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名古屋発のポルシェ専門誌『911DAYS』が創刊25年にして絶好調。世界的ブームが背景に(!?)

大竹敏之名古屋ネタライター
『911DAYS』最新96号(左)は2024年6月発売。1760円

Amazonの全雑誌部門10位の快挙も!

『911DAYS』(ナインイレブンデイズ)という雑誌をご存じでしょうか? ポルシェ専門誌というマニア向けのタイトルのため、カーマニア以外の目にふれることはほとんどないでしょうが、実は今、売れ行きも収益性も絶好調。しかも、つくっているのは名古屋のごく小さな出版社。なぜそんなローカルの小規模出版社が、世界的スポーツカーの専門誌というジャンルで成功しているのでしょうか?

編集人の日比野学さん(左)と発行人の関友則さん。日比野さんの愛車は通算12台目の2014年式ポルシェ911GT3、関さんの愛車は22年乗り続けている1989年式ポルシェ911カレラ3.2タルガ
編集人の日比野学さん(左)と発行人の関友則さん。日比野さんの愛車は通算12台目の2014年式ポルシェ911GT3、関さんの愛車は22年乗り続けている1989年式ポルシェ911カレラ3.2タルガ

『911DAYS』は2000年9月に創刊。以来、年4冊の季刊ペースで発行を続け、最新の2024年夏号で通巻96号となるロングセラーです。

ポルシェの雑誌をつくればポルシェに乗る口実になると思ったんです(笑)」というのは(株)ナインイレブンデイズ会長兼『911DAYS』編集長の日比野学さん(55歳)。19歳で名古屋の自動車雑誌の出版社に就職し、すぐに50万円の激安ポルシェを購入したほどのフリーク。営業マンとして全国のポルシェ専門店を巡って広告を集め、24歳の時にポルシェ専門誌を立ち上げました。その後、同僚の関友則さんと移籍して一緒に創刊したのが現在の『911DAYS』です。

「各号、発売直後はAmazonのクルマ雑誌部門でほとんど毎回1位になり、中でも2020年に出した80号は、ポルシェの価格高騰がニュースになった影響などもあって、Amazon全雑誌の中で10位になりました」(日比野さん)

長く愛されてきた理由を、同社長兼副編集長の関友則さん(56歳)はこう語ります。

「へんにジャーナリスティックにしていないところもよかったのでは? 何より僕ら2人がスーパーカーブームだった小学生の頃からのポルシェファンで、ポルシェに乗っててよかったな、ポルシェを好きでよかったな、ポルシェを手に入れたいな・・・、そう思ってもらいたくてポルシェファンの目線でずっとつくっています。だから応援してもらえたんじゃないでしょうか」

『911DAYS』の記念すべき創刊号。2000年9月発売。以来、25年にわたり年4回発行のペースを守り続けている。(株)ナインイレブンデイズは、当時の編集制作元(株)デイズから2019年に分社化
『911DAYS』の記念すべき創刊号。2000年9月発売。以来、25年にわたり年4回発行のペースを守り続けている。(株)ナインイレブンデイズは、当時の編集制作元(株)デイズから2019年に分社化

情報があふれすぎているネットに独自の切り口で対抗

ネット全盛の時代にあって、自動車雑誌も冬の時代となり、定期刊行誌は減少しています。そんな中で『911DAYS』はどうやってWebメディアに負けない存在感を発揮しているのでしょうか?

「確かにネットが台頭してきた当時は、“もう紙じゃダメだ”という空気がありました。でも、今やネットが当たり前になってディーラーもショップもどこもHPやSNSアカウントがあるから、情報があふれすぎていて、皆さん本当に必要な情報になかなかたどり着けないんです。うちはネットでは読めないような独自の切り口の記事内容を心がけています。情報をふるいにかける意味でも一度うちの雑誌を読んで、そこから掲載されている信頼できるディーラー、ショップのサイトでお店の詳細を確認するという使い方をしてくれる人が多いんだと思います」(関さん)

近刊の記事。ローンの組み方や相場やメンテナンスのガイドなど実用的な記事に誌面を割いている。各号およそ150ページで、記事のおよそ8割は副編集長の関さんが執筆している
近刊の記事。ローンの組み方や相場やメンテナンスのガイドなど実用的な記事に誌面を割いている。各号およそ150ページで、記事のおよそ8割は副編集長の関さんが執筆している

最新号の巻頭特集はバイヤーズガイド。中古車相場の予測、ローンの組み方、ディーラーか専門店か・・・?と買い方、選び方を丁寧に解説。さらにサーキット走行の手引きやメンテナンス方法の写真付き解説など。オーナー予備軍やオーナーを後押しするきわめて実践的な内容になっています。

雑誌と読者の信頼関係は、広告営業の面でも功を奏しているといいます。

読者の筋がいい、とクライアントにはよくありがたがられます。事前にうちの雑誌を購読してからお店に足を運ぶ人は、真剣に購入を考えているので、契約にいたる確率が高い。そもそもうちに掲載されているようなお店は、当然ポルシェの専門的な会話ができるので、お客さんにとって信頼感や安心感が高いということもあるでしょうね」(日比野さん)

