注目作が延期となるなか、あえて公開される運命的作品も。そして映画館の感染リスクは?
これも、運命なのだろうか。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大問題に絡み、スポーツや各種イベントの中止・延期、さまざまなデマによる混乱、日常がいつ戻ってくるのかという社会全体を覆う不安……と、ちょうど9年前の東日本大震災、福島第一原発事故がフラッシュバックしている人も多いに違いない。新型肺炎と原発事故を一緒くたにしてはいけないと思うものの、あの時の得体のしれない不安感、街の雰囲気にはどこか共通するものがある。
その9年前の事故を克明に描いた映画が、この時期と公開が重なってしまった。何とも複雑な思いも湧き起こる。現在、映画業界では公開の延期が相次いでいるが、予定どおり公開される作品も数多い。3/5時点で公開延期が決まっている作品は以下のとおり。(数字は当初の公開日→変更日)
『2分の1の魔法』 3/13→近日
『ムーラン』 4/17→5/22
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』 3/6→調整中
『映画しまじろう しまじろうとそらとぶふね』 2/28→調整中
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 3/27→初夏
『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』 3/6→調整中
そして日本で4/10公開の『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』も、世界的な公開延期(英・米は11月に変更)が製作者から発表された。
おもにファミリー向け作品、大きな集客を見込む作品が目立つ。今後の状況で、また増える可能性もある。営業を中止している映画館もあるが、大手シネコンは基本的に営業しつつ、109シネマズでは席の間隔を空けてチケットを販売するなど、対応を打ち出している。
インフルエンザ対策も考慮した、映画館の換気設備
映画館は、多くの人が集まる密閉された空間。しかし映画館では、毎年流行するインフルエンザなどの予防対策として十分な換気設備が整えられている。劇場を運営するアップリンクの浅井隆氏の説明がわかりやすい。
映画館は「興行場法」による衛生基準が定められ、人と話し続ける時間も少ないので飛沫感染のリスクも小さい。もちろん不特定多数の人が出入りするので、完璧に安全というわけではないし、そこへ行くまでに人混みを通ることも多く、現段階で「ぜひ映画館へ足を運んでください」とは言えないだろう。しかし、過剰に心配する必要もないのではないか。
そのような状況下で、予定どおり3/6に公開される『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』は、2011年3月11日、東日本大震災の津波によって起こった福島第一原発事故の5日間を、現場の目線で描く。たしかに興行的には不運かもしれない。佐藤浩市、渡辺謙を中心にした実力派スターを揃え、3.11に合わせて公開するも、初日の舞台挨拶などイベントは中止となって、メディアへの露出も予定どおりとはいかなくなった。現在の状況で、当初は観ようと思っていた人も二の足を踏むにちがいない。
未曾有の危機に立ち向かう「現場」は、まさに今と同じか
しかし興行の話を別にすれば、あえてこの時期に公開が重なったのも、何かしら運命的なものを感じる。
現在、新型コロナウイルスに関しては、まさに未知の闘いが続いている。どれだけ恐れるべきなのか、どこまで社会活動が制限されるかなど、さまざまな論議の真っ最中で、正確な線引きは不可能であろう。この状況も、9年前を思い起こさせる。原発事故による放射能拡散。目に見えない恐怖との、いつ終わるかわからない闘いが続いていた。そして、その闘いは今も終わっていない。
『Fukushima 50』は、大事故を決死の思いで阻止しようとした現場の人々のドラマ。日本政府や電力会社の対応も描かれ、実名は出てこないが内閣総理大臣も登場したりして、当時の混乱を再現していく。現在、新型コロナに関する政府の対応にさまざまな批判も集まるなか、日々刻々と変化する、これまで経験したことのない過酷な状況に立ち向かう様子に、思わず現在の日本がダブってしまう。原発事故と新型コロナを同一視してはいけないが、『Fukushima 50』を観ると、強引ともいえる上からの指示に、実際に現場で作業をしている人たちがいかに苦闘したのかに胸をわしづかみにされ、未曾有の危機でもある新型コロナと闘う「現場」に思いを馳せてしまうのだ。
映画の公開と、社会の状況が不覚にも重なる、これも運命なのか……。
繰り返すが、だからと言って映画館に足を運んでほしいと強調することはできない。しかし、もし今、何か映画を観るとしたら、不安に苛まれる現実を乗り越える勇気をもらえる、こうした作品がふさわしいとも強く思う。
『Fukushima 50』
(c) 2020『Fukushima 50』製作委員会