はじめの一歩の誕生秘話「ボクシング漫画はずっとやりたくなくて」作者が語る驚きの経緯
大人気ボクシング漫画「はじめの一歩」が連載30周年を迎えた。
それを記念し、渋谷では「はじめの一歩 大原画展〜魂のバウト〜」が開催され、後楽園ホールでは「はじめの一歩30周年記念フェザー級トーナメント」が行われている。
JB SPORTSボクシングジムの会長で、「はじめの一歩」の作者森川ジョージ先生(53)にインタビューを行った。
気づいたら連載30周年
ーーー連載30周年迎えてどうですか?
森川:毎週必死なだけですね。気づいたら30周年という感じです。
ーーーこれまでの道のりを振り返ってみてどうですか?
森川:正直こんなに長くやれるとは、思っていませんでした。
ーーー森川先生が漫画家を志したきっかけは?
森川:子供の頃、ちばてつやさんの「ハリスの旋風」をアニメで見たのがきっかけです。石田国松君が主人公で、彼のようになりたいと憧れました。
当時、国松君は実在の人だと思っていたのですが、床屋に行ったら漫画が置いてありまして、読んだら実在の人ではないのだと知りました。
けど、自分の好きなこういうものを作った人がいるのだと気づいて、漫画家になりたいと思いました。
まだ3、4歳ぐらいでしたが床屋に行って、髪の毛を切るわけでもなく、ずーっと漫画を読んでいましたね(笑)
ーーー森川先生にとって、ちばてつやさんはどんな存在ですか?
森川:昨日も会ってきましたが、ずーっと追いかけてきた憧れの存在ですね。漫画家の中では神様みたいな人です。
ーーーそうなんですね。
森川:ちばさんは神様扱いされるのが嫌で、フランクに付き合って欲しいという感じです。だから僕はふざけて「ちばちゃん」と呼ぶ時もあります。
ーーーちばさんと交流はありますか?
森川:この間僕が原画展をやっていまして、そこにちばさんがこっそり行っていたようす。
昨日会ったときに「行ってきたよ。意外と絵うまいね」という話をしました。
ちばさんとの初対面
ーーーちばさんと初めて会ったのは?
森川:初めて会ったのは野球の試合でした。僕が21歳で千葉さんが50手前ぐらいの頃ですね。
千葉さんは野球をやっていて、別チームでしたがその試合で初めて会ったのです。
ーーー憧れのちばさんに会ってどうでしたか?
'''森川:''ちばさんは一塁を守っていますから。
ーーーそれは、すぐにでも塁に出たいですね(笑)
森川:そうです。ヒットを打たないと話ができないので、絶対打とうと思いました。
けど、打ったらレフトオーバーになってしまって、完全に2塁1塁の間で止まって。
ーーーそこに止まりたかったけれども、過ぎてしまったのですね。
森川:いや、1塁で止まりました(笑)
僕が「打ちました」と言ったら、ちばさんが「ナイスバッティング」と言ってくれて。
それが初めての会話です。
ボクシング漫画は描きたくなかった
ーーー森川先生がボクシング漫画を描こうと思ったきっかけはなんですか?
森川:その頃は何をやってもダメで、何を描いてもすぐに打ち切りになってしまいました。
担当は僕がボクシング好きなのを知っていたので「ボクシングやってみない?多分これがマガジンへの最後の投稿になるから好きなものをやってみなよ」と。
ですが、ちばさんの「あしたのジョー」があるのでそれはやりたくないと思っていました。
僕はボクシング漫画はずっとやりたくなかったんです。
ーーー尊敬するちばさんと、被りますからね。
森川:はい。でも担当が「それだけ詳しいのだからやるべきだよ!」と。
僕がボクシングの話をした時に詳しくてインパクトがあったようなのですが、ちばさんのライフ作だから、絶対やりたくないと思っていました。
けど、最後と言われてしまったから「やってみます」と。でも「あしたのジョー」と比べられるのが嫌でアマチュアボクシングの話にしたのです。
ーーー最初はボクシング部の話でしたよね。
森川:はい。ボクシング部の面白おかしい話にしようかなと思っていました。
そしたら編集長に「プロボクシングだったらやってやる」と言われまして。
「あしたのジョーと勝負する気はないのですか?」というから「ない」と。1年半くらいその繰り返しでした。
ーーー結構かかりましたね。
森川:かかりましたね。
友だちができなかった
ーーー同世代の漫画家で代表作出されている方はいらっしゃいますか?
森川:僕の1個下はすごく優秀です。
『スラムダンク』の井上雄彦君とか、『幽遊白書』の冨樫義博君とか、『GTO』の藤沢とおる君。あと『ろくでなしBLUES』の森田まさのり君。『ベルセルク』の三浦建太郎君。
ーーーすごいですね。
森川:黄金世代です。その人達だけで雑誌を作ればいいのにと思います。
ーーー漫画家同士の交流はありますか?
森川:僕はあまりありません。お酒を飲まないですし、デビューが早かったから。17歳でデビューしているのです。
ーーー早いですね。
森川:漫画家では早いですね。
ーーー17歳というと、ちょうど新人プロボクサーと同じ年代です。
森川:そうです。そうするとプロテストに受かって試合をやろうかというときに、25歳くらいの人達と戦うことになります。
大体僕の7つ、8つ上の人たちと同世代になってしまうのです。
『頭文字D』のしげの秀一さんとか同期があの辺です。でも、しげのさんとは9歳離れています。
『ミスター味っ子』とかを描いていた寺沢大介さんは僕の5年くらい後に出ていますが、僕の7つ上です。
そのような関係になってしまっていて、同世代の友だちができませんでした。
ーーー同世代の人からしたら、飛びぬけて先に行っているような存在だったのですね。
森川:そんな感じだったと思います。
漫画家としての生活
ーーー漫画家というのは締め切りがあると思うのですが、日々のスケジュールはどのようなものですか?
森川:漫画家によってまちまちですから。
僕の例で言いますと、大体アイデアを生む日があります。
これは結構ダラダラとやっていまして、1日くらい使ってネームをやって、作画。このパッケージで大体5日間です。
ーーーなるほど。5日パッケージで2日休み。このような感じなのですか。
森川:はい。休みの2日でまた何か考えたりとか、仕事を抜け出してセコンドにつきに行ったりします。
ーーー後楽園ホールにはよく行かれますか?
森川:はい。最近よくセコンドについてくださいと言われます。けど、僕は客席で見るほうが好きなのです。
ーーー緊張感があるというか。
森川:客席で見ているほうが緊張してきます。セコンドについていると、事務的に仕事という感じでやらなければいけないので。
ーーーちょっと違う感じなんですね。
はじめの一歩は、ボクサーにとってバイブル的存在だ。
私も学生時代や現役時代に一歩を読みあさりパンチの練習をしたものだ。
はじめの一歩がきっかけでボクシングを始めた選手も多いだろう。
2月27日後楽園ホールで行われる「はじめの一歩30周年記念フェザー級トーナメント準決勝」では、はじめの一歩ファンの方を対象とした特別応援シートが販売される。
特典としてオリジナルグッズや希望者による後楽園ホール内施設を見学できるツアーもあるようだ。
また、展示会場では複製原画や特大ポスターなどの展示が行われる。
普段と異なるはじめの一歩の世界観で統一された会場。はじめの1歩ファンにはたまらない1日となるだろう。