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バドミントン会場に吹く不可解な風、世界王者・日本の不愉快な敗退

楊順行スポーツライター

『“風”は、バドミントン選手にとってはやっかいな相手だ。わずか5グラム程度の、シャトルをめぐるゲーム。ほんのわずかな、体には感じないほどの館内の空気の流れが、勝負に微妙に影響する。なにしろ、飛行距離が短く低いショートサービスでも、“風”によって変わってくるのだ。それでも、一度体に保存された距離感、方向感覚はなかなか上書きがきかない。しかも、チェンジエンズもあるから、文字通り「風を読む」感性が必要になってくる』

バドミントンでは、オリンピックや世界選手権に次ぐグレードの大会として、年間12試合のスーパーシリーズがある。そのうち唯一日本で開かれるのが、ヨネックスオープン・ジャパンで、2007年大会のプログラムには、こう書かせてもらった。要は、野球などと同じく風に対しての対応もスキルの一部ということなのだが、それにしても程度というものがある。自然条件も試合の一部とはいえ、さすがに台風レベルの強風の中で野球はやらないだろう。いま開催中のアジア大会、バドミントンで問題になりかけているのは、まさにそういうことだ。

振り返る。男子団体の準々決勝で、日本は地元・韓国と対戦した。団体戦はシングルス3つ、ダブルス2つで争う形式である。先陣を切ったのは、世界ランキング4位の田児賢一だ。同じ形式で行われた5月の国別団体世界選手権・トマス杯で日本は、難攻不落の中国を倒すなどして悲願の初優勝を遂げており、田児は絶対的なエースである。相手の韓国は、トマス杯はベスト8止まり。世界ランク7位のSON Wanhoに対して、21対12と、田児のスタートは順調だった。

追い風が、吹かない……

第2ゲームは向かい風のコートとなり、田児は11対21で落とす。ここまでは、バドミントンではよくある話。お互いにコートが変わり、条件は五分と五分だからだ。ところが、ふつうなら追い風となるはずの第3ゲームでも、田児のコートはなぜかふたたび向かい風だったという。いくら風とうまくつきあうことが大切とはいえ、これではたまらない。相手の強打は風に乗って伸びてくるのに、自分のは失速するのだ。

結局田児は、16対21でこの試合を落とす。日本は、後続が踏ん張って2対2の同点に持ち込んだが、最終的には2対3で敗退となった。田児によると、

「途中で風が変わるなんて、他の国じゃありえない。事前に打ち合わせしてたんじゃないの。だって韓国の選手は面食らってなかったでしょ」

翻訳すると……館内の空調を、韓国が有利になるように意図的に操作したのではないか、ということだ。日本は、先のトマス杯で優勝した強敵。だが韓国もダブルス王国と呼ばれ、日本にはまだないオリンピック金メダリストを生んだ意地がある。邪推、かもしれない。だが選手の間ではもともと、

「韓国で地元選手と対戦すると、明らかに10センチくらいアウトのタマでも、インと判定される」

という疑心暗鬼があった。韓国サイドによると、「節電のために空調機器を調整した」ということだが、田児と同じ時間帯に隣のコートでプレーしていたインドネシア選手も「田児がコートを移動したら、風向きが変わった」と、不自然な風の動きを証言する。

まあ、向かい風のコートが一概に不利とはいえないこともある。追い風だと、高い軌道のクリアーや、柔らかいロビングなどが想定外に伸び、アウトになってしまうこともあるからだ。それを踏まえても、「さすがに不可解」と日本の舛田圭太コーチ。「場内の風が、日本に不利になるように操作された可能性がある」とJOCに報告したという。

それにしても……12年のロンドン五輪では、決勝トーナメントの組み合わせを有利にするための、無気力ゲームによる失格があった。もともと強豪がアジア勢に集中し、欧米勢がたじたじであることから、オリンピック競技除外候補に挙げられやすいのがバドミントンである。今回の疑惑が、その傾向を助長しなければいいのだが……。

最終的に田児は、「しょうがないっしょ、(完全アウェイの)韓国でアジア大会やってるわけだから。負けたのは情けないわ」と自らを納得させたようだが、こうなったら、個人戦で追い風を吹かせてくれ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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