前年比では回復した「国民生活基礎調査」生活意識、その詳細を確認する
生活意識の経年変化
厚労省が毎年調査発表している「国民生活基礎調査」では注目の項目の一つに「生活意識の状況」がある。前年はその動向で大層な騒ぎがあったが、今年は異様なまでに静か。ではその実情はいかなるものだろうか。
「生活意識の状況」とは「国民生活基礎調査」内で毎年調査が行われている。これは生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。具体的な指針があるわけではなく、回答者の心境を率直に語ってもらっている。その経年変化を記したのが次のグラフ。全体構成比の変化の他に、個々の項目の動きを把握しやすいよう、各項目毎の動向を記した折れ線グラフも併記する。
景気動向による「ぶれ」はいくぶんあるものの、中長期的に見ると一貫して「大変苦しい」単独、そしてそれと「やや苦しい」を合わせた「苦しい派」(赤系統着色部分)が増加している「やや苦しい」は前世紀末から大きな変化は無い。1993年の大幅増加はイレギュラー的な感が強いが(バブル景気が崩壊した時期と重なるため、そのための景況感悪化の可能性もある)、それ以外は2009年まで漸増、それ以降は数年に渡り大きな増加率を示している。特に「大変苦しい」の回答者率が2011年にかけて大きく増えたのが目に留まる。同時に「ややゆとりがある」がわずかだが減っている。
これが2007年夏以降に具象化した金融危機(サブプライムローンショックやリーマンショック)によるものか、あるいは失策によるものかまでは、今件調査結果だけでは判断できない。ただし経済的には大きなマイナス面での変化をもたらしたリーマンショック以降に大きな増加が起きており、景況感に多分な連動性があることは容易に推測できる。
また2011年に大きく「苦しい派」が動き、2012年から2013年にかけて多少なりとも戻しているのは、2011年における震災の影響と、その反動によるものと考えれば道理は通る。
さらに2014年は再び「大変苦しい」が増加し「ややゆとりがある」が減っている。これは消費税率引き上げが2014年4月に行われ、その直後の2014年7月に今項目の調査が実施されていることから、心理的な重圧感が多分に作用したものと考えられる。この結果の発表時は大幅な心理悪化の結果を受けて、各報道や識者による「ご意見」が多々あったことを記憶している人も多いはず。
一方で直近となる2015年では景況感の変化を受け、「大変苦しい」は大きく減り、「やや苦しい」は多少増えたものの「苦しい派」も減少し、2013年とほぼ同水準にまで戻っている。今件に関しては前年と比べ、各報道や識者による「ご意見」がほとんど見られないのは不思議な話ではある。
いずれにせよ現実問題として、「いわゆる『一億総中流意識』はすでに過去のもの」「生活に苦しさを覚える人は6割」との結果には違いない。この現状は覚えておくべき。「中流意識は遠くになりにけり」である。
一方、他の調査、特に国際比較調査からも、日本人は他国の人と比べて自身への評価を低めに抑える、悲観的に考える方向性があるとの結論が出ていることを思い返すと、それを実感させる動きには違いない。
世帯種類別ではかなりの差異が
やや余談ではあるが、直近の2015年における世帯状況別の割合は次の通り。前年からの比較をするため、2014年の値も併記しておく。なおグラフ中にも注釈があるが、2014年における「母子世帯」の客体数は回答数が74件と少ないため参考値としての扱いとなる(2015年は100世帯を超えているため、誤差は考慮しなくても良い)。
前年分と今年分を比べると、全体値同様各属性でも「大変苦しい」が大きく減り、「普通」が増加している。変動に関する属性別の違いは無い。一方で生活のゆとりの観点では高齢者の方がやや気楽、子供がいる世帯では一層の厳しさを覚えている。
そして母子世帯の生活感の苦しさは注目に値する。あくまでも回答者の心理的な部分が多分にあるとはいえ、下側2項目の属性における傾向には、大いに留意を払い、状況改善の施策への優先順位を押し上げるべきだろう。
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