日韓戦で鮮烈ゴールのFW植木理子が大切にする原点。「自分の良さはがむしゃらさです」
開始32秒。なでしこジャパンのゴールで、過去最速かもしれない。
AFC女子アジアカップ第3戦の日韓戦(△1-1)で、FW植木理子が決めたゴールは大きなインパクトを残した。
植木はキックオフの瞬間から全身のアンテナを研ぎ澄まし、その瞬間を待っていた。
DF三宅史織が蹴ったロングボールを、クリアしようとした相手DFの前で風のように奪い去る。次のタッチでもう1人のディフェンダーを振り切ると、GKの脇を抜く弾丸シュートを決めた。
ジャンプして渾身のガッツポーズを決める植木に、チームメートが次々に飛びつく。歓喜の輪の中でもう一度、喜びを爆発させた。
左サイドからのカットインは、国内リーグや年代別代表で、何度も決めてきた得意のパターン。ただ、このところは味方のゴールをお膳立てするアシストや囮になる動きなども多かっただけに、久しぶりに“らしさ”を炸裂させた。
「最近はなかなか出せていない(自分の)良さだったので、ターニングポイントになるゴールかなと思います」
試合後、植木は大きな瞳を輝かせ、喜びを噛み締めるように言った。
「理子は裏へのアクションが速くて強いのでわかりやすくて、(パスを)出しやすいんです」
初戦のミャンマー戦(◯5-0)で2トップを組んだFW田中美南は、そう話していた。
そして、2人の連係した動きから、MF長谷川唯のクロスを豪快なダイビングヘッドで沈めた。このゴールが、植木にとって待ちに待った代表初得点であり、池田ジャパンの初ゴールにもなった。
幼少期に様々なスポーツを経験した植木は、ずば抜けた運動神経の持ち主だ。ヘディングの強さも、野球のフライを捕る練習で鍛えた落下地点の予測が生きている。
ただ、植木は、「自分が技術面でうまいと思ったことはないです」という。それは、技巧派選手が揃う日テレ・東京ヴェルディベレーザでプレーしてきたこともあるだろう。
「だから、誰よりも『頑張る』ことだけは絶対にやろう、と思ってきました」
相手DFと駆け引きしてボールを受ける動きを繰り返し、ボールが出てこなくてもアクションを起こし続ける。そして、ボールを受けるとゴールに向かって突き進む。
守備も全力で、前線から体を投げ出すスライディングも厭わない。ユニフォームの汚れは、魂を込めたプレーの証でもある。
植木は現在22歳で、今回のアジアカップのFWでは最年少で選ばれている。年代別代表ではアジア女王やW杯の世界一を経験してきたが、フル代表ではケガもあってなかなか活躍できなかった。特に2019年から2020年にかけては辛い時期を過ごしている。スランプも経験した。
ただ、植木はどんな逆境からも、必ず這い上がってきた。
その気持ちの強さは、見る人の心を動かす。ベレーザや代表で植木の先輩に当たるFW籾木結花(リンシェーピングFC)は、自身のラジオでこう語っていた。
「理子はすごく真面目で、何事にもまっすぐで、落ち込むときはめちゃくちゃ落ち込む。でも、その反動でチームを勝利に導く時のパワーがすごい。その気持ちの振れ幅が、ファンの方たちの心を動かす幅にもなっているのかなと思う」
ゴール後の全力ガッツポーズが見る者を熱くさせるのは、そういうドラマがあるからだろう。植木は言う。
「(アジアカップで)ゴールを決めることができていることは自信につながっています。でも、いい意味で余裕がないというか……自分の良さはがむしゃらさで、ありきたりですが『頑張る』ことは、どのステージでも大切にしたいことです。余裕がなくても、食らいついてやる!という気持ちだけは忘れないようにしたいです」
大事なゴールを決めた時、自分に言い聞かせるようにその“原点”を口にしてきた。ブレない信念があるからこそ、ハングリーにゴールを目指し続けることができるのだろう。
なでしこジャパンは30日のタイ戦からノックアウトステージに突入する。大事な試合でチームを導くゴールを決め、再び会心のガッツポーズを見せてほしい。