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新型コロナで本当に変わるのか?中国人の食習慣

中島恵ジャーナリスト
中国料理といえば大勢で食べるものだが・・・(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

「最近は営業再開するレストランが増えてきたので、外食する機会もありますが、同僚と2人でサッと済ませるとか、あるいは会社帰りに1人で立ち寄って、テイクアウトして帰るくらい。会社でのランチは持参したお弁当を食べていますし、1月以降、3人以上で食事をしたことは一度もありませんね」

 北京の日系企業で働く30代の男性はこういう。この男性は独身なので、レストランが営業するようになって助かっているというが、基本的に食事はテイクアウトか自炊だ。中国人だが物静かな性格で、「もともと大勢で円卓を囲んで、大声でしゃべったり、同じ皿の料理をみんなの箸でつつき合ったりするのは苦手だった」。なので、現在の“中国らしからぬ”孤食スタイルになっても、全然苦にならないという。

 確かに、中国のネットニュースの映像や写真などを見ていても、今のところ、レストランの店内では間隔を開けて座り、1人で食事している客が多い。大勢で入店している人はもちろんいないし、以前のように大声でしゃべりまくっている人もいない。みんな静かに食事をするか、テイクアウトして家に持ち帰っていくだけだ。

 しかし、その男性は意外なことをいう。

「いえいえ、でもそれは今だけだと思いますよ。今はみんな第2波が怖いし、新型コロナで武漢以外の人もひどい目に遭っているから。実際のところ、中国人はそんなに急には変わらないと思います。とくに田舎では、食事は生活の中で最も大事な時間。そもそも1人で黙々と食事ができるようなシチュエーションなんて田舎にはないし、1人で食べていたら、必ず誰かに声を掛けられる。都会で働く私のような者も、田舎に帰れば、田舎の風習に従わざるを得ませんよ」

中国人の食事は大皿料理が基本

 田舎に限らず、中国人にとって食事は何よりの楽しみだ。日本でも新型コロナの感染が拡大し始め、トイレットペーパーの品切れが続出したが、上海に住む友人はそのニュースを見て「非常時になると、日本や欧米ではトイレットペーパーがなくなり、中国では塩、油、食品が真っ先になくなる。中国人はトイレの紙よりも、ご飯が何よりも大事」と苦笑していたが、それだけ、食事に重点を置く国民性だといえるだろう。

 中国人の食事といえば、大皿で提供される中華料理が目に浮かぶ。円卓で8~10人くらいで食事をする機会は、会社でも、プライベートでもよくあるし、そこに10皿、15皿とめいっぱいの料理が並び、みんなが手を伸ばし、おしゃべりしながら食べる。もうかなり以前からだが、中国では衛生のため、「ゴンクアイ」(公の箸という意味の中国語)という取り箸を使う店が多く、自分の箸ではなく、その取り箸を使って料理を取り分けるようになった。

 だが、お酒が入って、だんだん場が和んできたり、テーブルに皿の数が増えてきたりすると、取り箸の存在をすっかり忘れてしまい、自分の箸で取って誰かに取り分けてしまったり、取り箸を自分の箸と間違えて使ってしまうこともしばしばある。冬などは火鍋を囲むこともあり、取り箸はそれ自体、用を足さなくなることも少なくない。

 

 家庭の食卓でも、中国では大皿料理が中心だ。日本では焼き魚などの場合はめいめいの皿に分けるし、家庭では品数があまり多くないこともあるが、中国では大きな皿に盛りつけ、それを各自が自分の小皿に取って食べる。

 家庭では小皿を用意しない場合もあり、白いご飯を盛った茶碗の上に、大皿から取った料理を直接乗せて食べる。中国映画のシーンなどで見たことがあるかもしれないが、母親が子どもに料理を取ってあげて、それが白いご飯の上にどんどん積み重なっていき、白いご飯が見えなくなるほどてんこ盛り、ということもよくある。

 ご飯の上で違う味つけの料理が混ざってしまうが、そのように相手に取り分けてあげ、お節介を焼いてあげることが、中国的な愛情の証であり、コミュニケーションなのだ。

都会と田舎ではかなり異なる

 むろん、食べるときにはおしゃべりをするし、つばも飛ぶ。日本では、外食であれ家庭であれ、食事中のマナーや作法にうるさい人はけっこういるが、中国ではそんなことはない。

 北京や上海などの大都会では、コロナ以前も孤食自体は増えていた。結婚しない独身者が増え、そういう人が日本風のラーメン店や、1人で食べてもおかしくない小さなレストランに通うなど、社会は急速に変化している。

 彼らは伝統的な円卓での食事より、イタリアンやフレンチなど、おしゃれな外国料理店に少人数で行くのが好きだ。しかし、田舎に帰れば話は別。とくに春節や国慶節などのお祝い事のときには、親戚も交えて大皿料理をつついて、長時間会食する(会食しなければならない)古い伝統が残っている。

 ヨーロッパなどでも「3世代同居」や「キスやハグ」の習慣が感染を拡大させたといわれているが、中国でも武漢の大型マンションでの「万家宴」(地域の伝統的な大宴会)が問題となった。どの国でも、どの民族でも、そこには国民性や独特の文化があり、一朝一夕に世の中は変わらない。

 だが、最近、中国のCCTV(中国中央テレビ)では、さかんに取り箸の利用を推奨するCMを流しているという。気が緩んだときこそが危ない、という警告(?)なのかもしれない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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