コロナ渦、SNS、安心感。ノルウェーの森でキノコ狩りに夢中になる若者
「おばあちゃんとキノコ狩りをしたことはある。自分でもっと種類を判別できるように勉強したかったから参加しました」とノルウェー生命科学大学に通う大学1年生のベラさん(20)は話す。
大学はオスロから離れた場所にあるが、ベラさんは環境に優しい電動自動車EVを運転して、同級生と一緒にオスロでのキノコ狩りに参加した。
24日はノルウェーの首都オスロにあるウルスルド湖周辺の森を歩きながら、エコ週間の一環で若者向けのキノコ狩りツアーを取材した。
自然保護や生物学を専攻する大学生の参加が目立ち、20代前半の彼らはキノコの知識を深めようと勉強熱心だった。
食用ではないキノコを見つけても、目をキラキラと輝かせて観察していた。
私たちがいる森はオスロ中央駅からメトロで17分ほどで着くウルスルドというエリアにある。駅からさらに歩いて20分ほどすると、ウルスルド湖に到着する。辺り一面が緑色の森となっており、都会の光景とは思えない。
首都でもすぐに自然へとアクセスできる環境は、この国の環境対策評価や幸福度の高さにも関係している。
2020年3月発表のノルウェー・フリルフツリブ協会が依頼したIpsos調査によると、15~24歳の半数が「ソーシャルメディアが理由で、もっと外で散歩をしたり、フリルフツリヴをしたい」と思うようになってきている。
「フリルフツリヴ」とはノルウェー独特の言葉で自然と共存する暮らしを意味する。
「SNSが野外活動のインスピレーションになっている」という回答は15~24歳で最も高く、25~39歳でも44%、40~59歳は30%、60歳以上は12%。
15~24歳にインスピレーションを与えるSNSはインスタグラムが82%と特に高く、SnapchatとFacebookがそれぞれ27%、YouTubeが19%、TikTokが3%。年齢が25歳以上と上になるごとに、InstagramよりもFacebookの影響の高さは大きくなる。
北欧の中でもノルウェーには高い山々やフィヨルドが多く、絶景写真の撮影がしやすい。そのため美しい写真がSNSで拡散されるようになり、野外活動の人気は国内だけではなく他国でも注目を集めるようになってきている。
キノコ狩りはなぜ人気?
写真効果だけではない。キノコの種類を判別できるアプリが開発されたり、趣味が同じ人々が集まって情報交換をするFacebookコミュニティやポッドキャストもある。
ネット時代に情報が集めやすくなったこと、専門家や新しい仲間に出合える団体の会員数の増加も背景にある。
私もFacebookやInstagramを開くと、毎日誰かが山で採ったばかりのキノコやベリーの写真が投稿されているのを見る(投稿者の多くがフィンランドやスウェーデンなど、北欧各国に住む現地の人々だ)。
2人のキノコ検査官が18人の若者と一緒に森に同行した。知識が豊富な2人が、キノコの見分け方などを丁寧に解説した。
ノルウェーではキノコ狩りの人気が高くなっているため、このように専門家が同伴して食用かを判別してくれる。
自分でキノコを探して、採って、料理する楽しさにはまる
「ここ数年でキノコ狩りの人気は明らかに高くなっています。参加者は若い人から高齢者まで幅広く、子どもがいる家庭にも人気があります。自分で作物を採集して料理することへの関心が高まっているからだと思います」と検査官のエミリアさんは取材で答えた。
今年はコロナ渦で野外活動の人気がさらに高まっているが、感染防止対策による人数制限のために多くのキノコ狩りの同伴依頼をキャンセルしないといけなかったそうだ。
この大学の学生たちは、自然や環境が専攻とあって課外授業も多く、新入生でも友達作りにはそれほど困っていないようだった。もともとデジタル化が進んでいる国なので、「オンライン勉強に大きな不便は感じていない」という大学生にはほかの取材現場でも出会う。
「クラブや団体に所属していると友達の輪が広がる。もちろんコロナで孤独感を感じている大学生もいると思うけれど、私たちは大丈夫」とベラさん(20)とイーダさん(18)は答えた。
Kantar TNS「自然と環境バロメーター2017」調査によると、10人中9人のノルウェー人がフリルフツリヴに興味を持っており、「非常に興味がある」と答えた人は2014年の35%から2017年には48%へと増加した。
ノルウェーはもともと自然に恵まれ、教育のデジタル化が進んでいたが、思わぬ形でコロナ打撃を薄める効果を果たしているのかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi