してプレーしました。そして、出来ました。しかも、(試合後も)悪くなってないから。それは良かった。試合が終わって今、メンタル的に『良かったあ』ってドッと疲れが来ました。もちろん、負けたことは悔しいけれど、今日はフル出場できたので、今度のPSV戦が見えてきました」

■半年ぶりの出場で好プレーを披露したロッベン

 ヘーレンフェーン戦ではロッベンが半年ぶりに試合に出た。

 一度は現役を引退したロッベンだったが、育成年代から長年プレーしたフローニンゲンの熱意にほだされ、今季から復帰することになった。スタメン出場した開幕戦では30分で負傷退場。第5節のユトレヒト戦で14分間プレーしたが、ふくらはぎを痛めてしまい、長いリハビリ生活に入った。

「ロッベンは4月24日のPSV戦出場に向けて調整している」とオランダでは報じられていた。しかし、今回のヘーレンフェーン戦で驚きのメンバー入りを果たし、66分からアップを開始。チームが71分にヘーレンフェーンに先制点を許すと、ロッベンはバイス監督のもとまで駆け寄り言葉をかけた。おそらく「俺を使え」と言ったのだろう。その後、ロッベンのアップのテンポが上がり、78分から右ウイングとして出場した。

 ロッベンの基本技術の正確さ、相手の裏を取るプレー、ドリブルの驚異は相変わらず。アディショナルタイムには惜しいシュートもあった。地元紙はロッベンにチーム内最高点タイの採点7をつけた。

■「ロッベンと一緒にプレーできて幸せです」

「練習で対峙したりして見るけれど、やっぱりロッベンはうまいです」と板倉は言った。どういう点でうまいのか? そう尋ねると板倉は即座に「全部」と答えた。

「彼はボールを持った時になんでも行ける。仕掛けることもパスもできる。縦にも中にも行けて、しかも、状況判断もいい。練習していてさすがだなと思います。味方を使うときのパスを出すタイミングが良く、しかもピンポイントで出てくる。『それはチャンピオンズリーグで優勝するわ』と思いますよ。(CLの決勝でロッベンがゴールを決めてバイエルンが優勝したときには)ロッベンがいて、リベリがいて、レバンドフスキがいて『どうやって止めるの!?』という話じゃないですか。彼はゴールも多かったですよね。こうやって、一緒にプレーできていることが幸せです」

 間近で過ごすロッベンは「普通」なのだと板倉は言う。

「普通によく話をしてくれます。オランダの中ではキングじゃないですか。でも彼は普通だから。人がいいし、めちゃくちゃ意識が高いし。こうやって一緒に出来ているということは、僕にとってポジティブでしか無いですよね」

 ちょうど、そんな話を板倉がしている時に、記者会見を終えたばかりのロッベンが「じゃあね!」みたいなノリで我々に声をかけて過ぎ去った。

「ほら、普通でしょ(笑)」

■ロッベンの復帰でPSV対フローニンゲンが注目カードに

 15分余りにわたり、記者会見でロッベンはこう語っていた。

「試合に勝つことが大事だけれど、今日、試合に出ることができて本当に嬉しい。これは一生懸命リハビリをしたボーナス。本当は2週間後の試合(対PSV)に向けて調整していたけれど、昨日のフィーリングがよくて『ヘーレンフェーン戦で行ける』と思った。これまで何度も怪我をしたけれど、最もキツかったリハビリの3つのうちに入る。いや、もしかしたら一番つらかったかも。挫けそうになったときもあるけれど、決して諦めなかった。多くの人から励ましの言葉をもらった。年配の方から『あなたのプレーをユーロボルフで孫と一緒にもう一度観戦したいんです』ってメールをもらった。僕は泣き出しそうになった。頑張るしか無いじゃないか。リーグ戦は残り5試合。さらにプレーオフがある。もっと自分も試合に絡んでいきたい。今度、筋肉系の負傷をしたら本当に自分は終わり。練習で怪我することだってありえる。だから、来季のことはシーズンが終わってから決めたい」(要約)

 第30節からオランダリーグは久しぶりにスタジアムに観客が入場する。板倉が感慨を込めて言う。

「次からお客さんが入るんですよね。良かったですよ。(3月のU24日本代表で帰国した際に)特に北九州の試合は結構入ってましたよね。日本人は真面目だからチャントをせず拍手だけ。それもすごいなと思いました。こっちは歌うでしょ。お客さんが徐々にいっぱい入るようになればいいですけれどね。こっちの雰囲気っていいですよね。本当だったら、今日のダービーは花火とか打ち上げるじゃないですか。早くよくなることを願ってます」

 観客で再び賑わうスタジアム。誰もがその雰囲気を待ち焦がれている中、初っ端にPSVとフローニンゲンの英雄、ロッベンの凱旋試合が組まれている。特別な試合になるのは間違いない。

【※】

オランダリーグ全試合フル出場選手一覧(29試合2,610分)

☆フィールドプレーヤー

ワインダル(AZ)、板倉(フローニンゲン)

☆ゴールキーパー

ムルダー(ヘーレンフェーン)、ランプルー(RKC)、ドロメル(トゥエンテ)、パット(フローニンゲン)

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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