Yahoo!ニュース

茂木先生、今の難関大入試は結構「AO」的ですがダメですか?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

脳科学者の茂木健一郎さんが、

「すべての大学入試は、AO入試になるべきである」

と投稿して、話題になっています。

茂木さんが言われるAO入試とは、中堅以下の私大がよくやっている、やる気重視という名目でのザル入試、ではありません。

入試・教育や就活関連はよくキーワードだけが先行して議論がすれ違うことがよくありますので、ここは丁寧に。

私は、入試は学力重視でいいと思う。そして、学力重視を論理的に貫くと、AO入試になると思っている。

AO入試とは、標準的な紙試験では<原理的に>測定しえない個々人が延伸した学力を計量するという、きわめて緻密なアルゴリズムであって、いわゆる「人物重視」だとか、「部活やボランティアで努力してきたからご褒美」といった、曖昧な話ではないと、私は考えている。

なるほど、AO入試と言っても、やる気重視という名目によるザル入試ではなく、難関大でよく実施している学力重視型のAO入試ですね。

既存の入試については、以下のように批判されています。

ペーパーテストの点数は、学力の指標としてはもはや機能しないと考えている。なぜならば、学力は、それぞれが深めるもので、スコアで標準化できるものではないからだ。

知性とは、オープンエンドなものである。これは皆が同意するだろう。どの方向に知性を伸ばすか、その自由度は無数にある。それぞれが伸ばした知性を、たったひとつの標準的なペーパーテストで測ることなどできない。むしろ、紙試験は「プロクルーステースのベッド」となる。

標準的な紙試験のスコアを重視することは、古代ギリシャの「プロクルーステースのベッド」の神話のように、旅人がベッドより小さければ手足をのばし、大きければ切ってしまう。いずれにせよ殺してしまう。そのような乱暴なやり方で個人の知性のプロフィールを矮小化することである。

そして、茂木さんは既存の入試では推し量れない高校生として以下の例を出しています。

ここに高校生がいる。彼は、15歳で、カーボンナノチューブを使ったすい臓がんの治療法を考えるかもしれないし、ABC予想関連の数学の定理を証明するかもしれぬ。あるいは、英語で、偉大な小説を書くかもしれない。すべて、「学力」であるが、その尖っている方向は、それぞれ違う。

ビル・ゲイツのように、高校に行かずに自分の会社のプログラムに没頭する人、生化学の実験室にこもっている人、流麗な英語の文体で高校時代からエッセイをものにする人。そのような人が、私が想定するAO入試のスター受験者である。紙試験ごときに、知性の天空への舞を、邪魔させるな、ということだ。

なるほど。

尖った人材をさらに伸ばすためには既存の入試ではダメで、学力重視型のAO入試に、ということでしょうか。

私はこの方向性は賛成です。

ただし、実現には、難関大・準難関大と中堅以下の私大でそれぞれハードルがあります。

まずは難関大・準難関大から。

茂木さんが想定されている尖った人材像ですが、かなりレベルが高いですね。

こうした高校生は全国にどれだけいるのか、というツッコミもあります。

さらに言えば、こうした高校生の大半は茂木さんが言うところの「基礎的な知見」、まあ基礎的な学力は兼ね備えているのではないでしょうか。

それから、難関大・準難関大では、既存の一般入試でも、

「深く、遠く、非典型的な知性、学力を測定するもの」

に変化しつつあります。

たとえば、以前の記事「東大生が語る東大入試戦略~Z会東大個別指導教室プレアデス・イベントルポ」

にも書きましたが、東大入試はその典型。

「以下のような有名な言葉がある。これについてどう考えるか、50~70語の英語で記せ。

ただし、下の文をそのままの形で用いてはならない

People only see what they are prepared to see.」

「これは英語ができるだけでは解けない問題です。ユリウス・カエサルが『人は自分の見たいものしか見ない』という言葉を残したことを知っている方は、きっとその言葉を知る過程で様々な教養を身につけようとしていたはずですし、カエサルの言葉を聞いたときに様々に思い、感じた部分もあるはずです。したがって、東大英語では、受験生の教養、思考力が問われているといえます。具体的には『教養(日本語で考える)』『日本語で簡潔に表現できる』『日本語の表現を英語に変える』、この3点ができないと解答できません」(Z会東大個別指導教室プレアデス教室長・寺西隆行さん)

東大だけでなく、早稲田大は国際教養学部の日本史の試験で一部、英文を資料として出題。

昨年2014年の中央教育審議会はセンター試験廃止・「大学入学希望者学力評価テスト」の複数回実施を答申しました。

これまでの「知識偏重型」から、思考力などを評価する「知識活用型」への移行を目指すのが目標とされています。

この答申は、東大・早稲田大のみならず、他大学にも大きく影響し、変化していくことでしょう。

私は今の東大入試などを見る限り、茂木さんが言われるところのAO入試に近い形態となっていると思います。

それとも、

「あなたは自分を利口と思いますか?」

「毛沢東は現代中国を誇りにすると思いますか?」

など、ケンブリッジ大・オックスフォード大に出題されるような高度な口頭試問を想定されているのでしょうか?

もし、こうした口頭試問を想定されているにしても、現状の東大入試を想定されているにしても、今度は高校以前の教育で問題が出てしまいます。

そのあたりと、中堅以下の私大での一般入試全廃・AO入試導入での問題点は次回に続く。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

税込550円/月初月無料投稿頻度:月10回程度(不定期)

この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

石渡嶺司の最近の記事