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出掛ける前からジャズ気分:フリーすぎる現代音楽の危険な匂い(シニフィアン・シニフィエ@サラヴァ東京)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
シニフィアン・シニフィエ
シニフィアン・シニフィエ

“普段使いの演奏”で現代音楽に親しんでもらいたいというshezooの想いに賛同したメンバーが集まって定期的にコンサートを開いているのがシニフィアン・シニフィエだ。

shezooは、CM、映画、演劇、ドキュメント、インスタレーションなどさまざまな分野で作曲家、編曲家、作詞家、ピアニスト、プロデューサーとしてマルチに活躍するアーティスト。ボクが最初に彼女の存在を知ったのは、姉の前田祐希(ヴォーカル)と組んで活動していたDEBORAH(デボラ)というユニットのライヴだった。オペラ・ヴォイスと無国籍風のピアノのマッチングによって20世紀前半の欧米大衆音楽を改めて“料理する”というコンセプトはユニークで、強烈なインパクトが残ることになった。1990年代の話だ。

21世紀になるとshezooの作曲家としての活動が活性化し、彼女のもつポピュラリティという資質を反映させたものとして映画「白い犬とワルツを」(2002年)や映画「戦国自衛隊1549」の音楽を残している。

映像表現に対して自分の音楽観をぶつけていくという体験が、彼女がミュンヘン国立音楽大学在学中に吸収していた現代音楽のコンセプトに対して新たな気づきを与えたとしても不思議はないだろう。譜面はあくまでも音楽を解釈するための手がかりとなる“意味”を記しているだけであって、それを音にしたからといって“音楽”にはなりえない……。

ジャズはアドリブという手法で譜面から離れようとしたが、コードやリズム、あるいはグルーヴと呼ばれるような協調性を求められる“縛り”を残すことで、大衆音楽としての面目を保つ道を選んでいる。唯一、フリー・ジャズの先鋭的なものだけはその呪縛を解こうとしたが、それが現代音楽とどう区別していいのかわからない状態であったことは、“フリーすぎるフリー・ジャズはもはやジャズではなく現代音楽だ”と言うしかないことを示している。

こうした境界線の曖昧さを感じとっているのがshezooであり、シニフィアン・シニフィエに集まったメンバーたちだと言える。

フリーすぎる現代音楽は、あるいは音楽の“パンドラの箱”を開けてしまうのかもしれない。しかし、危険を避けた安穏な音楽なんかおもしろくない。だからそんな怪しい匂いに惹かれて、シニフィアン・シニフィエのライヴに足を運んでしまうのだ。

では、行ってきます!

●公演概要

9月21日(日) 開場 12:30/開演 13:00

会場:サラヴァ東京(渋谷)

出演:shezoo(ピアノ)、壷井彰久(ヴァイオリン)、土井徳浩(クラリネット)、大石俊太郎(サックス、フルート)、水谷浩章(ベース)、ユカポン(パーカッション)

♪シニフィアン・シニフィエ/バルトーク・ミクロコスモス149

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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