飲食店の食べ残しを持ち帰って食中毒になったら店が悪いのか 食品ロス削減と食品安全は両立しないのか
今年に入って、ある男性が、匿名でtwitterに次のような書き込みをしていた。
「井出留美さんの主張は傾聴すべき部分もあるとは思うが、強引すぎてちょっと。また、食品ロスの削減を訴えるあまり食品安全を軽視しているのではないかと思えるところも多々あり、その点は看過できない。」
筆者の著書(『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』幻冬舎新書)が、オンラインメディアでセンセーショナルな表現で取り上げられたことを指しているようだった。だが、本は、5章のうち、1章分を使って食品安全に留意することを述べている。ツイートのご本人にその旨を説明し、謝って下さったが、ツイートは削除されずに残っており、知人も含めて複数の人がリツイートしている。
食品ロスの削減を進めていくと、はたして、食品安全を軽視することになってしまうのだろうか。
外食における食品ロス削減と食品安全への留意
よく取り沙汰されるのが、飲食店で、食べ残しを持ち帰ろうとした時、店から断られる・・・といったケースだ。店が食中毒の発生を危惧して持ち帰りを断る、ということは、よく耳にする。店としても、「万が一を考えれば一切断っておいた方がリスクがない」と考える。
農林水産省は、外食産業から大量の食べ残しが発生しているとして、飲食店等における食べ残し対策(農林水産省)を公式サイトに掲載している。消費者庁、農林水産省、環境省、厚生労働省が連名で飲食店等における「食べ残し」対策に取り組むに当たっての留意事項を発表しており、食べきりを促進すると同時に、食べ残した場合の持ち帰りは自己責任で行なうこと、調理して時間を経過すると食中毒のリスクが高まるので、留意すべき点が箇条書きで書かれている。
食品安全に関わる厚生労働省や消費者庁と、資源活用に関わる環境省と農林水産省の4省庁が連名で出しているのが素晴らしい。食品安全も大切だし、今ある資源を有効活用していき環境に負荷をかけないことも大切にしたいという国の姿勢が読み取れる。
農林水産省の参考資料にも載っているように、農林水産省は忘年会・新年会のシーズンである12月から1月にかけて、宴会での食べきり運動を展開した。もともと食べきり運動の発祥は福井県だが、それを「宴会の、最初の30分間と最後の10分間は席で料理を食べよう」と呼びかけ「30・10(さんまるいちまる)運動」とした長野県松本市の運動が全国に広がり、環境省は、30・10(さんまるいちまる)の普及啓発ツールを公式サイトに載せている。
省庁が発行しているこの留意事項には「自己責任」という言葉がある。外食の食べ残しの持ち帰りを推進するドギーバッグ普及委員会も、「持ち帰りは自己責任で」と強調しており、公式サイトにはドギーバッグ「お持ち帰り」ガイドラインを掲示している。
フードバンクにおける食品安全の担保
農林水産省は、2017年11月から2018年1月にかけて、全国6ヶ所で「フードバンク衛生管理講習会」及び「フードバンク活用促進セミナー」を開催した。食品事業者に求められる管理運営基準や、衛生管理の手法・知識について、フードバンク関係者が身につけるための内容だ。講師は日本HACCP(ハサップ)トレーニングセンターの方々が担当した。
フードバンクは、まだ十分に食べられるにも関わらず、賞味期限接近などの理由で販売できないものを引き取り、必要とする人や組織に届ける活動だ。流通できない食品を廃棄せずに再利用し、ロスを出さないことに繋がる。
国としても、食品という資源を活用しながら、食品安全に十分に留意すべきであるという姿勢が伺える。
効率化・マニュアル化するには白か黒かで二極化させるのが好都合
拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書、3刷)に書いたが、すべての食べ物を怖がる必要はない。生ものには注意する、特に梅雨や夏場に注意する、健康状態が優れない時や免疫力の弱い子どもや年配者には注意する、など、ものによって、場合によって、時期によって、食品の状態は異なる。
おそらく、多くの飲食店で「持ち帰り一律禁止」するのは、背景に、アルバイトの労働力に依存せざるを得ない状況があると思う。アルバイトはフルタイムで働く訳ではない。人の入れ替わりも激しい。やることはマニュアルにしておかないといけない。マニュアルが複雑過ぎると短時間で覚えられない。「これはOK、これはダメ、あれは・・・・」などといちいち書くより「持ち帰りは一律禁止」とした方が、店側はラクだ。
「廃棄食品」「ゴミ」はやめて欲しいが・・
筆者がフードバンクの広報を務めていた時代、メディア取材を積極的に受けるようにしていた。広告は出稿者に編集権があるが、広報はメディアに編集権がある。テレビに出てから、その内容を知る。あらかじめテレビ局の方に、「以前、寄付された食品を”ゴミ”と報じられて、寄付した食品企業の方から、うちが提供しているのはゴミじゃありませんと言われたことがあった。ゴミという言葉は使わないでください」と念押ししておいた。が、放送予定の当日、新聞のラテ欄(テレビ番組の欄)を見たら、タイトルに大きく「ゴミ」という文字が使われていたことがあった。「廃棄食品」という言葉も多く使われる。まだ廃棄されたわけではないのに。
そのようなリスクはあったが、フードバンクの広報責任者として、積極的にメディア取材を受けてきた。フードバンクはまだまだ知られていなかったし、認知度だけでなく、信頼性も高いとは言えなかった。そんな中、影響力の大きいマスメディアの力を借りることができるのは非常に助けになると考えたからだ。
本を出版してからも、メディアの取材を可能な限り受けてきた。時には「ん?これは違うのでは」と思うこともあった。だが、どんなことも、リスクがゼロ、ということはあり得ないのではないだろうか。リスクとメリットの両方のバランスを俯瞰して判断することが大事で、それは、食品ロス削減と食品安全の担保も同じことだと思う。天秤のバランスを取るように、どちらも両立するよう心がけることはできるはずだ。
取材を受けるこちらも、メディアの方に口酸っぱく強調しているのが「環境配慮のキーワードは3R(スリーアール)、最優先はReduce(リデュース、廃棄物の発生抑制)」ということだ。コストやエネルギーを最も抑制できる。2番目のReuse(再利用)や3番目のRecycle(リサイクル)の方が絵になりやすい(写真や映像になりやすい)ので好まれやすい傾向があるのを感じている。まずはReduce(リデュース)が最優先であることは、改正された食品リサイクル法の基本原則にも盛り込まれている。
2018年4月20日付毎日新聞朝刊に、第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞の記事を載せて頂いた。記事を書いてくださったのは小島正美さん。食品安全の分野で多数の著書を出版しておられる記者で、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の代表幹事を務めている。第一回の食生活ジャーナリスト大賞では、科学的根拠(エビデンス)に基づく食情報を提供する消費者団体のFOOCOM.NET(フーコム)などが受賞している。このような会が、食品ロス推進の活動に対して賞を授けて下さったこと自体、食品ロスの推進と食品安全とは相反するものではなく、バランスをとって両輪で進めていくものだ、ということの証明だと信じている。