オートバイのあれこれ『ワークスマシンを喰える市販車・VFR750R』
全国1,000万人のバイクファンへ送るこのコーナー。
今日は『ワークスマシンを喰える市販車・VFR750R』をテーマにお話ししようと思います。
「アールシーサンマル」。
この響きに、現在も憧れを抱くバイクファンは少なくないでしょう。
「アールシーサンマル」とは、ホンダが1987年(昭和62年)にリリースした『VFR750R』のことです。
VFR750Rの型式が[RC30]だったことから、ニックネーム的にこう呼ばれました。
80年代に生まれたバイクらしく、その佇まいは完全なレーサーレプリカのRC30。
しかしこのバイクは、他のレプリカモデルとは一線を画する存在だったと言えます。
どういうことかというと、RC30は「レプリカ」という表現では収まらないくらいの設計がなされていたのです。
◆鈴鹿8耐レーサー・RVF750とほぼ同じフレーム
RC30のフレームは、当時のホンダの耐久レーサー『RVF750』と同じ金型を使って成形されていました。
RVF750と金型を共用するわけですから、当然RC30のフレーム形状はRVFのものと同一になります。
ヘッドパイプ(ハンドルとの接合部分)などの作りはややRVFと異なっていましたが、RC30のフレームは「RVFのものを使用」と言い切ってしまっても大袈裟ではないレベルのクオリティだったと言えます。
◆パワーユニットもRVFとウリ二つ
フレームと同様、エンジンに関してもRVFの8耐用V4(V型4気筒)ユニットがほぼそのまま踏襲されています。
マグネシウム合金製のエンジンヘッドカバーをはじめとし、クロモリ製のカムシャフト、チタン製のコネクティングロッド等、量産市販車ではまず使われることのない高級素材がコスト度外視でふんだんに投入されていました。
スペックは当時の馬力規制に合わせて77ps(輸出仕様は112ps)とされていたものの、HRC(ホンダレーシングコーポレーション)がRC30用に開発したレーシングキットを組み込めば133psまで一気にパワーアップさせることが可能でした。
ちなみに133psというのは、86年の8耐を制したRVF750(NW1C)とあまり変わらない数値で、これはつまり「ホンダのワークスレーサーとほぼ同じエンジンパフォーマンスを手に入れられる」ということでした。
RC30は、アマチュアライダーでも“ウデ次第”でワークスマシンを喰える市販車だったのです。
◆別格のプライス。それでも予約が殺到
「RVF750の分身」ともいえる作りで発売されたRC30の価格は148万円。
当時、750ccクラスの市販車は大体70〜80万円で販売されていましたから、RC30は相場の倍ほどの値付けがされていたことになります。
ただ、それでもこのRC30のプレミア感に惹かれた人は多く、限定1,000台の予約枠に3,000件を超える購入希望の問い合わせが入り、RC30はやむなく抽選販売されることとなったのでした。
たしかにプライスタグだけを見ると高価に思えますが、製作に莫大な費用が投入されているメーカーのワークスマシンと張り合えるポテンシャルを秘めていることを考えると、148万円は決して高くない、いやむしろ、人によっては「出血大サービス価格」に感じられたのかもしれませんね。
画像引用元:本田技研工業