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サントリー・沢木敬介監督。劇的勝利にも表情変えず。背景は?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨季のこのチームを超えたい。「目指しているラグビーではなかった」(流キャプテン)(写真:アフロスポーツ)

 よし、いいぞ。その調子だ。テレビの受像機を前に、そう感じられたサントリーファンも多いのではなかろうか。

 9月2日、東京・秩父宮ラグビー場。日本最高峰トップリーグの第3節を制した、サントリーの沢木敬介監督の勝利インタビューだ。

 試合は一進一退の攻防だった。後半32分に20-24と勝ち越されるも、ノーサイド直前に27フェーズにも及ぶ連続攻撃の末に相手の反則を誘発。試合終了のホーンが鳴るのとほぼ同じタイミングで、スクラムハーフの日和佐篤がペナルティーゴールからの速攻を仕掛ける。

 最後は、瞬間的に弛緩したように映ったヤマハ防御網の間をスタンドオフの小野晃征が突破し、逆転トライを決めた。27-24。沢木監督がマイクを向けられたのは、場内が興奮冷めやらぬなかでのことだった。

 ところがどうだ。

「難しいゲームでしたけど、最後まで諦めず、よく戦ったと思います」

「僕らのカルチャーはチャレンジすることなので、どんな状況でもしっかりチャレンジする。リーダーがしっかり、いいリードをしてくれたと思います」

「最後のトライを取る姿勢はすごくよかったと思います」

 聞き手の質問に沿って返事をするのだが、その表情に興奮や感動の色はない。前年度の15人制のタイトルを完全制覇(トップリーグ、日本選手権)した指揮官は、選手やファンへの敬意を持ちながらも厳しい態度を貫く人として認識されている。

 そもそも沢木監督は、この80分に満足していなかった。流大キャプテンとともに公式会見へ出席すると、より突っ込んだ見解を示す。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

沢木監督

「はい、皆さんお疲れさまでした。ま、完全に負け試合です。完全に負け試合ななか、最後まで諦めずにトライを狙うハングリーな部分は良かったと思います。

 まだまだ、自分たちの足りない部分が見えたゲームなので、きょう、さらにチームの成長への意欲が、僕は、湧いてきました。(隣の流キャプテンを見て)ね? 

 しっかりとハードなトレーニングをする。去年のチームを超えるために、また来週から準備したいと思います」

――どのあたりに、理想の試合展開とのギャップを感じたのですか。

沢木監督

「まず、完全にスクラムは上手く組めていなかったので。自分たちがちょっと勘違いしていた部分もあるんじゃないですか、スクラムに対して。ちょっと、押せちゃっていたところもあったので、いままでは。もう1回、やり直しです。

 あとは、いいアタックもあったのですけど、しっかりと作ったチャンスを仕留める、プレッシャーのなかで正しい判断、スキルでフィニッシュできるかというところが…。今季、こういう試合は増えると思うんですよ。なので、その辺をしっかりとトレーニングで意識しながらやっていきたいです」

 確かにスクラムでは、相手の強烈な押し込みに何度も苦しんでいたようだ。攻めてもヤマハの防御を前に、何度かボールを失った。

 ラストワンプレーで勝負が決まると、人々はどうしてもその瞬間の衝撃に引きずられがちである。一方、強いチーム作りを真の生きがいとしていそうなボスは、今度の接戦を振り返る際にも「感動」や「興奮」といった感情的な要素を持ち込まない。具体的な反省材料を1つひとつ掲げるだけだ。グラウンド上でのインタビューで愛想笑いを浮かべないのも、自然な流れである。

――勝敗を分けたポイントは。

 こう聞かれると、ようやく最後の総攻撃について言及する。あくまでも抑揚を抑えて。

「最後の残り10分の、選手たちの感覚だと思います。うちはソフトなチョイスをしてしまって、ヤマハさんに勢いをつけさせてしまって、残り10分ぐらいで逆転されたんですけど、救いは、まだ10分あったということ。選手は、相手の足が止まっていることに気付きながら、ボールを持っていれば前進できるという感覚があったと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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