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「紅葉」を商品化せよ! 新たな葉っぱビジネスをさぐる

田中淳夫森林ジャーナリスト
色づき始めた柿の落葉

今年も、そろそろ木々の葉が色づきだした。

真っ赤に染まるカエデや爽やかな黄色が映えるイチョウなど色づく葉はいろいろあるが、私の好きな紅葉は柿の葉だ。葉全体が赤になるのではなく、黒い点が現れ不思議な模様を描き出す。そして緑から赤へと続くグラデーションが美しい。

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これらの色づいた葉を思わず拾って持ち帰っても、すぐに茶色になり枯れてしまう。やはり美しい彩りは、自然界のいっときの楽しみなのだろう……。

だが、この色づいた葉の長期保存の方法が研究されている。奈良県農業総合センターの果樹振興センターでは、紅葉した柿の葉の保存方法を開発しているのだ。

センターの濱崎貞弘研究員によると、10数年前から紅葉の色を保存する研究を行い、特許も取得したそうだ。なぜこんな研究に取り組んだのかというと、柿の葉の新たな利用法に活かせないかという点だ。奈良県は全国有数の柿の産地だが、近年は生産に陰りが見える。やはり農家の減少や高齢化の進展が原因だ。とくに高齢化すると急斜面の果樹園は世話が大変だし、また重い果実の収穫や運搬も負担になってきている。

そこで果実生産に向いていない急な山や高齢者向きの新たな産品として、美しい色づいた柿の葉の生産を普及できないかと考えたのである。紅葉の長期保存が可能になれば、新たな葉っぱの利用法が生まれ、しかも年間を通して安定した供給ができる。

「紅葉の赤は、アントシアニンの一種だと考えられますが、水溶性で非常に不安定です。すぐに酸化して分解してしまいます。そこで塩と抗酸化作用のあるアスコルビン酸(ビタミンC)の溶液に浸漬して冷蔵することで、少なくても3か月以上、最近では1年間は可能になってきました。さらに保存できる期間を延ばし、常温でも可能にする方法を研究しています」(濱崎氏)

1年近く保存された紅葉。
1年近く保存された紅葉。

葉っぱの商品化と言えば、すぐに思い浮かべるのは徳島県の上勝町だろう。上勝町が1987年より始めた「いろどり」事業は、今や年商3億万円近くにも成長した。これは「つまもの」、つまり料理の盛りつけを美しく彩る季節の葉や花などを販売する事業である。野山の草木の葉がお金に変わると驚かれ、地域起こしの成功例としても注目された。これまで農作物として考えにくかった樹木の葉っぱに、新たな価値を見出すビジネスが生まれつつあるのだ。

だが「つまもの」はあくまで季節ものだ。それも少し先んじた季節を表わすものだ。たとえば、まだ冬の寒さの残る時期に梅のつぼみを料理に添えることで、もうすぐ来る春を感じてもらう、残暑厳しい頃に赤く染まった葉を出すことで、晩秋の稔りの季節に思いを馳せてもらうのだ。そのため出荷先の季節より早く、いかにつぼみを膨らませ、あるいは葉を色づかせるか……など、さまざまな技術を身につける必要がある。少しでも出荷時期がずれると、一気に商品価値が失われるというリスクも覚悟しなければならない。

しかし、あえて季節外れの葉っぱに価値を生み出せないだろうか。とくに美しい紅葉・黄葉は、季節を気にせずに使える新たな素材になるかもしれない。

これまで柿と言えば実を収穫するものであり、葉に眼を向けられることはあまりなかった。しかし新緑や紅葉した柿の葉は、非常に美しい。とくに色づいた葉を常温で長く保てたら、つまものだけでなくインテリア・グッズなどにも赤く染まった柿の葉を使える可能性が広がるだろう。さらに赤や緑の柿の葉を粉末にして、調味料のように使う商品も開発されている。

葉っぱビジネスの特徴は、まず商品となる葉っぱが軽い。平坦な農地が少ない中山間地の高齢者には、果実や根菜、葉物でもキャベツや白菜など重い作物を扱うのは敬遠されるようになって来た。その点、葉っぱは籠いっぱい収穫しても軽い。高齢者にも負担が少なく作業ができるのだ。 また栽培も野菜ほどの手間がかからないうえ、機械化が困難な地形の農地や山林でも可能だ。

だが、鮮やかな紅葉を商品化できたら、人気を呼ぶのではないか。ただし流通を考えると、フレッシュな葉ばかりでは量の確保が難しいうえ、出荷時期が限られてしまう。もし葉の長期保存が可能ならば、季節外れの正月などの需要が望めるし、季節の先取りも楽になる。

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たとえば左記のように紅葉した柿の葉を折り鶴の形に切り抜けば、結婚式場などハレの日の料理に添えると、季節を問わず素敵なつまものになるのではなかろうか。

なかには、紅葉という季節感がなくなると思われる方もいるかもしれない。しかし、季節を演出する「つまもの」とは別の世界を切り開けば、新たな葉っぱビジネスを起こせるのではないか。これまで見向きされなかった葉っぱに新しい価値を見出し、人々に愛される商品に育てる人々の努力に期待したい。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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