ドーナツ専門店 SUNDAY VEGAN(吉祥寺)の意欲
2023年6月、東京・吉祥寺に、ヴィーガンドーナツの専門店、SUNDAY VEGAN(東京都武蔵野市吉祥寺南町1-15-6)がオープンした。経営は全国に約20店舗の飲食店やベーカリーなどを展開する株式会社MOTHERS。
ヴィーガンは肉、魚、それらの加工品や出汁、卵、乳製品から白砂糖、はちみつにいたるまで、動物を利用した食材を用いない。卵アレルギーがあったり、思想や宗教的理由があったりする場合はもちろん、日々の食の選択肢の一つとして考え、フレキシブルに利用する人も増えている。例えば日曜日だけ。
SUNDAY VEGANの始まりは、3年ほど前にさかのぼる。西新宿のTHE KNOT TOKYO Shinjuku内にある系列店のMORETHAN BAKERYが2020年秋から日曜日だけ、すべてのパンやサンドイッチをヴィーガン対応にするという催事営業を始め、これが人気を呼んだ。
そもそも小麦粉、水、塩、酵母だけでつくられるバゲットやカンパーニュのようなシンプルなパンは、ヴィーガンと謳わずともすでにヴィーガン対応商品なので、既存商品の3割近くはそのまま出せたが、バターを使用したクロワッサンやソーセージ、チーズのパンやサンドイッチは日曜日には販売されず、7割はヴィーガンメニューに置き換えられた。すると日曜日の売り上げが平日を上回ったという。中でも人気があったのは、2年ほど前にスタートしたドーナツ。そのドーナツに特化して、常設出店となったのが吉祥寺のSUNDAY VEGANだ。
井の頭公園の入り口すぐの、扉のないオープンな店内にはレモンのグレーズがかかった甘酸っぱい「レモン」、キャラメリゼしたアーモンドの粒をトッピングしたクリームドーナツ「キャラメル」、フランボワーズとカカオを堪能できるクリームドーナツ「ベリーカカオ」、オールドファッションタイプでほろ苦い「コーヒー」など、スタイリッシュなドーナツが並ぶ。食べてわかるのは軽快さ、色や香りのナチュラルさ。そして糖分や油脂を摂取した感じがいつまでもまとわりつかない、後味の良さだ。
カスタードクリームは豆乳を用いてつくられているからか、重くない。たまご色はカボチャを用いているという。
ドーナツをのせるプレートは廃棄される予定だった竹繊維を用いたXENIA TALERのもの。これは店内でも販売されている。食材へのこだわりは食器にも繋がっていく。
これまでMORETHAN BAKERYやSUNDAY VEGANの他にもヴィーガンベーカリーの立ち上げに携わってきたシェフの神林慎吾さんは、ヴィーガン対応のパンやドーナツにチャレンジすることは、原点回帰だと言う。「ヴィーガンの商品というのは、使える材料の選択肢が狭まった分だけ、小麦粉という主原料でおいしさを追求することになり、小麦粉はもちろん、塩、砂糖、油脂など材料の一つひとつに対する思い入れや意識も変わりました」。
MORETHAN BAKERYでは現在、平日でもドーナツやバゲットなど5割はヴィーガン対応で、日曜日は相変わらず全商品ヴィーガンの営業が続いている。
神林さんや、そこで働く人達に共通するのは、みんなが同じ「おいしい」を共有できることに対するモチベーションだった。それがお客を呼び、SUNDAY VEGANというプロジェクトを継続させている。お客の中にも従業員の中にも、豚肉や、卵や乳製品を摂れない人がいた。スタッフの一人、岐部紗也子さんは、「ヴィーガンの業態に関わらなければ、自分たちの“おいしい”を届けられないアレルギーの人たちがこんなにいたことを知らなかったと思う」と語る。神林さんは現在、小麦粉を用いないグルテンフリーのパンの開発もスタートしている。
おいしいから人が集まってくる。難しいことをやろうとは思っていなくて、軽い気持ちから生まれている。それはドーナツの食感と同じくらい、どこまでも軽快だ。
もしも食事に選択肢があるのならば、そしておいしいものがそこにあるのならば、「今日はヴィーガンでいこう」という日があってもいい。SUNDAY VEGANはそんな気分に応えてくれる店だ。