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短時間で静かに起こるブラインドのひもによる窒息事故、その現状と予防を小児科医が解説

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

年末年始、家の中で過ごす時間も増えるご家庭も多いと思います。

家は安心できる場所ですが、子どもの事故予防という点で注意すべき点もいくつかあります。その中には、意外に気づかれにくいポイントもあります。

今回はそのひとつ「ブラインドの紐」について解説します。

家の中にある気づかれにくい5つの危険、ご存じですか

米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、「人々が毎日使っている可能性があるが、その危険が気づかれにくい製品」として「家庭内の隠れた5つの危険」を挙げています(1)。

そのひとつに窓を挙げ、特に「ブラインドの紐のリスク」を指摘しています。

家の中に潜む5つのリスク(米国消費者製品安全委員会制作)
家の中に潜む5つのリスク(米国消費者製品安全委員会制作)

ちなみに、指摘されている5つの危険とは

①磁石の誤飲

②安全面でリコールされた製品の使用

③窓(カーテンやブラインドの紐の危険と窓からの落下)

④家具やテレビの転倒による負傷

⑤家庭内のプールの吸水口(これは家庭にプールが備え付けられていることが珍しくないアメリカならではの注意点です)

です。

日本でも起きているブラインド紐による窒息

日本では、6歳までの子どもがいる家庭でブラインド類が家にあるのは約3割とされています(2)。子育て家庭でブラインドがある環境はそれほど珍しくないことが分かります。そのような環境下ですので、当然日本でもこうした事故は報告されています。

日本小児科学会から報告されている事例を中心にいくつかご紹介します(3)(4)。

・1歳1か月男児 カーテンの止め紐(タッセル)に首が絡まって窒息し低酸素脳症となった(2012年)

・1歳6カ月男児 居間にいて、保護者が目を離した10分の間にブラインドの紐が首に引っかかり一時意識消失。刺激で回復(2013年)

・3歳9か月女児 親が5分ほど他の部屋にいる間にリビングの家具の上に立ち、転倒した拍子にブラインド紐が頚部に巻き付いて窒息 (2018年)

・3歳7か月 自宅の居間でソファに飛び跳ねて遊んでいた。母親が10分ほど部屋から離れ、戻ったところ児の首がソファの背部の窓にかかっていたブラインドカーテンの紐に引っかかって窒息し死亡 (2020年)

このように、最近でもこのような痛ましい事故が起きていることが分かります。

東京都のまとめた報告書でも、ブラインドの紐に関するヒヤリハットの事例について25件報告されています(2)。

事故は2歳前後に多く、短時間で静かに起こる

窓のブラインドの紐で首が締まってしまう事故は昔から知られており、70年以上前から米国で報告されています。様々に製品の改善が進められているが今でもなくなりません。

米国消費者製品安全委員会(CPSC)のデータベース(IDI)によると、1996年から2012年までに米国で6歳未満の小児でブラインドの紐が絡まった事故は231件報告されています(5)。229件(99%)が自宅で起こっており、平均年齢は2.2歳でした。231件の事故のうち155件(77%)が死亡しており、致死率が高い事故であることが分かります。首が引っ掛かってしまうと、通常はごくわずかな時間で気絶し、2-3分で命にかかわる緊急事態となります。

この年齢では、ブラインドの紐に自ら近寄ることはできますが、それが首に絡んでしまうリスクを理解する能力は育っておらず、絡んだときにそこから逃れる方法を理解することができません。そういう意味で、これは溺水事故と似ています。つまり静かに起こり、数分以内に致命的になってしまうということです。

先ほどの米国の報告では、事故のほとんどはその瞬間を目撃されておらず、子どもが最後に目撃された状態は「寝かしつけられていた」が43.2%と最も多く、「遊んでいた」が33.6%と続いています。保護者の目が離れていたのは、10分未満が66.3%、5分未満も43.9%でした。 

このことから、ちょっと目が離れたすきに、保護者の想定外の状況下で事故が起こっている様子がうかがえます。とはいえ子どもたちを24時間監視することはできませんし、事故は一瞬で起こります。しっかり目を離さなければ事故は起こらない、という意見は非現実的と言えます。それでは、このような悲しい事故を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。

予防するには、まずは危険を知り、そして安全な製品を選ぶこと

ブラインドの紐の事故予防の第一としては、まずはブラインドやカーテンの紐で縊頚が起こるリスクがあることを知ることです。

窓覆いに関する安全性を啓発している米国の組織Window Covering Safety Councilは、ブラインドやカーテンの紐による窒息予防に関して「Children & Window cords DON’T MIX(子どもと窓の紐を混ぜないで)」を合言葉にポスターを制作しています。

Window Covering Safety Councilによるポスター「Young Children & Window cords DON’T MIX」
Window Covering Safety Councilによるポスター「Young Children & Window cords DON’T MIX」

具体的な予防策としては次のようにまとめることができます。

□ベッドやソファなどの家具を窓のブラインドから離れた場所に設置

□ループ状の構造がある製品は、子どもの体重がかかるとひもが切れるセーフティジョイントのあるものを選び、ひもが切れない製品は使わない

□カーテンの止め紐の下端は床から1m以上の高さに設置する

□コードを短くするか、子どもの手の届かない1m以上の位置に紐をまとめる 安全クリップやコードフックを活用する

□可能な限りコードレスのブラインドを使う

安全器具の種類(文献2より)
安全器具の種類(文献2より)

まずはリスクを知ること、そして安全な製品を選ぶことが大切です。

今回は身近だが知られていない危険の一つ「ブラインドの紐」について、そのリスクと予防について解説しました。

<参考文献>

1.CPSC. Top Five Hidden Home Hazards 2007.

2.東京都商品等安全対策協議会報告書. ブラインド等のひもの安全対策 2014.

3.日本小児科学会. Injury Alert No.36 カーテンの止め紐による縊頚 2012.

4.山本和奈, 岩島覚, 西尾友宏, 塩澤亮輔, 久保田晃, 三牧正和. ブラインドひもによる小児縊頸事故について. 小児科. 2019;60(6):967-73.

5.Onders B, Kim EH, Chounthirath T, Hodges NL, Smith GA. Pediatric Injuries Related to Window Blinds, Shades, and Cords. Pediatrics. 2018;141(1).

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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