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桃田賢斗の2018年を総括、後編「勝率90%超の1年を経て、狙われる立場へ」

平野貴也スポーツライター
2018年8月に世界王者、9月に世界ランク1位となり、世界を引っ張る選手となった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 バドミントン日本代表、男子シングルスの桃田賢斗(NTT東日本)は16日、中国の広州で行われたBWF(国際バドミントン連盟)ワールドツアーファイナルズで準優勝し、日本代表としての2018年最後の試合を終えた(年内は、国内リーグとマレーシアのプロリーグに出場の見込み)。今季は、日本代表への復帰から足早に世界ランクを駆け上がって完全復活。8月には世界選手権で日本男子初の優勝を飾り、世界ランク1位の座に上り詰めた。

 勝ちまくったシーズンだった。国際大会の成績は、団体戦を含めて82戦して74勝8敗(棄権は含まない)。90%を超える勝率だ。個人戦は、16大会に出場して優勝7回、準優勝3回。驚異的な好成績だ。一方、8月の世界選手権以降は、勝って当たり前の立場となり、次第に新たな難しさも出て来た。世界中の相手が研究し、体力を使って乗り越えようとしてくるため、追われる立場のプレッシャーがかかる。シーズン最後の国際試合となったBWFワールドツアーファイナルズの決勝戦で、中国の若きエース石宇奇(シー・ユーチー)に完敗した試合では、フィジカルに勝る相手が対策を練って、高い意欲で遂行してきた場合に、どれだけ難しい試合になるかということを思い知らされた。

桃田賢斗の2018年を総括
前編「日本代表復帰から世界王者へ
後編「勝率90%超の1年を経て、狙われる立場へ」(当該記事)

<9月> 凱旋V、男子初の世界ランク1位に

ダイハツヨネックスジャパンオープンでは、凱旋優勝を飾り、国内のファンを喜ばせた【筆者撮影】
ダイハツヨネックスジャパンオープンでは、凱旋優勝を飾り、国内のファンを喜ばせた【筆者撮影】

9月の初戦は、国内で開催される最高レベルの大会である、ダイハツヨネックスジャパンオープン(BWFワールドツアー750)。世界王者になってから日本のファンに雄姿を見せる初めての大会で、見事に初優勝を飾った。準々決勝では、競技を始めた頃から憧れだったという林丹(リン・ダン=中国)を撃破。2008年北京、2012年ロンドンと五輪を連覇し、世界選手権で5度優勝している34歳のベテランに圧勝した桃田は「ちょっと寂しさを感じた。次からは自分がやらなければという気持ち。レジェンドにいつまでも憧れていられない」と新たな時代のけん引役となる気概を示した。さらに、中国オープン(BWFワールドツアースーパー1000)、韓国オープン(BWFワールドツアースーパー500)と連戦。中国オープンは、決勝でアンソニー・シニスカ・ギンティン(デンマーク)に敗れて準優勝。今季初めて同じ相手に2度敗れた(8月のアジア大会個人戦でも敗戦)が、大会結果が反映された9月27日付の世界ランクで日本男子初の1位となった。なお、韓国オープンは、右足かかとの痛みを訴えて準々決勝を棄権した。

世界ランク:4位(8月30日)→1位(9月27日)

<10月> 連敗したギンティンに雪辱

10月は、欧州2連戦に臨んだ。デンマークオープン(BWFワールドツアースーパー750)は、優勝。初戦でアンソニー・シニスカ・ギンティン(デンマーク)に借りを返して勢いに乗り、5連勝。続くフランスオープン(BWFワールドツアースーパー750)は、準決勝で2016年リオデジャネイロ五輪王者のチェン・ロン(中国)に敗れた。桃田は帰国後「少しずつ疲労が蓄積して来て、1年間を戦い抜くスピードやスタミナが、まだ自分には足りないと思った」とハイレベルな戦いを勝ち続けるための課題を口にしたが、一方で常に優勝争いができるようになった自信を持ち始めていった。

世界ランク:1位をキープ

<11月> 疲労のピークでも国際大会4強

11月は、アジアで2連戦。福州中国オープン(BWFワールドツアースーパー750)は、見事に優勝を飾った。準決勝では、フランスオープンで敗れたチェン・ロン(中国)に2-1で雪辱。決勝でも周天成(チョウ・ティエンチェン=台湾)を相手に2-1と競った試合を勝ち切った。しかし、さすがに疲労は隠せなかった。続く香港オープン(BWFワールドツアースーパー500)は、韓国の孫完虎(ソン・ワンホ)に1-2で敗れて準決勝敗退。桃田は、12月の全日本総合選手権の際に「香港では、本当にきつかった。中国オープンのときは食欲があったが、香港オープンでは食欲がなくなっていた」と疲労がピークに達していたことを明かした。

世界ランク:1位をキープ

<12月> 最後に完敗、狙われる立場の課題も

2018年最後の国際大会は、まさかの完敗で終わったが、すべては「絶対王者」として東京五輪を制するための糧となる【筆者撮影】
2018年最後の国際大会は、まさかの完敗で終わったが、すべては「絶対王者」として東京五輪を制するための糧となる【筆者撮影】

12月は、国際大会の前に、2019年シーズンの日本代表選出に大きく影響する全日本選手権に出場し、3年ぶり2度目の優勝。あらためて、日本の絶対的エースであることを証明した。年内最後の国際大会は、年間成績上位者が出場する、BWFワールドツアーファイナルズ。ツアーランク2位の桃田は、世界選手権の優勝者として出場。8月の世界選手権同様に恵まれた組み合わせとなり、3戦全勝でグループリーグを突破。孫完虎(ソン・ワンホ=韓国)に11月の雪辱を果たしたが、世界選手権の決勝で戦った石宇奇(シー・ユーチー=中国)には、まさかの完敗を喫した。桃田は、相手のネット前にシャトルを沈めて、相手に下から拾わせて攻めるのが得意だ。しかし、相手はネット前に素早く対応し、最初からスピードを上げて強打を連発。世界選手権の雪辱に燃える相手に力で押し切られた。桃田は「相手のタッチがすごく早く、少し研究されているなと感じたし、完敗だと思った」と追われる立場ならではの難しさを感じ取っていた。

世界ランク:1位をキープ

<2019年へ> 19年5月から五輪レース開始

東京五輪の金メダル獲得に向け、2019年は「絶対王者」の地位を確たるものとする
東京五輪の金メダル獲得に向け、2019年は「絶対王者」の地位を確たるものとする

 来季も世界ランク1位を維持することで、より対策を練られることになる。桃田は「充実した1年だった。試合数が多いので、疲労の取り方、食事面、作戦面など、まだ足りないところがあった。プレッシャーのかかる場面で消極的に、守りに入ってしまうところは、課題。来年は、もっとレベルアップして、今年以上の成績を残したい」と2018年を総括し、5月から五輪出場権獲得レースとなる19年シーズンも活躍し続けることを誓った。

 日本代表の朴柱奉ヘッドコーチは、活躍を称えながらも「桃田選手は、ゆっくりとプレーする選手は得意だけど、スピードの速い選手が少し苦手。速い選手、攻撃が強い選手との試合は、厳しくなる。昔よりディフェンスの範囲が広くなったけど、個人的には、バックハンドの守備をもう少し頑張った方が良いと思う」と来季に向けた課題を指摘していた。

 桃田が2020年東京五輪の金メダル候補であることは、間違いない。あとは、どこまで確率を高められるか。2019年は、マークが厳しくなる中で、確率を上げていく難題にトライするシーズンとなる。

<了>

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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