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野生「コツメカワウソ」国際取引が全面禁止へ〜違反者に罰金500万円も

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 日本でペットとして人気のコツメカワウソ(Asian small-clawed otter、Aonyx cinereus)の国際的な取引が全面禁止になりそうだ。カワウソの密輸がたびたびニュースになるが、今後は新たにコツメカワウソを飼う場合、登録済みのものしか流通されなくなる。

野生種と繁殖種がいるコツメカワウソ

 現在、スイスのジュネーブで第18回のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の締約国会議が開かれているが、8月28日(現地時間)が最終日となる。今回の会議の議題として注目されているのは、付属書II類のコツメカワウソとビロードカワウソを付属書I類に移行するかどうかだ。

 付属書I類は、絶滅のおそれのある種であって取引による影響を受けているもの、または受けることのあるものとなっていて、商業取引が原則禁止になる。現在、チンパンジー、トラなど約1000種類が付属書Iのリストに入っている。原則というのは、輸出入国双方の政府が発行する許可書があれば、学術研究などの目的のための取引は可能になるからだ。

 付属書II類は、現在、必ずしも絶滅のおそれのある種ではないが、取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種になる危険性があるもので、輸出国の許可を受けて商業取引を行うことは可能だ。現在、フラミンゴ、オオアリクイなど約3万4600種類が付属書IIのリストに入っている。

 今回の会議でコツメカワウソとビロードカワウソについては、インドが付属書II類からI類へのリストアップを提案していた。カワウソ類は棲息に広大な水辺が必要で環境破壊によって生息域が狭められていることも大きいが、特に問題視されているのは野生個体の日本への密輸だ。

 コツメカワウソは家族性の強い種で、父母(アルファペア)と複数の子どもの群で暮らす。親子の紐帯が強いため、野生のコツメカワウソを取得する場合、父母を殺して子カワウソだけ捕獲することも多いようだ。

 野生のコツメカワウソは、東南アジアに広く分布し、野生の個体を輸出する場合、付属書II類なのでこれまでは輸出国の許可が必要だった。タイなどのワシントン条約締約国は、コツメカワウソの輸出を認めていないので、日本国内で流通する個体は輸出国が許可を出した飼育繁殖個体だけだ。

 だが、タイ、カンボジア、ベトナムなどから野生のコツメカワウソを輸出国の許可を得ずに違法に密輸し、水際で摘発される事件が後を絶たない。現地で安く売られている子のコツメカワウソをバッグの底などに隠し入れ、航空機で運んでくる密輸が税関などで発見されている。

 日本ではテレビ番組でコツメカワウソが紹介されて人気に火がつき、カワウソ・カフェのような店舗も多く開店するようになっている。また、SNSなどに飼育者が動画などをアップし、コツメカワウソ・ブームが続いているため、インドやネパールなどは違法な密輸がなくならない理由として批難しているのだ。

 ワシントン条約締約国会議では、8月26日にコツメカワウソの規制強化をすべきかどうかの委員会が開かれ、賛成多数で付属書I類への変更が採択された。だが、インドネシアや日本などは反対している。

 環境省によれば、コツメカワウソの規制強化に反対した理由は、絶滅のおそれがあるかどうか科学的に証明されておらず、個体数が激減しているかどうか不明であり、コツメカワウソを付属書I類という最も規制の厳しいランクに変更するには慎重であるべきだからという。

 また、同じく反対したインドネシアは前述したように、コツメカワウソをペットとして飼育繁殖し、国として輸出している。日本へ正式に輸出された個体はほとんどがインドネシアで繁殖され、同国が輸出許可を出したものだ。

 ワシントン条約は野生動植物の種の保存と多様性に関して各国が協力して取り組む条約なので、飼育繁殖した個体は適用外となる。だが、インドネシア政府がコツメカワウソの違法取引をコントロールしているとは断言できない。

 例えば、インターネット上の販売広告を出しているインドネシアの業者を調べたところ、生まれたての赤ん坊カワウソがかなり(平均約2頭)混じっていたという(※1)。また、タイとインドネシアで繁殖用のコツメカワウソが飼育されているという報告もあるがはっきりと確認されたわけではなく(※2)、しっかりしたトレーサビリティがなされなければ飼育繁殖なのか野生種を捕獲してきた個体か判別は難しいだろう。

最大で500万円の罰金も

 野生種の輸出入ができなくなるので、コツメカワウソの場合、今後は国内で飼われている個体、もしくは繁殖した個体しか存在しなくなる。現在、飼われている場合には登録は必要ないが、飼い主が変わる場合、登録して登録票を取得しなければ商業取引や譲渡はできない。これはコツメカワウソの毛皮などの器官にも適用される。また、動物園などで繁殖した個体を別の動物園へ売買もしくは譲渡する場合、1頭ごとに許可が必要だ。

 ワシントン条約締約国会議でコツメカワウソが付属書I類に変わった場合、条約は90日後に発効する。そのため、締約国はそれに応じた規制をする必要がある。

 環境省としては、業者や飼育者に対し、国内で繁殖させた個体やすでに入っている個体が流通する場合には1頭ごとに登録票が必要であること、売ったり譲ったりした側や買ったり譲り受けた側は30日以内に登録機関へ届け出る必要があることなどの変更内容の周知徹底を進めていくという。付属書I類の種の場合、環境大臣への登録が必要で代替する関連機関(一般財団法人自然環境研究センター)へ申請して登録票を取得をしなければならない。

 すでにコツメカワウソを飼育している業者や飼育者が、売買したり譲渡する場合は注意が必要だ。登録票の管理などの規制に違反した場合は30万円以下の罰金が、また無許可輸入の場合、関税法違反により5年以下の懲役または500万円以下の罰金もしくはその両方が、さらに外為法違反により3年以下の懲役または100万円以下の罰金もしくはその両方が課せられることがある。

 地球温暖化や乱開発、密猟(漁)などにより、地球の生物多様性が大きく危機にさらされている。コツメカワウソは魚や甲殻類などを捕食するため、環境中の汚染が集積しやすい。彼らが野生状態で生息できることは、その地域の環境が豊かに保全されていることを意味する。

 自然界の生物多様性が重要なことは言うまでもない。何か一種類の生物が絶滅することは、そのバランスが崩れることを意味する。

 違法にカワウソを密輸することが重なり、その個体数が減れば種の回復は難しい。生態系から自然のバランスが崩れれば、いずれ我々人類にも大きな影響が及んでくるのだ。

 今回の付属書I類への変更により、野生のコツメカワウソの取引は原則禁止になる。野生のコツメカワウソを守るために重要な規制強化になりそうだ。

※1:Aadrean Aadorean, "An investigation of otters trading as pet in Indonesian online markets." Jurnal BIOLOGIKA, Vol.2, No.1, 2013

※2:Lalita Gomez, Jamie Bouhuys, "Illegal Otter Trade in Southeast Asia." Traffic Report, 2018

※2019/08/29:0:52:読者からの指摘により「だが、インドネシア政府がコツメカワウソの違法取引をコントロールしているとは断言できない。例えば、インターネット上の販売広告を出しているインドネシアの業者を調べたところ、生まれたての赤ん坊カワウソがかなり(平均約2頭)混じっていたという(※1)。また、タイとインドネシアで繁殖用のコツメカワウソが飼育されているという報告もあるがはっきりと確認されたわけではなく(※2)、しっかりしたトレーサビリティがなされなければ飼育繁殖なのか野生種を捕獲してきた個体か判別は難しいだろう。」のフレーズと脚注を追加した。

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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