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大怪我から復活、NHK杯で銀メダル獲得の山本草太 7年を経て蘇る『ポエタ』

沢田聡子ライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

NHK杯(11月18~20日、札幌市 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ)のエキシビションで山本草太が滑った『ポエタ』は、2015-2016シーズンにショートで滑っていたプログラムだ。2015年6月に行われた日本代表エキシビション『ドリーム・オン・アイス』で、まだジュニアスケーターだった15歳の山本が披露した『ポエタ』は、成長のために少し背伸びをしようという意気込みが感じられ、初々しい印象を残した。

2015-16シーズン開幕を控えた2015年夏、前季の2014年ジュニアグランプリファイナルで銀メダル、2015年世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得していた山本に話を聞いた。ジュニアの有望株だった山本はシニア合宿に参加しており、現役時代に鮮烈な『ポエタ』を滑っていたステファン・ランビエール氏に自らの『ポエタ』を見てもらった、と嬉しそうに語っていたことが印象に残っている。トリプルアクセルに加えて4回転もプログラムに入れようとしていた山本には、一歩が伸びていくスケーティングという唯一無二の武器があった。

そして山本は、迎えた15-16シーズンにも順調に成長し続ける。2015年ジュニアグランプリファイナルで銅メダルを獲得して2年連続の表彰台に立ち、2016年ユースオリンピックでも金メダルを獲得した。

しかし、優勝候補として出場するはずだった2016年世界ジュニア選手権の開催地、ハンガリー・デブレツェンへ向けて出発する直前、山本は大怪我をする。練習中にトリプルアクセルで転倒し、右足首を骨折したのだ。その後には疲労骨折も重なって、3回の手術を受けることになったという。

復帰戦となった2017年の中部選手権ではすべてのジャンプが1回転という構成からスタートした山本は、少しずつ復帰の歩みを進めてきた。今季は特に好調で、グランプリシリーズ第3戦フランス杯で2位に入り、グランプリ初のメダルを獲得している。昨季から継続するショート『Yesterday』、そしてフリー『ピアノ協奏曲第2番』も、リンクをいっぱいに使う伸びやかな山本のスケーティングが生きるプログラムだ。

今季のNHK杯は2018年から5年連続、5回目の出場だった。ショートでは4回転2本とトリプルアクセルを決め、首位に立つ。フリーでは4回転3本を成功させ、2本組み込んだトリプルアクセルではいずれも転倒するも、総合2位に入った。初めてNHK杯の表彰台に立った山本は、同時にグランプリファイナル初出場も決めている。

フリー後のミックスゾーンで、グランプリファイナルではどんな演技をしたいかと問われた山本は「そうですね、本当に出場できるだけですごく嬉しいですし」と言い、言葉を継いだ。

「それまで怪我なく、体調も万全の状態で、ファイナルに出場できたらなと思っています」

「本当に懐かしい気持ちというか、よくまたこうやって世界の舞台で…ジュニアでは経験していましたけど、シニアではなかなかそういった試合に出場することができなかったので、本当にここからどんどんどんどん積み上げていけたらなというふうに思っています」

銀メダリストとして臨んだNHK杯のエキシビションで山本が再演した『ポエタ』は、深い味わいを感じるプログラムだった。ジュニアスケーターだった15年から7年を経て22歳となった山本のスケーティングには、持ち前の滑らかさに加えて力強さが備わっていた。

未来には栄光しか待っていないかのように思われた16歳が突然見舞われた困難と、そこから立ち上がってきた道程の厳しさは、察するに余りある。ただ、山本の積んできた年月の重さが華麗な『ポエタ』の底に潜んでいることだけは、感じられたように思う。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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