目[mé]がディレクターを務める「さいたま国際芸術祭2023」がスタート
「さいたま国際芸術祭2023」が幕を開けた。
のっけから、「幕を開けた」という手垢のついたフレーズを用いたのは、わけがある。この芸術祭のメイン会場は、旧市民会館おおみや。こちらの大ホールでは、連日、コンサートやダンス、演劇公演、映画の上映など、さまざまなプログラムが構成されている。そして、この大ホールの日々の催しが、芸術祭の目玉のひとつ。
つまり、美術の展覧会にとどまらない。文字どおり、「芸術祭」の名にふさわしい幅広いラインナップなのである。
芸術祭を鑑賞しているはずの入場者が、みられる立場に
しかも、ひと筋縄ではいかない。大ホールの客席には、今回のために通路が新たに設けられた。入場者は、展覧会の導線として、透明な壁で囲われたこの通路をわたる。楽屋の前も通る。ステージの背後にも足を運ぶ。
したがって、普段は見ることのできない、劇場のバックヤードさえも「鑑賞ポイント」と化す。
急いで付け加えたいことがある。公演準備中に入場者がステージを横切る場合は、いわゆるバックヤード体験会の類いと似たようなものだ。しかし、本番中に通路を通ることもある。すると、芸術祭を鑑賞しているはずの入場者が、ホールの客席から鑑賞される立場になる。
つまり、芸術のみる/みられるという決まりごとをあっけらかんとひっくり返すのだ。
これはいったい何事か?
この芸術祭のディレクターは、現代アートチーム目[mé]である。
このチームが「さいたま国際芸術祭2023」のディレクターを務めることは、今年の1月にYahoo!ニュースでの目[mé]のインタビューですでにお伝え済みだが、今回、いろいろな仕掛けのある芸術祭を見せてくれた。
盆栽も自動販売機の缶コーヒーも、紛れもない出品作
選び抜かれた作品が、いちいち興味深い。
たとえば、会場のロビーに入ると、平尾成志の《幻姿文飾》がお目見え。会期中、不定期に設置される盆栽である。繰り返す、盆栽である。よって、配布されたフロアマップを見ない限り、会場にもともとある装飾物なのか、出品作なのか判断するのが難しい。
また、地下に進むと、L PACK.の《定吉と金兵衛》が設置され、自動販売機で缶コーヒーが販売中だ。もちろん買える。この自動販売機にたどり着くまでの空間にも着目したい。かねがね展覧会で入場者にコーヒーを振る舞ってきたL PACK.の中嶋哲矢は語る。
「目[mé]の3人に『一緒に空間づくりを考えましょう』と言われ、みんなで取り組みました」
日常と非日常の境を行ったり来たりできる芸術祭
そして、作品だけとは限らない。この芸術祭では、作品の展示や公演のみならず、展示室間の通路や窓の外にも目が離せない。
たとえば、廊下にバケツや塗料などが雑然と置かれていたりする。窓の外にタオルが干されていることも。この通路の仕掛けが、日常と非日常の境を意識させてくれる。つまり、アート作品を前に非日常に触れたかと思うと、日用品で急に日常に引き戻されるのだ。あるいは、通路のユルい空間によって、作品の強度がいちだんと増す。
なお、この「さいたま国際芸術祭2023」は、一度見ただけで済ませるのはもったいない。
もう一度、足を運ぶと、見落とした仕掛けがまだまだ発見できそうだからだ。そして、日々変化していくに違いない芸術祭だから、繰り返し出かけたい。
さいたま国際芸術祭2023
会期:2023年10月7日(土)〜12月10日(日)
会場:メイン会場(旧市民会館おおみや)ほかさいたま市内随所
時間:10時~18時(金・土は20時まで) *メイン会場
休み:月
料金:1DAYチケット 一般2000円、さいたま市民1500円
フリーパス 一般5000円、さいたま市民3500円
高校生以下、障害者手帳所持者及び同伴者(1名)は無料