誌面は、ポルシェの正規ディーラーの広告が巻頭を飾り、中古車を扱うショップの広告も多数掲載。そこからも、25年続けてきた信頼感によって、販売店にとっても『911DAYS』が無くてはならない存在になっていることが見て取れます。

「ポルシェひとり勝ち」と称される世界的な人気の高騰

そして、何より『911DAYS』の好調さの背景にあるのが、世界的なポルシェ人気の高騰です。

「昨年、日本国内のポルシェ新車販売台数が初めて8000台を超えました。創刊した2000年は3000台くらいだったので2倍以上です。これは世界的な傾向で、新車のスポーツモデルは注文に生産が追いつかずになかなか買えない状況が続いています」(日比野さん)

最新刊の96号でも、新車のスポーツモデルが手に入りにくいことについて言及している
最新刊の96号でも、新車のスポーツモデルが手に入りにくいことについて言及している

また、創刊した25年前とは、ポルシェに対するイメージや取り巻く環境は大きく変化しているといいます。

「30年ほど前までは“ポルシェ=オタク的な車好きが乗るスポーツカー”で、人気があるのはいわゆるカエル顔の911モデルだけでした。でも今ではラグジュアリーカーのイメージも加わり、シニアから若い世代や女性にまでファン層が広がっています。最新スポーツモデルからクラシックモデル、SUVのカイエン、マカン、さらにはパナメーラ、タイカンまでどのモデルにもファンがついています。ポルシェのファンは一度好きになったら浮気しないのも他の車にはない特徴です。人気に比例して価格も高騰していて、20年前は新車の911カレラが1千万円前後、中古車になると300万円~だったところ、今は新車2千万円~、中古車でも1000万円~にはね上がっています。それでも、金利が低い上に中古でもプレミアがついて買った時より高く売れることもあるので、若い人でもローンを組んで買おうという気になるんです」(日比野さん)

世界中で起こっている空前のポルシェ争奪戦。それは新車だけでなく中古車にも及んでいます。そのため、ディーラーやショップはできるだけ状態のいい中古車を提供したい、筋のいい顧客を確保したいと考え、ユーザーは少しでも信頼できる情報を欲している。両者の思いが広告出稿、販売部数の両面で、『911DAYS』へのかつてないほどの追い風になっているというわけです。

名古屋でつくることにハンディはなし!

自動車業界では「ポルシェの一人勝ち」とささやかれるほど人気は右肩上がり。世界中で垂涎の的となっているそのポルシェの専門誌が、名古屋でつくられているのは意外な気もします。ところが、この疑問に対して、関さんは質問自体がむしろ意外だという表情を見せます。

名古屋でつくれたのが不思議、と思ったことがないんですよ。特に不便もないし、フットワーク軽く関東でも関西でもどこへでも行くし、名古屋にいるのがハンディと感じたこともありません。確かに出版社も自動車評論家も大半は拠点が東京ですけど、むしろ名古屋にいたからこそ、自分たちのペースで欲をかかずに自然体でやってこられたと思います」(関さん)

それでもなぜ名古屋でできたのか?と重ねて尋ねると日比野さんがこう答えます。

「僕ら2人が名古屋にいたからです(笑)。ポルシェが本当に好きで、他のことは投げ打ってでもこの雑誌を作りたい!と思ってやってきたからやれたんです」

日比野学さんと関友則さん。営業も編集も、外部スタッフ任せにせず大半を2人で行っている。お互いに20代だった前勤務先時代から数えると30年超の“バディ”だ
日比野学さんと関友則さん。営業も編集も、外部スタッフ任せにせず大半を2人で行っている。お互いに20代だった前勤務先時代から数えると30年超の“バディ”だ

雑誌不況などの通説を吹き飛ばす原動力とは?

雑誌・出版は斜陽、マスコミ=東京、若者は車に興味が無い・・・、様々な風評や世情、固定観念をくつがえす『911DAYS』の活況ぶりは、自動車業界に疎い人間からするとまるで異なる世界線の話のようです。しかし、ポルシェには関心はなくとも、好きなことをずっとやり続けていたら周りから一目も二目も置かれるようになっていたという2人の立ち位置には、うらやましさと同時に共感や親近感を覚えるのではないでしょうか。先が読めなくて世知辛いご時世ですが、厳しい環境を突破するために必要なのは好きを貫くブレない姿勢、なのかもしれません。

最後に、今後の展望についてもお聞きしました。

「1号1号すべて出し切っているので、次のことは考えられません。今はempty(エンプティ=空っぽ)の状態です(笑)」(関さん)

取材は最新96号ができあがった直後。出し惜しみせず全力で取り組む。限界突破には、こんな姿勢も必要、に違いありません。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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