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「子どものにおいをかぐのが好き」 小学女児の上履きを持ち去った男、何罪か?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 早朝、東京都内の小学校に忍び込み、下駄箱から女子児童の上履きを持ち去った男が逮捕された。「子どものにおいをかぐのが好きだった」と供述し、容疑を認めているという。

「不法領得の意思」がポイント

 男の逮捕容疑は建造物侵入罪と窃盗罪だ。防犯カメラの映像には下駄箱で上履きに顔を近づけ、においをかいで物色している男の姿が撮影されていた。男に建造物侵入罪が成立することは間違いない。

 問題は、においをかぐために上履きを持ち去った点に対する評価だ。履いたり売り払ったりするためではなかったからだ。

 被害者からすると、履かれたり転売されたりしようが、壊されたり捨てられたりしようが、被害品が手もとから失われたという事態には変わりがない。しかし、刑法は窃盗罪を器物損壊罪よりも格段に重く処罰している。

 そこで、窃盗罪が成立するためには「不法領得の意思」、すなわち「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思」まで必要だとされている。

 そうすると、上履きのにおいをかぐことが「経済的用法に従い利用処分する」といえるか否かがポイントとなる。

サドルや雨がっぱの持ち去りも同じ

 似たような例として、自分の自転車に取り付けるのではなく、においをかいで性的満足を得るため、女性用の自転車からサドルだけを取り外し、持ち去るといった事件もよく起きている。

 ただ、裁判所は「不法領得の意思」について、必ずしも本来想定されている利用方法や交換価値の実現に限らず、その物自体から生じる何らかの効用を利用・享受する意思があれば構わないと広めにとらえている。

 直ちに戻したり隠したり廃棄したりするのでなければ、サドルを持ち去った場合でも、なお窃盗罪が成立するというわけだ。物干し竿から女性用の下着を持ち去る「下着ドロ」が窃盗罪で処罰されるのと同じ理屈だ。

 最近でも、雨の日に女性が脱いで自転車の前かごに入れていた雨がっぱを次々と持ち去り、360枚も集めていた男が窃盗罪で逮捕、起訴されている。「肌にくっつくので下着と同じという感覚であり、興奮を覚えた」と供述しているという。

 したがって、たとえにおいをかごうとしただけでも、下駄箱を物色して狙いの上履きを持ち去っている以上、窃盗罪が成立する。男の自宅からは上履きなど十数点が押収されており、警察は余罪の掘り起こしを進めているという。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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