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ホームサーバーの可能性を秘めて発売された任天堂・Wii U

平林久和株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
WiiUゲームパッドでインターネット閲覧

任天堂の次世代ゲーム機、Wii Uが発売された。

2012年12月8日、発売日当日朝のマスコミ報道はひどかった。

Wii Uをまったく知らない記者が「捨て記事」扱いで場当たり的なことを書いているかのようだ。

目立ったのは「スマホに対抗」の見出し。

スマートフォンと据え置き型ゲーム機を、同じ俎上に載せる神経が理解できない。

それを見た私のTwitterでのツイートは以下。

“現時点の報道を見ると、どうしてWii Uが「スマホに対抗」になってしまうのだろう。Wii Uをつくった人は絶対に、さあ、スマホに対抗するぞ、などと考えてはいない。「スマホに対抗」という、紋切り型以下の的はずれの見出しの記事に怒りの感情がこみあげる”

このツイートは50人以上のフォロワーにRT(リツイート)され、その後、多くの方から支持のご意見をいただいた。

Wii Uというハードウェアは誕生した瞬間から、曲解される宿命を背負っている。

表面上はわかりやすい。だが、本質は見えにくい存在だからである。

外観を見れば、コントローラに画面がついたことが、最もわかりやすい特徴である。では、その画面を使って何をするのか。画面タッチによってテレビモニターに映った主画面を操作することができる。新しいUI(ユーザーインタフェイス)に目が行く。

この新型コントローラを水平に持ち、画面をスワイプして手裏剣を飛ばすシーンがテレビCMで頻繁に流れたが、この操作方法を見た限りでは、ゲームの飛躍的な変化を感じられない。UIのマイナーチェンジ。消費者の多くが小手先の進歩との印象を持つだろう。

比較をすると旧世代機のWiiのときは違った。Wiiが発売されたのは2006年。当時は身振り手振りでゲームが操作できることが革新的だった。リモコンを振れば、それはテニスのラケットにも、冒険者の剣にもなる。指先でボタンを押す疑似体験であったゲームが、身体体験できるものへと格上げされたようなインパクトがあったのである。

表層を見れば、UIが少し変わったかに見えるWii Uだ。

だが、Wii Uの秘めたる可能性は、まったく別のところにある。このことを発売元の任天堂も、記者もコンテンツ開発者もあまり語っていないが、Wii Uはホームサーバーだ。現代風に言い直すと、NAS(Network Attached Storage/ネットワーク接続ストレージ)の機能を持つ。

本体と同時発売されたソフト、『New スーパーマリオブラザーズ U』は、テレビ画面を使わないで遊べる。コントローラの画面単体で、高画質のゲームが遊べるのだ。これはWii U本体が、サーバーの役割を果たしていることを意味する。ゲームだけではなく、WEBブラウジングもコントローラ単体でできる。この記事を閲覧することも可能なのだ。

大容量のゲームソフトをストレスなく、本体とゲームパッドが送受信できるということは、写真・映像・音楽、あらゆるデジタル情報のやり取りができることを意味する。ちなみにWii U本体には外部ストレージと連結できるUSBポートを4つそなえている。

任天堂のことだから、ただのデジタルコンテンツサーバーにするのではなく、そこに「遊び」の要素を加えてくるのであろう。ニンテンドー3DSと同期して利用する使い道もあるだろう。Wii Uは、従来の常識枠におさまったゲームソフト再生機ではない。黙して語らずに、家庭内に仮想的なサーバーを設置していることに、真の魅力と可能性を感じる。

iPhone5とWii Uゲームパッド
iPhone5とWii Uゲームパッド

写真は私のベッドに置かれた枕である。

眠るまえに、軽くゲームをする習慣があるが、スマートフォンで遊ぶかわりに、Wii Uで遊ぼうかと迷う。冒頭で非難したが、実際に利用してみると就寝前のプレイヤー心理は、スマホに対抗しているかのようなWii Uなのである。

Wiiはその特徴がわかりやすくて、発売直後から勢いよく売れた。世界累計販売台数2000万台を発売から約60週で達成した。しかし、のちに普及のペースは鈍化した。スタートダッシュは良く、途中で息切れをした感がある。

Wii Uは異なる普及の仕方をするだろう。ゲーム専用機として売られ、使われているうちはWiiの記録を超えることはない。ただし、ホームサーバー(NAS)的な機能に、遊びの付加価値が加われば、市場の評価はガラリと変わるだろう。

新型ゲーム機が発売されると、その普及台数に注目が集まり、勢い前世代機と比べられるが、私が注目し、期待するのは数ではない。数は結果論にすぎない。新型ゲーム機がもたらす、ユーザーの利用スタイルの変化。言い換えると、据え置き型ゲーム機の新しい存在意義の提示だ。

一見すると画面つきコントローラがついたゲーム機、Wii U。でありながら、利用者が意識しないうちに家庭用内サーバーとして普及するのは、いつか見てみたい光景である。

もうひとつ、Wii Uには秘められた機能がある。

Wii Uパノラマビューと呼ばれるものだ。

テレビに映った主画面の周囲、360度を手元の画面で見ることができる。この機能は2012年6月、ロスアンゼルスで行われた、ゲームの国際見本市、E3(Electronic Entertainment Expo)で発表された。

主画面の周囲360度をゲームパッドで見渡せる
主画面の周囲360度をゲームパッドで見渡せる

2画面を使って周囲360度の映像を見る。これはWii Uのみならず、来年の注目すべき技術システムなので、パノラマビューについては別稿で触れたい。

株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト

1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社(現・宝島社)に勤務。1991年にゲーム分野に特化したコンサルティング会社、株式会社インターラクトを設立。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。デジタルコンテンツ白書編集委員。日本ゲーム文化振興財団理事。俗論に流されず、本質を探り、未来を展望することをポリシーとしている。

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