Yahoo!ニュース

春節もそろそろ終わり。「レンタル彼女」の役目も終わり?

中島恵ジャーナリスト
春節の帰省は中国人にとって一大行事だ(写真:ロイター/アフロ)

 今年の中国の春節休暇は2月21日まで。春節5日目(初五)だった昨日は、中国の財神の誕生日ということで、中国のSNS、ウィーチャット上ではたくさんの「財神様」の写真が飛び交った。中国独特の風習だ。これが終わると春節もほぼ終わり。地方に帰省していた人々は、また猛烈な春節Uターンラッシュを経て、通常の生活に戻っていく。

 帰省の間、田舎で両親や親戚、幼友だちと再会した若者たちも、徐々に都会へと帰っていくが、そこで“ある重要な役目”を終えた人もいる。「レンタル彼女」「レンタル彼氏」と呼ばれる中国特有のアルバイトたちだ。

 日本にもレンタル彼女は存在するらしいが、それはデートの相手など個人的な目的な中心。一方、中国では春節のときに故郷に連れて帰り、一時的に両親を安心させるためのもの。いわば「親孝行」が目的だ。

 お相手を連れて帰るのは、多くは男性。つまり、アルバイトとして雇うのは「レンタル彼女」だ。逆に女性が男性を連れて帰るパターンもあるが、農村出身の男性は、こちらの記事で書いたように、親から結婚への期待を掛けられているため、よりプレッシャーが大きく、ときには春節恐怖症になってしまう。

 帰省のたびに「結婚はいつ?どうするの?」「彼女はいるの?」「早く孫の顔を見せておくれ」と聞かれて疲れ果ててしまうため、帰省をためらう人が多いのだ。そこで、「レンタル彼女」にお金を払い、一緒に帰省してもらうという方法がある。

 中国メディアの報道などによると、レンタル彼女の料金は、安いコースで1日1300元(約2万2000円)、高いコースだと3000元~1万元(約5万円~17万円)にもなる。春節期間中なのでアルバイト料金は高いほうになるし、帰省のための交通費なども、当然、雇う側がすべて負担しなければならない。移動距離や日程、容姿などの条件によって金額は変動するというが、若者が利用するサービスとしては、かなり高額だといえるだろう。

春節の間だけでも、みんなハッピー?

 レンタル彼女の役割は、簡単にいうと「彼女のふりをすること」。逆もまたしかりだ。「恋人のふり」をすることが第一の目的で、親からのプレッシャー回避のために連れて帰るのだ。親は都会から彼女を連れて帰れば安心し、ガミガミ文句をいわなくなるし、喜んでくれる。中国の農村ではまだ古い考え方が大半なので、両親はご近所さんにもメンツが立ち、いいお正月が迎えられる。つまり、春節の間だけでも、みんなハッピーな気分になれるというわけだ。

 そのため、雇い主は事前に彼女と打ち合わせをし、口裏を合わせる。アルバイトするほうは、それもまた仕事のひとつだ。出身地や学歴、仕事内容、趣味なども決めて把握しておかなければならないし、相手がいないところで親から何か聞かれても、相手のことをよく知っているように芝居をしなければならない。「本物の彼女」だと信じてもらうため、彼女には、ある程度、家の手伝いもしてもらい、数日間だけでも疑似家族になってもらう必要がある。

 いくら農村に住む両親でも、いまどき、そんな小芝居が通用するのだろうか? そんなの一時的ななぐさめなのでは? と思ってしまうが、中国のネット上にはそうしたビジネスやアルバイトがあふれており、まだ通用するようだ。雇い主は自分のためでもあるが、親に心配を掛けたくないという気持ちから、こうした行動を取ることもある。

 日本ではちょっと考えられないし、すぐに嘘だとバレてしまいそうで逆に怖いが、それもこれも、中国はあまりにも広大な国で、都市と農村の生活環境が異なり、地域や人によって価値観も大きく違う。だからこそ、こんなユニークなビジネスが流行るのだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

中島恵の最近の記事