商品より商売が好きなユニクロ柳井さんへ
●今朝の100円ニュース:ファストリ、売上高1兆円 柳井社長65歳引退撤回(日本経済新聞)
柳井さん、お久しぶりです。と言っても、僕のことはまったく覚えていないと思います。僕は2000年3月にファーストリテイリングに入社して、内定者懇談会もしくは入社式のパーティであなたに会いました。会ったというより、200人ほどの新卒社員のうちの1人として、あなたを傍で見ました。カリスマ社長なのにきさくで腰の低い笑顔のおじさん、という印象を受けたのを覚えています。
入社後はユニクロ町田店(2002年にスクラップされましたね)に配属され、優しいベテランスタッフたちに囲まれて楽しい半年間を過ごしました。でも、きさくなはずのあなたからたまに送られてくる全体メールが、叱咤激励ではなく激烈な叱咤だけなのにはびっくりしました。「社員を褒めたら士気が緩む、経営者は嫌われ者であるべき」という使命感と危機感が強いのだと今では思います。でも、たまには褒められないと部下は精神的に追い詰められてしまいますよ。叱咤ばかりしているほうも辛くないですか。
昨年、あの頃のスタッフたちを今さら訪ね歩いて、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)という本にしたんですよ。ほぼ全員が町田店のスクラップと同時にユニクロを離れていましたが、社員経験者以外は「ユニクロでの仕事は充実していた。大企業になって誇らしい」と当時を懐かしんでいたのが印象的でした。あなたや会社には厳しい注文をつけたりもしましたが、僕としては暴露本や批判本ではないつもりです。よかったら読んでみてください。ちなみに、御社が入っている六本木ミッドタウン地下のTSUTAYAでよく売れています。
入社半年後にはオープン準備をしていた青葉台東急スクエア店に異動になり、適性のなさと体力・気力の限界を知って2001年4月に会社を辞めました。「65歳が経営者の体力、気力の限界」という自説を覆し、来年2月以降も社長を続投するあなたには驚くばかりです。
実は辞める前に「店舗業務は自分に向いていない。本部の内勤に移らせてもらえないか」といった趣旨の相談を店長にしたんですよ。店長からは「いや、お前は小売業に向いていない」と返されたときはショックでした。業務や会社どころか業界選びを間違えてしまったのか、と。退社後は、小売業界とは様々な点で異なる出版業界に転じてなんとか生きられているので、早めに現実を教えてくれた店長やユニクロには感謝しています。ただし、もう少しゆっくり育ててくれたら、こんな僕でも会社に貢献できる仕事ができたかもしれない、とも思います。
ZARAやH&Mをしのいで世界ナンバーワンブランドになるために、2020年のグループ売上高5兆円を目標にされているそうですね。2013年8月期の売上高が1兆円になったのに嬉しそうじゃないあなたの顔を見て、「苦しそうだな」と感じたのは僕だけではないはずです。せめて洋服や仲間が好きだったら救われると思うのですが、あなたのモチベーションは「自分でも着てみたいファッションを追求すること」でも「大好きな仲間と一緒に働き続けること」でもありませんよね。個人的なお金でもないでしょう。とにかく商売。商売で誰にも負けたくないのです。
でも、商売する内容が好きでもない商売人は、野球が好きではない野球監督みたいなものです。便利でリーズナブルで高品質なモノを合理的に提供するけれど「熱」がない。どこか冷めている。ユニクロの店舗や商品がどんなにオシャレになっても、どうしても野暮ったさが抜けないのは、あなたが商品と仲間を本質的に愛していないからではないでしょうか。どこかで再会できたらストレートに聞いてみたいと思っています。個人としてのあなたは、きさくで知的で話しかけやすいおじさんなのですから。