北朝鮮駐クウェート大使代理の亡命で明るみに出た謎の「39号室」の実態
北朝鮮の駐クウェート大使代理(リュ・ヒョンウ)が家族とともに2019年9月に韓国に亡命し、ひっそりと暮らしていた事実が明るみに出て、韓国内で関心を呼んでいる。駐英国公使(テ・ヨンホ)、駐イタリア大使代理(チョ・ソンギル)と、金正恩政権になって外交官の亡命が相次いでいるからだけではない。リュ大使代理の妻の父親が金正恩総書記の統治資金(裏金)を調達、管理する「39号室」のチョン・イルチュン前室長であるからだ。
韓国で「金正恩の金庫番」と称されている「39号室」は北朝鮮の外貨獲得部署であるが、その内情、実態については謎とされている。
手元にある情報をまとめると、「39号室」は初代の金日成政権下の1975年に朝鮮労働党結党30周年記念行事を盛大に開催するための資金調達機関として設立されている。
「39号室」の組織形態はピラミッド型で、中央機関には金剛総局、大聖総局、大聖銀行、対外建設総局などを含め牡丹指導局、先峰指導局、大慶指導局、柳京指導局、楽園指導局などが配置されている。
多数の貿易会社を保有し、拉致問題で日本が北朝鮮からの輸入を全面禁止するまでは朝鮮ニンジンや松茸などを日本にも輸出していた。金や鉱物資源の輸出もほぼ独占し、金はオーストリアのウィーンに設立した金星(ゴールデンスター)銀行を通じて販売されていた。北朝鮮の武器輸出資金絡みでウィーンの銀行が閉鎖された後は、マカオのバンコ・デルタアジア銀行を受け皿に、資金の一部をプールしていたが、米国の金融制裁でここも2005年に閉鎖されている。
「39号室」は貿易だけでなく、外国でレストランを運営し、外貨を稼ぐ一方、国内でも国営企業を軸にホテルやレストラン、外貨ショップを運営し、2004年に操業に入った開城工業団地の利益(労働者の賃金など)の70%が「39号室」の金庫に流れていたと、韓国で問題視されたこともあった。
「39号室」は全盛期には年間で数十億ドルの外貨収入があったとも言われ、2011年12月に金正日総書記が死去した際には後継者の金正恩総書記に40億ドルが「遺産」として引き継がれたと囁かれていた。
プールされた資金が最高指導者の統治資金として、高級品や贅沢品の購入費用として、核とミサイル開発の資金などに使われていたことは国連制裁委員会の調査でも明らかになっている。実際に「39号室」は2016年3月に国連安保理の制裁対象に指定されている。
「39号室」については偽ドルや偽タバコ、覚醒剤など裏のビジネスにも関わっていると噂されたこともあったが、2014年に北朝鮮から脱出し、現在米国で暮している「39号室」の元幹部(リ・ジョンホ大興総局貿易管理局局長)によると、国際社会で騒がれた一連の不法ビジネスについては「事実とは違う。国家指導者の統治資金を管理し、外貨獲得のための国内生産と貿易を指導する合法的な機関で、その直属上官が最高指導者(金委員長)で、その下で数十万人が仕事に従事している」と否定し、不法ビジネスについては「39号室とは関係のない、特殊機関で行われている」とのことである。
(参考資料:金正恩委員長の裏金を担当した党「39号室」元幹部の「証言」
日朝貿易にも携わったことのあるこの元幹部は「北朝鮮上層部も『小さなことのために大きなものを失い、労働党のイメージが損傷する』との判断に基づき『39号室』では不法経済活動をしないよう厳格に統制している」と米国で証言している。
先代の金正日総書記よりも1歳年上の義父・チョン・イルチュン前室長は2010年に副室長から昇進し、2017年10月に後任のシン・ヨンマン副室長に引き継ぐまで室長のポストにあった。
北朝鮮に対する配慮から文在寅政権は1年半近く、駐クウェート大使代理の亡命事実を伏せ、今なお確認を避けているが、それもこれも南北関係改善を優先する立場上、金正恩政権を刺激するのは得策ではないとの判断に基づいているようだ。
クウェート大使代理本人が望まない限り、また情報機関の「国家情報院」のトップが2000年の金大中―金正日首脳会談を実現させた立役者の親北の朴智元院長である限り、義父及び「39号室」に関する「秘話」が明るみに出ることはなさそうだ。