「iPhone」が個人医療情報のハブになる
米通信社のブルームバーグや海外メディアの報道によると、米アップルは「iPhone」をユーザー個人の医療情報を管理する中心的な情報端末として進化させるべく、開発に力を注いでいるという。
データを分析、医師にアドバイス
iPhoneには、「HealthKit(ヘルスキット)」という、Apple Watchや他社のフィットネス機器、健康管理のアプリからデータを集めて共有する仕組みがある。
これとiPhoneの健康管理アプリ「Health」(日本語の名称は「ヘルスケア」)を組み合わせることでユーザーは自身のデータをiPhoneやApple Watchで確認することができる。
しかし今後アップルが目指す方向に開発が進めば、HealthKitはこうした健康関連のデータを分析し、ユーザーや医師にアドバイスするようになるという。
報道によると、アップルの最終的な目的は、HealthKitを医師などの医療関係者やユーザーに役立つ本格的な診断ツールにすること。これにより、現在医療現場が抱えている2つの問題が解決されるという。
1つは、病院ごとに異なるデータベースの仕組みの垣根を越えて、患者の情報が相互に利用できるようになること。
もう1つは、医師などが大量の患者データの中から顕著な情報を迅速に見つけ出せるようにし、病気の原因などを突き止める手助けをすることだという。
エキスパートを続々採用
これに伴い、アップルはここ最近数多くの専門家を雇い入れていると、ブルームバーグは伝えている。
例えば、米製薬大手メルク・アンド・カンパニー出身で、生物工学研究所セージ・バイオネットワークスを立ち上げた後、アップルのコンサルタントを務めたスティーブン・フレンド氏は今年6月、アップルの常勤社員になった。
アップル出身で米フリップボードの共同設立者であるエバン・ドール氏は、7月にアップルに復帰。現在は健康関連ソフトウエアエンジニアリング部門のディレクターを務めている。
またグーグル傘下のネストラボで技術部門の責任者を務めていたヨーキー・ マツオカ氏は昨年アップルの健康関連技術チームに加わった。
このほかアップルは今年8月、健康情報の管理・共有技術を手がける米グリンプス(Gliimpse)を買収したと伝えられたが、同社設立メンバーの1人であるモーハン・ ランドハバ氏は現在、アップルの健康関連部門でシニアエンジニアの役職に就いている(同氏のLinkedInプロフィール)。
他社製スマホに乗り換えられなくなる仕組み
なお、アップルのiPhoneにはアプリの仕組みとしてHealthKit以外にも健康・医療関連のものがもう2つある。
1つは、医学・医療研究用の「ResearchKit(リサーチキット)」。こちらは、iPhoneユーザーの活動や症状、健康状態を測定・調査するアプリの開発が可能になるというもので、アップルはこれに関し医学・医療機関と協力している。
例えば、米ロチェスター大学と前述のセージ・バイオネットワークスが開発した「mPower」というパーキンソン病研究のアプリがすでに利用されている。
もう1つは同社が今年3月に発表した「CareKit(ケアキット)」。こちらは個人の健康・症状・治療データを扱うアプリを開発できるというもので、アプリでは健康管理のプランを記録したり、症状や投薬治療の管理を行なったりすることができる。
今回の報道が正しいとすれば、アップルが現在注力している新たな試みは、後者のCareKitの方向性に近いと言えそうだ。
いずれにしても、こうした試みは、やがてアップルの収益を向上させる可能性があると指摘されている。
例えば前述のブルームバーグの記事は、「もしユーザーの健康関連データや、それらデータに基づく医療関連の提案がアップルのシステムを通じてアクセス可能になれば、ユーザーは簡単に他社製スマートフォンに乗り換えられなくなるだろう」と伝えている。
(JBpress:2016年9月28日号に掲載/原題「アップル、「iPhone」を個人医療情報のハブに 医療・テクノロジーの専門家を採用し開発に注力」)